第253話 頭脳戦
さらに地響きは大きくなり、2人の前には6mほど身長があるだろう、巨人族の大男が現れる。
身軽な恰好をしているが、筋肉量はまるで岩でも埋め込まれているかのように分厚く黒い。
さらに、両腰には2mほどある斧を2本つがえている。
「この人が、もしかして。」
「お前たちか、我らの国を荒らしている不届き者は!」
「荒らしている?それは人違いではないかい?少なくとも、今待ちで起きている火事や小火騒ぎは関係していないよ。」
「嘘をつくな、貴様らが王国に入ってから異変が起き始めている。そんな天敵は、我自らが処断してくれるわ!」
ドスンッ!ドスンッ!
斧を構え、2人目掛け突進してくる。
「リィンさん、どう思う?」
「あの火事や小火は、王国の兵士がやったことではなさそうですね、だとしたら考えられるのは。」
「蠢く会が裏で糸を引いている、そして、王かそれに近しい人が容認しているかもね。」
「何をぶつぶつ言っている!消え去れ!」
バヒューンッ!
大振りされた斧は、その風圧で周りの建物の壁に傷をつける。
1撃で理解できる、これまでの兵士とは格が違うこと、そして何よりも掠っただけでも致命傷になりかねないということ。
2人は素早く動き出し、騎士団長に迫る。
「リィンさん!この巨人を動かせなくするいい案はあるかい?」
「頭には浮かんでいます、ただ上手くいくかどうか。」
「狙いは、足と腕かい?」
「え、そ、そうです!まさかノエルさんも。」
「同じ考えのようだ、なら流れに身を任せようか!」
ズザーッ。
ノエルはスライディングして足の間を通り抜け、右足に狙いを定める。
「
ゴスッ。
両手の掌底突きが、ふくらはぎに響き渡る。
だが、
「そんな軽い攻撃が、通用すると思うな!」
ブンッ!
左足でノエルを弾こうと振り回す。
「遅いよ!」
スッ。
地面に伏せることで、攻撃を避ける。
騎士団長の隙を、リィンは見逃していなかった。
「
ドゴンッ!
高く飛び、槍からの衝撃波が、右腕の関節を襲う。
「へっ!だから、そんな技通じないって言ってんだろうが!」
ブンッ!ブンッ!
斧を振り回し、リィンを襲う。
(1撃の威力はミラさん以上、だけど正確さの欠如と妙な癖がある。)
リィンは当たることなく地面に着地する。
「小さい奴らが、ごみはごみらしく吹き飛んじまえよ!」
「それが騎士団長の使う言葉かい?威厳も風格を、もはや野蛮人のそれじゃないか。」
「なんだと人族の雑魚が!」
「あたしたちが雑魚なのかは、これから決まりますよ!」
ドスンッ!ドスンッ!
騎士団長は冷静さを失い、辺りに斧を振り回す。
「おわっ!団長!冷静になられてください!」
「うるさい!邪魔をするなら、貴様らでも容赦せんぞ!」
「ひぃぃ!そんなーー。」
その言葉は嘘ではなかった。
片方の斧が、巨人族の兵士目掛け迫る。
「だ、団長ーー。」
「
グルンッ!
ガギーンッ!
力を解放したノエルのサマーソルトが、斧を弾く。
「お、お前、なんで。」
「うちのリーダーからの命令でね、誰も死なせないようにと。」
「へっ、それは大層な目標で!」
「遅いよ!
グルルルルンッ!
高速の回転蹴りが、再び右足に直撃。
「くっ、さっきから何度も!」
「そうです、何度も同じことをしているんです!
ザッザッザッ!
左腕に、連続で槍が突き刺さる。
「ちぃ、ちょこまかと鬱陶しいんだよ!」
ガギーンッ!ガギーンッ
ノエルとリィンは攻撃をかわしつつ、何度も同じ部位に攻撃を続ける。
そして、5撃目が入ったところで、
グラッ。
騎士団長の動きが鈍くなる。
「な、なんだ?体が、動きにくい?いいや、気のせいだな!」
バヒューンッ!
更に激しい風圧を斧から生み出す。
「そろそろあいつも、町の建物も限界みたいだ。終わりにかかろう、リィンさん!」
「はい!合わせます!」
ザザッ!
2人は同時に走り出す。
だが、騎士団長も学習していた。
(へっ、男の方が足、女が腕を狙ってくるんだろ。この隙は、敢えて作ってやったんだよ!)
先読みしていた騎士団長は、斧でノエルを襲う。
だが、
「そう、それを待ってたんだよ。」
「なっ!?」
ズザーッ。
騎士団長の攻撃よりも早く、リィンは右足にたどり着き、
「
スサーッ。
ジャギンッ、ジャギンッ!
川の流れのように、軽やかに切り刻む。
すると、
ブシャッ!
ノエルが打撃を与えていた足から、多くの血が流れ力が入らなくなる。
「んなっ!?」
「こっちも、チェックメイトだ!
ズンッ!
人差し指から薬指の3本に全力を集中させ、ピンポイントで衝撃を左腕に送る。
ピシャッ!
同じく、左腕からも血がこぼれる。
「うごぁ。」
ドデンッ!
騎士団長はその場に倒れこむ。
「な、なぜだ、まだ逆の手と足があるのに。」
「あなたは手は左利き、足は右利きですよね。歩き方と、筋肉のつき方で大体わかってました。」
「利き手と利き足、両方使えなくなったら大抵の人間は動けなくなる、加えてその大きい体だ。そう簡単には動けないだろ。」
「まさか、それを狙って。」
「僕らはこんなところで立ち止まっている暇はないんだ、失礼するよ。」
スタタタタッ。
ノエルとリィンは問題なく騎士団長を行動不能にする。
これが、頭脳役2人の戦い方だ。
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