第236話 カバラへ

コリントスから馬車に揺られること、約5時間。


王国カバラにレイヴァーは入った。



カバラは、テーベの王国セレスとはまた違う賑やかさがある。


辺りの巨人族は酒を酌み交わし、力自慢をするもの、大きな声で笑うものなど多くの人でにぎわっていた。


出店や酒屋がとても多く、コリントスと比べても賑やか度合いが桁外れだ。


そんな中、レイヴァーは馬車を降りる。



念のため、ミラはフードを被っていた。


「ここがエリュシオンの首都、カバラか、この雰囲気は初めて経験するな。」

「そうね、賑やかさはこれまでのどの町よりもすごいわ、ただ……。」


アーシェが周りを見ると、とある姿が目に映る。


「あの防具を着た人たちは別ね、ここの雰囲気に全く呑まれていない、とても警戒しているように見えるわ。」

「闘技会は明後日だよね?そのための警戒ってことは考えられない?」

「そうみたいが、様子がおかしい。私がこれまで経験してきた闘技会でも、こんなに警備がいることはなかった、いつもとは何か違う。」

「用心した方がいいってことだね、クロウガルト、先に宿をとらないかい?」

「そうだな。」


レイヴァーは近くの宿屋に向かった。


キィーッ。

ドアを開けると、


大柄の元気な女性オーナーが出迎える。


「おお!6名様もいらっしゃるなんて珍しい!しかもいろんな種族がチームになってるなんて!あなた達、お名前は?」

「アテナイのギルド、ナウサ所属レイヴァーといいます。6名分のお部屋をお借りしたいんですが、空いてますか?」


この場は、リィンが先頭に立って話を進める。


「えーとね、3人部屋が2つならあるけど……、お客様たちには厳しいわよね。」

「そうですね……。」


オーナーの言うとおり、レイヴァーのメンバー構成は男2人、女4人のため戸惑ってもおかしくない。


だが、その空気感を破ったのはミラだった。


「いや、問題ない。泊めさせてもらえるのであればそれだけでありがたい。」

「え、いいのかい?だって、あなたは女性だろ?」

「ああ、よく間違われるんだが、私は男だよ。だから、気にすることはないさ。」


ドクンッ!

他のレイヴァーがミラを見つめる。


「ああ、そうだったのかい!悪いね、変な気を使わせちまって、じゃあこれ鍵ね!2階の2部屋使っておくれ。」

「すまない、ありがとう。」


ミラは2部屋分のカギを受けとり、そのまま2階に上がる。


その後を、他のメンバーもすぐに追いかける。



そして、2階の広間にて、


「ミラさん!何考えているんですか!ミラさんは女性ですよね!?」

「何をいまさら、当たり前じゃないか。この体で男だったら怖いだろ?」

「じゃあ何でさっきは噓をついたの?私たちは別にここの宿にしなくても良かったのよ?」

「私がミラ・アトラースだと悟られないためだよ。少しでも危険は排除しておきたい、それに私はアレスとアイアコスと同じ部屋で気にしないが?」

「確かに、クロくんとノエルくんなら何もないとは思うけど……。」


女性3人の視線が鋭く突き刺さる。


特に、クロウに対して。


(あれ?俺既に何か悪いことしたか?)


スッ!

クロウが頭を回転させていると、目の前にリィンが。


「クロウさん、一応言っておきますがミラさんが魅力的だからって何もないようにしてくださいよ!」

「ぁ、ああ、そんな鬼の形相で言わなくても分かってるよーー。」

「分かってなさそうだから言ってるんです!」

「は、はい!ノエルも、気を付けような。」

「うん、分かっているよ。」


そうして、クロウ、ノエル、ミラは同じ部屋になった。



その状況は、女子グループの中ではやはり話題になった。




特に、リィンが慌てているように見える。


「そこまで焦らなくてもいいんじゃないかしら、クロウもノエルランスも弁えて行動する人たちだから。」

「まぁでも、不安にはなるよね。ミラさん背が高くて足も長い、一番スタイルいいもんね。そこら辺の男の人なら虜になっちゃうかも?」

「うー、あたしは信じたいですが、なんかこうすごくもやもやします!」


それをよそ目に、クロウ、ノエル、ミラは部屋でくつろいでいた。


「こうしてみると、ミラってかなり背が高いよな、何センチなんだ?」

「だいたい、190cmくらいだろうな、私は人族と巨人族のハーフだからそこまで高くはない方だぞ。」


この言葉が、ノエルの頭に響き渡っていた。



そう、何度も何度も。


そして問いかける。


「え、ミラさんはハーフなんですか?」

「ああ、アイアコスのいる所では話していなかったか?私は、人族と巨人族のハーフ、それでアテナイにいなかったからオールドタイプなんだ。」

「そ、そうですか。」


ノエルの表情が、どこか暗くなったように見える。


「後よ、ミラの名前も変えないとだよな。」

「そうだな、名前でばれかねないし、闘技会にもこの名前は書けんからな。」

「何がいい?ミーシャとか?」


ゴツンッ。

ミラの拳が、クロウの脳天に。


「いきなりなんだ!」

「私の叔母の名前だ、勝手に借りられるか!」

「知らねえよその家族関係!」



2人のやり取りは、ノエルの耳には届いていない。


そして、ぼそっと呟く。


「ハーフ、仮面、斧、女性……僕の、。」


ノエルがこぼした言葉の意味とは。

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