第250話 アーク

「な、何だ、俺は何も知らない、なにも話せんぞ!」


取り残された男は、おどおど震える。


「そうか、なら質問だけするからお前は何も話さなくていい。」


スッ。

クロウは男の首元に手を当てる。


そして、


「では、私から質問させてもらおう。1つ目、これは王の命令か?」


ドクンッ。

男の心臓は大きく波打ったように感じた。


コクッ。

クロウはミラを向き頷く。


「では2つ目、これはエリュシオンだけの問題か?外部から何者かに干渉されているのか?」


ミラは続けて質問をする。


「3つ目、王国は周りの町から不当に税を搾取しているか?4つ目、闘議会が廃れ始めたのは、10年前からか?最後、王国に住む者は、エリュシオンの現状を知っているのか?」


スッ。

クロウは首から手を放す。


「ありがとうな、いろいろ分かったぜ。最後の質問だけがNOだった、つまりエリュシオンの実状を知らずに、こいつらはいい暮らしをしているようだ。」

「な、なぜだ、俺は何も話していないぞ!」

「口じゃねえ、お前の体が答えてくれてたんだよ。人ってのは、突っ込まれたくないことを聞かれたとき、脈が速くなる。しかも、こんな緊張状態じゃ尚更な。」

「……分かった、認めよう。だから、お願いがある。」

「この期に及んでか?叶えるかは別として、一応聞いてやる。」


クロウとミラは、男の前に立つ。


「お、俺の知っていることは何でも話す、だから俺をあいつから守ってーー。」


グシャンッ!

話している男の背中から、鎌の刃先が顔をのぞかせる。


「っ!?何も気配を感じなかった、まさか!」

「くそ、蠢く会か!」

「な、なぜですか、アーク様。」


スシャンッ。

男は鎌を抜かれ、その場で息絶える。


そして、黒いローブを着た者が闇の空間から姿を現す。


「アークって言ったか、てめぇ、なぜ殺した。」

「そんなの簡単さ、こいつはもう用済み、僕たちの邪魔をする存在はさっさと掃除しないといけないからね、僕はきれい好きだから。」

「貴様、命を何とも思わないクズだな、そうやってエリュシオンを支配するつもりか!」

「さぁ、どうだろうね。まぁ、今僕は君たちと戦っている暇はないんだ、代わりにこの子を置いていくから、たっぷり楽しんでくれ。」

「待てっ!アーク!」


シュンッ。

アークは再び闇の中に消え、投げ捨てられた結晶が光を放つ。



そして、


「ぐあぁぁ!!」

「ちっ、アーマーゴーレム!」

「余計な置き土産を、アレス、早急にこいつを倒し追いかけるぞーー。」

「いや、こいつは俺がやる。ミラは、会場の人の避難だ!あのアークってやつ、俺たちをアーマーゴーレム1体で殺せるとは思っていないはず、なら狙いは。」

「力なき観客ということか、了解した!無理するなよ!」


スタッ!

ミラは観客席まで飛び、全員を避難させる。


「さぁて、来いよ!」

「ぐぉぉ!」


ドシンッ!ドシンッ!

アーマーゴーレムは、全身に頑丈な鉄の鎧をつけ、拳には鉄のグローブを付けている。


さらに、巨体からは予想できないスピードでクロウに迫る。


「お前も、作り出されしまった存在なんだよな、悪い。 空の光ソラノヒカリ五式ゴシキアカツキ!」


スッ!

ズシャン!

2刀の突きが、防具で覆われていない部分を突き刺す。


「ふがぁ!!」

「ちっ!」


ガギーンッ!

痛みに怒りを覚えたアーマーゴーレムは、その逞しい拳でクロウを弾き飛ばす。


「力がこれまでのやつより上がってる、また何かしやがったな、蠢く会の奴ら! 雨の音アメノオト三式サンシキ霧雨キリサメ!」


グルルンッ!

ガギーンッ!

高く飛び、折りたたみ式剣での回転斬りが兜を弾き飛ばす。


ジャギンッ!ジャギンッ!

アーマーゴーレムも押されるばかりではない。


拳を振り回し、クロウの攻撃を受け止める。


「作り出す時に何かしてるな、こいつは俺の攻撃を先読みしてる、データ回収でもしてるか?だとしたら、こいつらは実験体ってか、クソが、反吐が出るぜ!」


ガゴーンッ!

アーマーゴーレムの拳が、闘技場の地面を砕く。


「ミラ!観客の避難は!!」

「もう完了したわ、終わりにしてあげなさい、アレス!」

「ああ、分かった。」

「うがぁぁ!!」


ズザザザザッ!

拳を地面に擦り合わせながら、摩擦で熱を発生させクロウを狙う。


「悪いな、必ず助ける方法を見つけ出す。非力な俺を恨んでくれ。  獣の声ケモノノコエ二式ニシキ獅子の重撃ネメアー!」


ズザッ!

アーマーゴーレムを飛び越えるほど高く飛び、そのまま大剣で顔から斬り裂く。



そして、


シュイーンッ。

アーマーゴーレムは灰となり消える。



闘技場には、クロウとミラが残った。


ミラは優しく声をかける。


「アレス、背負いすぎるな、お前の罪ではない。」

「ありがとうな、ミラ。でも、ゴーレムにされた奴らが死ななきゃいけない理由は、俺には分からねえんだ。だから、せめて俺だけでも忘れずにいたいんだ。」

「……アレスがそう言うなら止めはしない。だが、それはお前の良いところでもあり悪いところでもある。背負うのは、1人じゃなくていいこと、忘れるなよ。」

「ああ、仲間を頼ることはこれまでにたくさん教えられてきた。ミラも、俺の助けになってくれるか?」

「愚問だな、さあ、外に出よう。」


スタッ、スタッ。

2人は闘技場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る