第249話 乱入者

「正気か貴様ら、我々は100人の精鋭部隊、たかが2人で突破できるとでも?」


カチッ。

兵士はすでに腰に差しているサーベルに手をかけていた。


「お国の精鋭部隊か、そんな奴らが100人も俺たちの相手をしてくれるなんて、ここの王様は羽振りがいいんだな。それとも、邪魔者を排除したいだけか?」

「抵抗しないのなら、城に連れていきバーン王の判断を仰ぐのみ。戦うような愚行を選ぶ理由が、我々には理解できん。」

「理解する必要はない、私たちは私たちの考えで動いているのだ、邪魔をするなら容赦はしない。」


ギリッ。

ミラの目がさらに鋭くなる。


「はぁ、交渉の余地もないとは、なら仕方がない。全員、この2人を捕らえよ!手足の1つや2つは切り捨てても構わん!」

「おおぉぉ!!」


ズザザザッ。

兵士たちは抜刀し、縦を構えながら突進してくる。


「さぁて、俺たちも作戦開始だ、行くぞミラ!」

「あぁ、私に遅れるなよ!」


ズザッ!

2人も兵士を迎え打つ。



まずは、クロウが先陣を切り裂く。


「なぁ知っているか、手と足ってのは2本ずつしかねぇんだよ、親から授かったこんな大切なもん、軽々しく切り落とそうとしてんじゃねえよ!」


ガゴーンッ!

鋭い正拳突きが、5人の兵士を押し返す。


「うごぁ!」

「な、何だこいつの力、鉄の盾が凹んでやがる!?」


攻撃を受け止めた兵士の盾は、その縦の真ん中にくっきりと跡が残っていた。


「ちっ、なら女から!」


ザザザッ!

数人の兵士はミラにターゲットを変える。


「ふぅ、女だから倒せると判断したか、やはりこの国の思想は古すぎる!」


ドゴーンッ!

大振りの蹴りが、クロウの攻撃以上に兵士たちを吹き飛ばす。


辺りには、持っていた剣や盾が落ちる。



中には、既に刀身が折れてしまっているものも。


「な、なんだこいつらは、話で聞いていたよりも化け物じゃねえか。」

「化け物とは、言ってくれるではないか。私もアレスも貴様らと同じ人間だ、化け物などではないぞ。まぁ、強いて言えば精鋭部隊がこの弱さでは、国の未来が不安で仕方ないがな。」

「な、言わせておけば!弓兵!一斉掃射!」


ヒュンッ!ヒュンッ!

空高く放たれた矢が、雨のようにクロウたちに降り注ぐ。


「こんな攻撃、テーベのエルフたちの方がよっぽど脅威だったぜ。遅いんだよ、お前たちは何もかも!」


スススッ!

俊足で矢を躱し、一気に兵士の目の前に。



そして、


「拳のケンノヒビキ三式サンシキ猛雷タケリイカヅチ!」


グルンッ!

ドスンッ!

スピードを乗せた回転蹴りが、さらに複数の兵士たちを吹き飛ばす。


「このっ!」


スッ!

1人の兵士が勇敢にも、サーベルを振り下ろす。



だが、


ガギーンッ!

クロウの拳は、そのサーベルごと砕き兵士を吹き飛ばす。


「げはっ。」

「お前は背後を取ったつもりだったんだろうが、逆だ。近づいてくるのを待ってたんだよ。」


ズザーッ。

ミラの方もさらに数人の兵士が倒れこむ。


「なんだ、私たちを試しているのか?もしそうなら、早く本気を出したらどうだ!」

「く、くそっ。」


ジリッ、ジリッ。

兵士たちは少しずつ後ずさる。


それもそのはず、彼らは負けを知らない。


精鋭とは名ばかりで、実際に戦った経験があるのは近くに出没するモンスターのみ。


生死の狭間で戦い続けたクロウたちとは、経験も覚悟も雲泥の差であった。


「なぁ、お前らが賢いなら気付いているだろ。俺たちはまだ、拳と足しか使っていない、てことは、俺たちの作戦はまだたくさん残っている。」

「私の斧は寂しがり屋でな、そろそろ暴れたいと言っている、安心しろ死ぬ寸前で止めてやるから、早くかかってこい。」

「ふ、ふざけるな!こ、こんなのただの虐殺だ!」



ピキーンッ!

ミラの中で、何かが切れる音がした。


「虐殺、だと?」


ズンッ!

あたりの空気が明らかに重くなる。



そう、ミラから発せられている圧が何倍にも膨れ上がっていた。


「貴様らは、本当の虐殺の場面を目にしたことがあるか。」

「な、何を言ってやがる!今まさに、お前らがやっていることだ!」

「そうか、これが虐殺か。……なら、10年前にこの国から消された私の町の人々は何だったんだろうな。」


ズンッ、ズンッ。

ガラララッ。

ミラは斧を引きづりながら、兵士に近寄る。


「助けを乞うものを切り捨て、男、女、子供、老人、誰構わず殺した。そして、私の父と母を連れ去った。私の中のあの悲劇は、虐殺ではないのか?だったら、何だというのだ、教えてくれ。」

「10年前、まさかお前は……。」

「そうだ、私はアトラース家の生き残り、ミラ・アトラースだ。この名前を聞いて、知らない者はいないだろ。」

「そ、そんな、死神と戦ってたのか……。」

「逃げるなら逃げろよ、覚悟のない兵士野郎。ただ、1つ訂正だ、お前たちが戦ってるのは死神じゃない、《レイヴァーに協力している、俺の大切な仲間だ。》その仲間に剣を抜いた、つまり俺の心臓に剣を突き刺そうとしたのと同じだ、だったら次はどうなるか、分かるよな。《ここ、重要、上書きしたか?》」


ズザッ、ズザッ。

タタタタタッ。

兵士たちは猪のごとく、まっすぐ逃げ出す。


「お、おい、待たんか!」


そこで、1人だけ取り残された男が。


「さぁて、少しお話ししようぜ、隊長さん。」


クロウたちは、圧倒的勝利をつかんだ。

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