第245話 いざ中へ

サリアとノエルの2人は、図書室を探索していく。


コリントスを含め、多くの書物や資料は王国に回収され、残されているものは数少ないと情報は得ていた。


そして、ノエルが探し出したいもの。





そこに執着して、資料を漁っていた。


「確かに、多くの町の情報が集められてる。それも、その地域に住む人の個人情報とか、町の特色、戦士の数まで書いてあるよ。なんで王国がこんなに細かく調べる必要があるんだろ?」

「何か調べておかないといけない理由があるんだろうね。そういう時は、何か隠し通したいことがあるってのが定石だね。」

「隠す、か。王国が全ての町、国民に何かを隠し通してそれで何か解決するのかな?良い方向に進むイメージがサリアにはつかないよ。」

「僕もそう思うよ、けど、国を統治する人は周りに自分を誇示したいものなんだ、だから特にバレたくないものには注意を払う……これだ。」

「何かあったの?」


スタッ。

サリアはノエルの隣に歩み寄る。


その本には、



ダウンタウンは国に5箇所存在する、外部に漏らすわけにはいかない、速やかに対処されたし。




「やっぱり、ダウンタウンは存在してたんだ。てことは、対処ってのは……。」

「くそっ、最悪の場合選択をとるだろうね、今のエリュシオンなら考えられなくもない。」

「っ!?」


ノエルの怒りが、身体中から溢れ出ていることにサリアは気づく。


コリントスの時と同じだ、感情に呑み込まれそうになっていた。



ザバッ。

そんな姿を見たサリアは、ノエルを真正面から抱きしめる。


咄嗟のことに、ノエルの頭も回転しきれない。


「な、なにをするんだい!?こんなところでーー。」

「辛いのは分かるよ、憎いのも、怒りを覚えるのも。それは、ノエルくんが人である証明にもつながる、こんなことを書かれてて嫌な気持ちにならないわけがない。けど!殺意に呑まれちゃダメ!ノエルくんは、今のノエルくんのままでいて欲しいから。」

「……すまない、また呑み込まれそうになってしまってたんだね、助かったよ。だめだね、僕は、気を付けていたつもりではいたけど、それでは足りなかった。また、君に助けられてしまったーー。」

「助けるのなんて当たり前だよ、仲間なんだから。それよりも、サリア的には


ニコッ。

ノエルを安心させるには十分な、サリアの優しい微笑みが彼を包み込む。


その優しさは、いつだかアイアコス家で暮らしていた時の母の優しさと似ていると感じられた。



「……うん、ありがとう。囚われないように気をつけるけど、また危ない時は手を借りてもいいかい?」

「もちろん!いくらでも助けちゃうよ!だから、前にも言ったけどサリアが危険な時はしっかり助けてね!」

「もちろんだ、自分の命と同じくらい君を守り抜くと誓う。」

「やっと優しい顔になってくれた、それじゃあ作戦続行ね!」


スタッ、スタッ。

サリアとノエルはさらに資料を漁る。


すると、さらに気になるものをサリアが見つける。


「ノエルくん!これ見て!」

「ん?これは、過去の闘技会の記録だね。ちょうど、血のホワイトデイから1年後の分から載ってるね。」

「えーと、これが優勝者の部分だ。……えっ、こんなことありえる?」



そこに書かれていたのは、



10



そしてその名前は、


「バース……確かこの名前って。」

「ああ、今の王の苗字だ。ゼオン・バースが今の王だが、ここに載っているのは全てバース家の人たちだね。それも、毎年違う名前ということは。」

「奇跡的に全員が最強に近い存在だったか、意図的に仕組まれたものなのか、ってことだね。」

「これを打ち破る存在はいなかったのだろうか?それこそ、ミラさんやそのご両親も相当の力の持ち主のはず……いや、この時にはもうミラさんのご両親は行方不明になっていたのか。」

「優勝を脅かす存在だったから、追放したかどこかに捕まえられているか、どっちもあり得そうだね。」


2人が調べていると、最後の本棚で重要なものを見つける。



《《エリュシオン再開発を開始》。》



この言葉だけが記された書類があり、中身は抜き取られていた。


「いやな予感しかしないね、この書類の中身がないのはたぶん王国の人も知らないはず。」

「これだけ残したってことは、サリア達のような第3者に見せるため?だとしたら、既に1度は忍び込まれていることになるね。資料を盗むとしたら考えられるのはーー。」

「蠢く会、だろうね。猿の仮面のことといい、エリュシオンにも蠢く会は深く関わってきている。もしかしたら、この国を乗っ取ろうとしているのかもしれない。もし、そんなことが起きてしまったら。」

「ここを足掛かりに、アトランティスを自分たちのものにする。あの人たちならやりかねないね。」


2人が考え事をしていると、


「誰かいるのか?」


ガチャ。

途端にドアが開かれる。


そして、1人の巨人族が入ってくる。



「なっ!?気配を感じなかったのに何でーー。」

「隠れる場所なんてないよ、どうすれば!?」



はたして、2人の運命は。

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