第257話 仮面の力

「おうおう、雰囲気が変わったな、楽しくなりそうだな!」


シュンッ!

ゼオンもにやりと不気味な笑みを浮かべながら、突撃してくる。


「楽しくねぇよ、早くダウンしてくれっての!」


ガギーンッ!ガギーンッ!

斧と大剣が何度も火花を散らす。


1撃1撃が重くなったのだろう、ぶつかり合うたびに部屋中に衝撃波が生まれる。


「いいな、烏!もっとだ、もっと俺を楽しませてくれ!」

「戦闘狂はてめぇじゃねえか、ゼオンさんよ!」

「やはり、戦いはこうでなくちゃな!血肉湧き踊るこの感覚、まさしく愛と言ってもいい!」

「じゃあなんで、闘技会をあんな賭博するイベントに変えちまったんだ!」


ガギーンッ!

斧と大剣が鍔競り合う。


「闘技会?ふんっ、あんなつまらないものをどうしようが俺の勝手だろ。あそこは俺にふさわしくないのさ!」

「あなた、強い人と戦いたいんじゃないの! 斬り落とせ!烈風の翼ゲイルウィング!」


バヒューンッ!

ジャギンッ!

風の大きな刃が、ゼオンの左腕に傷をつける。


「そうさ、お前の言う通り俺は強い奴を求めてきた、俺が最強だと証明するためにな!」

「だったら、闘技会が1番うってつけの場所じゃないのか!あそこには、国中から強者が現れる、その中で勝ち上がっていけばいいだろ!」

「ふんっ、何も知らぬ部外者が!闘技会でトップに君臨しようが、なにも良いことはないのだ!」

「そんなわけないだろ!トップになるってことは、国の象徴になるってことだ。それは、自分自身の証明になるんじゃねのか!」


ズザーッ。

クロウは斧に弾き飛ばされる。


その風圧が、右頬に傷をつける。


「トップになった者が得られるのは、なんだか知ってるか?」

「はぁ?だから、自分の強さの証明ーー。」

「そんなものは二の次だ!必ず手に入るものは、お前達の思っているような世界じゃないんだよ、闘技会は!」


シュンッ!

次はアーシェに迫ろうとする。


「させるかよ! 獣の声ケモノノコエ七式ナナシキ海人の舞セイレーン!」


グルンッ!

ガギーンッ!

大剣の回転斬りが、ゼオンの行手を遮る。


「お前は、闘技会で決勝にいったらしいな、どんな気分だった。」

「いいわけねえだろそんなの、今の闘技会はただの賭博会場だ、そこで得られるものなんてたかがしれてる。」

「そうだ、闘技会で優勝しても自分にいいことなんでないのさ、だから俺は闘技会を廃れさせた!優勝したものが、周りに妬まれ、恨まれ、殺されることがもう起きないように!」

「殺される?まさか、お前ーー。」


ガギーンッ!

再び2人は距離を取る。


「そうさ、俺が闘技会で優勝した次の日、俺の妻は何者かに殺された。同じ巨人族のな!死ぬ理由が見当たらない、あいつは俺を愛してくれた、俺のために泣いてくれた、笑ってくれた、そんな大切なものを失ってしまったのだ、闘技会なんてものがなければ!」

「ゼオン!お前は優勝したことがある、ならその時の嬉しさは、喜びはあったはずだ!確かに、お前の妻が殺される理由は俺も分からねえ、けど、今のお前みたいになることをお前の妻は望むのか!」

「望むさ!今まで、あいつは俺になんでもしてくれた、アドバイスも、叱咤も、俺を成長させるために。あいつのためなら、命を捨てていいと考えていたんだ!なのに、この国の奴らがーー。」

「そんな優しい人が、あなたに復讐を求めると思うの!あなたの奥さんが望むのは、乱れたこのエリュシオンを統一することではないの!」


ドクンッ!

ゼオンの心臓が大きく響く。



しかし、


「うるさい、俺はもう何もいらない!ただ自分のために力を使い、自分のために生きる!そのために国がどうなろうが、関係あるものか!」

「そんなことをしたらダメだ!ゼオン、確かにお前が辛いのは間違いない。けど、これ以上エリュシオンを壊しちまったら、お前もいつか外の国の奴らに喰われちまうぞ!」

「知ったことか!死んだら俺はあいつのところに行ける、それまでこの力で人生を楽しみ、破壊し尽くしてやるさ!」

「あなたは、1つ間違えているわ。」


スッ。

アーシェが、手に溜めた魔力を解いて、前に出る。


「アーシェ??」

「あなたが死んでしまっては、誰があなたの妻の意思を継ぐの?あなたに夢が、希望があったように、あなたの妻にも同じものがあったはず。


言葉を口にするアーシェの顔は、どこか泣き出しそうであった。



その言葉は、ゼオンにも響いていた。




だが、


「くそっ、俺の頭をいじくり回すな!俺は、俺は力だけを求める!もう、俺には何も残っていないんだ!!」


スッ!

ゼオンの手には、ワニの顔をした仮面が。


「お前、まさか!」

「この力で、俺は最強になる!」

「やめろ!!それには!!」


王がとった行動とは。

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