第240話 開戦

カーンッ!カーンッ!

甲高い鐘が鳴り響き、開戦の合図が。


「うぉぉ!!」


その合図と共に、観戦者たちが大盛り上がりを見せる。


それもそのはず、この闘技会には博打も含まれている。


優勝する参加者の予想を当てた者には、ベットされたお金の全てと追加で国から報酬がもらえる。


この政策も、血のホワイトデイが起きてから導入されたものであり、今はとうに当たり前なものになってしまった。


「さあ、やってまいりました!年に一度の祭典、闘技会の時間が!!今年も選りすぐりの戦士達64名が参加だ!!楽しむ準備はいいか、お前ら!!」


声を大きくする魔法を使い、男の司会者らしき人が観客を煽る。


「よっしゃー!!」

「今年は勝ってやる!一位当てるのは俺だ!」


観客のテンションも最高潮。



そして、各控室にも案内人が入ってくる。


「それでは、第一回戦から始めます。念のため、皆さんにルールのおさらいだけさせて頂きます。」



闘技会ルール。


1試合5分、武器はなんでも有り、勝敗は相手がギブアップか審判が戦闘不能と判断した場合のみ。


最悪の場合、命を落とす者も以前はいた。


そのため、参加者も命を落とすリスクを背負って参加することにサインする必要がある。


そして、すでに記入し終えた64名は、命を賭けた戦いをすることになる。



優勝者は、国で欲しいもの、なんでも手に入れられる。



「以上です、では、1番と15番の方会場へ。」


ドスンッ!ドスンッ!

2人の巨人族が地響きを立てながら歩く。


「さあて、この筋肉で倒せない奴はおらんぜ!」

「力しかない脳筋野郎に、負ける首は持ってねえよ。」

「ではお2人、こちらへどうぞ。」


スタッ、スタッ。

2人は闘技場のステージに向け歩き始める。


「巨人族同士での戦い、始まるな。」

「ああ、少し予想外だったな、試合前に飲む宣誓の水が今回なかったことは。」

「一度それを導入した事で、毒盛りをする奴がいたんだろ?だから、運営側で危険だと判断したんじゃねえか?」

「まあ、そう捉えるのが正しいだろうな。ただ、少し引っかかるのも事実だ。少し警戒しておくか。」


2人も試合の進みを観察していた。


そして、第一回線が開始。



巨人族の斧と拳がぶつかり合う。


会場はその戦闘を見て狂気し、控室の選手達も今年の参加者の力を測っている。



斧で吹き飛ばせば、拳で殴り返し、一進一退の戦いが繰り広げられる。


(巨人族の力、確かに強いけどミラほどじゃねえ。これなら渡り合うことが出来るだろうけど、ミラはいったいどうなってる?こいつの力は、どう考えても他の巨人族よりも格上だ、ハーフなのが関係するのか?)


ジーッ。

クロウはミラを見つめる。


「なんだ、アレス。私に何かついているか?」

「いいや、ミラを倒す方法を考えてたんだけど、ちょっと思いつかなかったんだよ。決勝でぶつかるまでに、考えださないとな。」

「かといって、私が手加減したらアレスは怒るだろ?」

「当たり前だ!本気の勝負でしか、語れないこともある。お前が背負ってるものも、戦いを通して知れる事ができるなら全力でぶつかってきてほしいぜ!」

「……ふっ、やはり変わっているな、アレスは。それが、皆を惹きつける魅力なのかもしれないが。おっと、1試合目が終わるぞ。」



2人が魔法で中継されている画面を見ると、


「ぐはっ!」


ズシャン!

拳で戦っていた巨人族が、斧で切り裂かれる。


ドテンッ!

体から血を流し、その場に倒れ込む。



そして、


「そこまで!勝者、リケ!」

「へっ、そんなもんじゃ俺はやれねえよ。」


斧を持った巨人族が勝ちを得る。


すると、




「ああっ、もう負けちまった!」

「お前にも賭けてたんだよ!もっとちゃんとやれ!」


観衆が罵声を浴びせる。



その声は、画面からではなく入り口から控え室にいるクロウ達にも届いていた。



「ちっ、胸糞悪いな。あいつも、全力で戦ってたのになんで周りの奴が馬鹿にできる!」

「これが、今のエリュシオンなんだ。昔は、負けた戦士には拍手が送られていたのだが、今となってはこの有様だ。分かるだろう?私もアレスも、勝利したとして称賛の声がかかるとは到底思えないことが。」

「……ああ、でも俺たちは勝たなきゃならない。このエリュシオンを作り上げた元凶を探し出すためにはな。」

「なあ、最後に1つ確認させてくれ。なぜアレスは、テーベだけでなくエリュシオンも救おうとするんだ?アテナイだけで良いのではないか?」


スッ。

ミラはアレスの目の前に立つ。



その答えは、



「そんなの、


当たり前なことを聞いてくるなと言うような、きょとんとした顔で答える。



その言葉は、表情は、ミラにはとても新鮮だった。


「ふっ、ありがとう。おっと、次は私の番みたいだ、行ってくる。」

「ああ、しっかりとな。」

「任せろ。」


スタッ、スタッ。

戦いに向かうミラを、クロウは見送ると、




「うぉぉ!!」


外の歓声がミラを包んでいる声が響いた。

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