第241話 力の証明
スタッ、スタッ。
ミラは闘技場の選手立ち位置に向かい、周りを見渡す。
「うぉぉ!!出てきた出てきた!」
「今回唯一の女戦士だ!さあ、どんな風にやられてくれるかな!!」
そう、ミラは今回の闘技会において唯一の女性参加者だった。
それもあり、観客はあまり見ない女戦士に興味津々。
(なるほど、私に期待されてるのは勝ちではなく、どのように男戦士に痛ぶられるか、というところか。くだらん、下賎な輩だ。)
ズンッ!ズンッ!
ミラの向かい側からは、4mはあるだろう大男が出てくる。
体は黒く焼けており、頬には多くの傷が、体も筋肉もりもりでゴリラを巨大化させたかのようだ。
「さあ!第2回戦は、今大会唯一の女戦士、ミリアと、全大会3位の実力者、カイとの一戦だ!さあみんな、盛り上がる準備はできてるか!?」
「うぉぉ!!」
歓声が、稲妻のように会場内に鳴り響く。
(よしっ、まず素性はバレていないな。ミリアか、アルテミスと似た名前、割と良いかもな。)
ちなみに、この世界に存在するか確認された時のための対処法として、テーベの時に出会ったミリアの名前を借りたということにしようとなったのは、出場する数分前に決めたこと。
念には念を入れたが、不要な心配であったようだ。
「さあて、小さい女、どんなふうに死にたい?」
「そうだな、私の命はもう捧げたい場所があるんでな、これからタイミングをじっくり決めていこうと思う。」
「舐めてんのか、てめえは俺に遊ばれて殺されるんだよ!」
「さあ、さあ昂っております!それでは、第2回戦、スタート!」
ガゴーンッ!
大きな鐘の音と共に戦いが始まる。
カイは、双剣を構えミラに突進する。
一方ミラは、
スッ。
拳を構え、いつも背負っている斧はこの場に持ち合わせていない。
その理由は1つ、ミラが死神とバレないようにできる限り使わないで倒すことにしようとクロウとの話し合いで決まった。
そして、クロウも張り合おうとして拳だけで挑むことにし、お互い決勝までは力を隠すことに決めていた。
「さあ、一振りで死んでくれるなよ女!!」
「そうだな、一振りで死んでは盛り上がりに欠けるからな。」
ドスンッ!
ズザッ!
双剣が勢いよく振り下ろされ、地面に傷をつける。
ミラは、持ち前の身軽さで容易く避ける。
(こいつ、本当に前回の3位か?いや、前回の戦いが仮面をつけたアレスだったから感覚が麻痺してるということにしよう。)
スッ!スッ!
大男のカイの視界に捉えられない様に、素早く動き照準を合わせられないようにする。
まるで、獲物を狙う獅子を兎が馬鹿にされているかのよう。
「ちっ、ちょこまかと動くんじゃねえよ雑魚が!」
「雑魚だと思うなら、早く倒してしまえばいいだろう。まだ私は、一撃も入れてないぞ。」
「調子に乗るな、女の分際で!」
カチンッ!
ミラの中の何かが、沸々と煮えたぎる音がした。
「今、なんといった。」
ズンッ!
ミラはその場に立ち止まり、カイを睨みつける。
「あん?聞こえなかったか、女風情が男に盾突いてるんじゃねえって言ってんだよ!!」
「……そうか、お前はそういやつか。」
ゴォーッ。
ミラの周りには、圧縮された空気が渦巻いているように見える。
彼女の顔には、怒りが満ちており拳に力が込められていた。
「疲れたか?なら、これで終わらせてやるよ!」
ズンッ!ズンッ!
双剣を構え、カイはミラに突き進む。
「はぁ、まだお前のような奴がエリュシオンにいるのだな。過去の思想に囚われた、古い巨人族が。」
「なにぶつぶつ言ってやがる!空!切り刻まれろ!」
シュンッ!
双剣がミラ目掛け振り下ろされる。
だが、
「なに!?」
ガシッ。
ミラは双剣を刃が手に触れない位置で掴んでいた。
そう、素手で剣を掴んだのだ。
「んな、ばかな!双剣だけでも、6kgはあるんだぞ、それを素手で受け止めるってのかーー。」
「すまない、アレス。こいつには、私でも少しばかり怒りが抑えられない。だから、この一撃は多めに見てくれ!」
バギーンッ!
素手の力だけで、鋼鉄でできた双剣を砕く。
砕けた双剣を目にしたカイは、驚きをかくせない。
その隙が、ミラには十分過ぎる時間であった。
「アレスの力、借りるぞ。
スッ!
ガゴーンッ!
右拳の正拳突きが、カイの腹を突き刺す。
「ふがっ!」
ズザッ。
ドデンッ!
そして、その場に倒れ込む。
スタタタタッ。
審判が、様子を見にくると。
「き、気絶している。戦闘続行不可、よって、ミリアの勝利!」
「ふぅ、女を舐めるなよ、古い男。」
スタッ、スタッ。
ミラは控え室へ向け歩き出す。
観客は、一瞬のことすぎて声を形にすることすらできない。
ミラの1回戦、静かに勝利を飾った。
「やったな、ミラ!」
「当たり前だ、けどすまない、少し早く終わらせすぎた。」
「気にすんな、お前があんなに怒ってたんだ、何か理由があるんだろ。」
「相変わらず優しいな、次はアレスの番だろ?」
「ああ、俺の技を一瞬で使いこなしたミラには後で聞きたいことがあるが、まずは俺もやってくるよ。」
「分かった、楽しんでこい。」
パチンッ。
2人はハイタッチをし、クロウが闘技会第3回戦に向かった。
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