第235話 リィンの修行
6人は準備を終え、馬車に乗り込み王国カバラへ向け出発した。
乗り込んで数分、クロウはあることに気づく。
「なあ、俺たち乗り物でどこか向かうの初めてじゃないか?」
「え?……確かに、私たちはいつも歩いて目的地に向かっていたわね。」
「クロくんとアーちゃん2人の時からそうなら、確かに初めて乗ったね!なんで今まで乗らなかったんだろう?」
「んー、考えられるのはアーシェの食費が馬鹿にならなーー。」
ボァッ!
掌に瞬時に炎がともされる。
「何か言った?」
「何も言ってません、気のせいです。」
「相変わらず仲が良いのだな、アレスとアフロディテは。」
「そうか?まぁ、悪かったらこんなに長く付き合ってはいないよな。」
「付き合う!?」
リィンが驚きの声をあげる。
「そりゃそうだろ、旅に付き合ってもう何か月経つか。相性が悪かったら長くは続かないのが普通だろ?」
クロウの予想通りの返しに、サリアとノエルは小さくため息をつく。
気のせいか、アーシェの顔は少し赤らんでいるように見えた。
そこから、リィンが取り組んだ修行についての話に変わった。
「ミラとジュールが修行をつけたんだろ?相当厳しいものだったんじゃないか?」
「まぁ、優しいものでなかったのは私も承知している。けど、キヒの固い意志と努力、そして器用さが短期間でアテナ家の槍術を習得するのにマッチしたんだろう。ジュールの
「そんなに褒めないでください。あたしは、教えてくれるお2人のアドバイスが完璧だから吸収するのが早かったんです。あたしだけの力じゃーー。」
「それでも、リィンの今手にしている力はあなたの努力の結晶であることには変わりないわ。」
スッ、スッ。
アーシェはリィンの頭をなでる。
「い、いきなりどうしました!?」
「いいや、なんでだかリィンは自分を過小評価しすぎることが多いと思う。あなたのその器用さも、努力することも当たり前のようにしているけど、周りから見たらものすごい偉大なことなのよ。」
「そ、そんなことーー。」
「周りを見なさい、無茶をするなって言っても無茶をするバカなクロウ、1人で抱え込んで苦しんでたバカな私、もちろん私たちも努力はしているわ。けど、リィンの努力は周りを助けるためにとても役立っている至高の努力だと思うの。だから、もう少し自分に優しくしなさい、そうすれば楽になれることもあるから。あなたの当たり前は、周りの当たり前じゃない、頭に刻み込んだ?」
アーシェの言葉は、どこかリィンの心深くに刻まれた気がした。
「ありがとうございます。なんか、とても嬉しいです。」
「私たちは、とっくにあなたのことを認めている、レイヴァーの脳としてこれからもよろしくね。」
「はい!」
1時間ほど経過しただろうか、レイヴァーの面々は眠りについていた。
サリアとリィンはお互い横になり、ノエルは背中を壁につけて、ミラも腕を組み壁に背中をつけて、クロウはミラの肩に寄りかかっていた。
そして、クロウの隣で眠っていたアーシェが目を開ける。
(……っ、つい寝てしまった……みんなも寝てるのなら問題はないわね。)
クイッ。
アーシェが左を向くと、ミラに寄りかかるクロウの姿が。
その姿を見て、アーシェの心にもやもやがかかった。
その感情は何なのか分からない、ただ良い気分になっていないのは明らかだった。
すると、
スッ。
アーシェはクロウに近寄り、
スサッ。
優しく体を自分の方に傾け、自分の肩にクロウの頭が乗るようにした。
結果、アーシェの中のもやもやが晴れたような気がした。
(すごい安心しきっている顔をしているわね、これまで何度も死にかけながらも旅してきて1度も辞めるって言葉を口にしないあなたには、どんな過去があるの?何があなたをそこまで動かすことができるの?)
アーシェは前回の戦闘のことを思い返す。
(あの時、後は頼んだってあなた言ったけど、私が助けられる可能性が低いのは分かってたはずよね。それでも、あの時の顔はどこか笑顔だった気がする。天性のバカなのか、それとも本当に私を信頼してのことなのか分からないけど、おかげで自分の力の限界をさらに超えられた。)
スッ、スッ。
優しくクロウの髪をなでる。
(私に服従を誓うって言ってたけど、もしかしたらそれは私がしたいことなのかもしれない。今私は、あなたのそばにいたい、これからの道がどんな茨の道でも一緒に戦って切り開いていきたい、そのためならこの体がぼろぼろになるまでやり抜くわ。だから、私もあなたに誓う、この先もずっとあなたを支えると。)
そうしてアーシェも再び眠りにつく。
2人して寝ている姿は、とても穏やかでこれからのことを忘れさせるほどのものだった。
しかし、平穏な時間というものは長くは続かない。
さらに数時間後、馬車は目的地のカバラに到着したのだった。
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