第242話 上の一言
「さあ、どんどん次に行こう!次は3回戦、この国にいて彼の名前を知らない者はいない、切り裂きジャックを継ぎし男といえば彼のこと、リーパ!」
「うぉぉ!!」
大歓声が男を迎え入れる。
そう、その男は最初にクロウのことを馬鹿にしてきた男だ。
リーパと呼ばれる彼は、身長5mほどあり両腕には大きなドクロの刺青が。
大きな斧を背負い、他の巨人族よりはやや細身の筋肉質な男であった。
「そして、今大会唯一の人族、初出場、アレス!」
スタッ、スタッ。
クロウが闘技場に出ると、
「うーっ!」
何ということだ、ブーイングなんてものではない、試合に大きな影響を与えかねないほどの轟音が響く。
(おいおい、こんなにアウェイ感出されたら……いつものと同じすぎてやる気出てくるじゃねえか!)
アテナイの時も、テーベの時も同じ、多くの者から追放された経験があるクロウからしたら、この程度のブーイングはなんてことなかった。
「よお、さっきぶりだな小人!お前とは、もう少し後でやり合いたかったけどよ、仕方ねえよな。ここで死んでくれや!」
「死ねと言われて死ぬやつを俺は見たことがない、それが実現できることを願っててやるよ。」
ニヤッ。
クロウはこのアウェイの中、余裕な表情を浮かべる。
「それでは、第3回戦、スタート!」
ガゴーンッ!
開始の鐘が鳴るとともに、
シュンッ!
クロウの目の前からリーパが姿を消した。
そして、
「取った!」
クロウの背後に姿を現し、斧を振りかざしていた。
だが、
スッ!
クロウはしゃがむことで横振りされた大斧を避けた。
「なにっ!?」
「取った?俺に虫でもついていたか?」
「ふ、ふざけるなよ、人族が!」
ブンッ!ブンッ!
挑発されたリーパは、大斧を縦横無尽に振り回す。
「おおっ!いけいけ!」
「おせ!おせ!」
観客にはとても反響があり、クロウは守る一方のような形が出来上がっていた。
「ほらほらどうした!逃げるだけじゃ戦いには勝てねえぞ!」
「知ってるよ、今まで何度この体で死地を潜り抜けてきたと思ってやがる。」
シュンッ!
スタッ。
斧が振り下ろされると同時に飛び上がり、その斧の上に着地する。
「なにっ!?」
「お前の戦い方には無駄が多すぎる、そんな力任せに振るうんじゃ勝てる戦いも勝てねえぞ。」
「ふざけんじゃねえぞ!クソガキが!」
ブンッ!
斧を振り上げクロウを切り裂こうとするが、先読みしていたクロウは高く飛び上がり男の顔面に迫る。
「なんなんだ、お前ーー。」
「お前の馬鹿にした、ただの人族の男だよ。世界を知れ、てめえの知る小さい世界のままじゃ、この先生きていけねえぞ。
グルンッ!
ガゴーンッ!
ジャンプした勢いを乗せ、全身の力を足に集中させた回し蹴りが男の首を打ち抜く。
「ふぐっ!?」
男は白目を剥き、その場に膝をおる。
ドダンッ!
そして、ミラの戦い同様一撃で終わりを迎えてしまった。
もちろん、クロウの様子は、
(やべぇ、少しでも長引かせてあいつらの時間を稼ぐって作戦なのに俺も早く片付けてしまった!)
顔にこそ出ていないが、内心とても焦っていた。
「し、試合終了!勝者、アレス!」
実況者がその言葉を発した瞬間、
「うーっ!!」
観客からのブーイングがさらに大きくなった。
中には、罵声を浴びせる者の声も。
「ふざけんな!こいつにいくら賭けてると思ってるんだ!」
「余所者が!しゃしゃり出てきてんじゃねえよ!」
観客は言いたい放題。
もちろん、クロウは我慢していた。
だが、1つの言葉が彼を許さなかった。
「何が切り裂きジャックの申し子だ、雑魚戦士!遊びでこっちはやってるんじゃねえんだよ!!」
その言葉は、クロウの中の火をつけるには十分すぎた。
クロウは黙って聞き過ごすことはできなかった。
「おいっ!今こいつのことをバカにしたてめえらに一言だけ言っておく!」
怒りを乗せたクロウの声は、会場内に響き渡る。
その目は、カラスのように鋭かった。
「ここにいる奴らは、優勝するために命を賭けてるんだよ!負けた奴の人生も、勝ったやつの人生もこの先どうなるか分からねえ、なぜなら、お前らの罵声1つで壊れちまう人間だっている、だから1つ忘れんな!お前らの言葉の重みを!金と命は違う、命は、紙っぺらじゃねえんだぞ。」
スタッ、スタッ、スタッ。
クロウはそのまま控え室に戻る。
会場は静まり返り、実況も言葉を失っていた。
控え室に降りた先では、ミラが待っていた。
「ミ、ミラ。」
「やってくれたな、私も人のことを言えた立場ではないがかなり派手に。」
「あ、あはは、やっぱりやりすぎたよな。後でアーシェ達から怒られるのが怖いぜ。」
「そうだな、そうだ!2人して怒られるのもなんだからアレス、2人分怒られてくれないか?」
「嫌だね!何が何でもミラも共犯にしてやる!」
「硬いことを言うな、仲間を助けると思って。」
2人のやりとりは、どこか笑顔でこのイベントを楽しんでいるように見えた。
ところ変わりここは、エリュシオンのどこか。
「王よ、今年の闘技会は何やら様子がおかしいかもしれません。」
「そうか、薄々感じていたがネズミが紛れ込んでいるようだな。それも、とても鋭い牙を持ったネズミが。」
「如何しますか?」
「良い、闘技会が終わった後で私が出る。警戒を緩めるなよ。」
「承知。」
王と呼ばれていた者と、1人の男の会話。
これは、何を指すのか。
第46章 完
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第46章まで読んで頂きありがとうございました。
闘技会へと参加したクロウとミラ。
初戦は上場の滑り出し、しかし裏では何かが動いていた?
王国のことがわかる!?
闘技会も進むよ!
レイヴァー応援してるぞ!
と思ってくださいましたら、
ぜひ、レビューの記載
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ここまで読んで頂きありがとうございます!今後とも宜しくお願いいたします!
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