第229話 服従

「この世界を壊して造るってことは、今のこの世界のあり方を作ったのが俺たちの先祖ってことなのか?」

「全てが私達6人の先祖がやったことかは分からない、だが、その一角だったことは私も両親から聞かされてる。エリュシオンの書庫でも同じようなものを読んだこともある。」

「アレス家とアトラース家を含んだ6つの家が今の世界を……王は?各国の統治者はどうやって決めたんだ?」

「そこまでは分からない。私も、詳しく調べてるところなんだが難航していてな。」

「ミラの両親は今どこに?」


スッ。

ミラの顔が少し暗くなった気がした。


「まだ分からない、以前話したかもしれないが行方不明のままなのだ。探し続けてもうどれくらいになるかも分からん。」

「そうだったな、悪い、余計なことを聞いて。」

「気にすることはない、けど私は諦めない、どんな結果であっても必ず見つけ出す。それが、私の選んだ道だ。」

「それが、ミラの強さの正体なのかもな。その曲がらない信念は誰にも真似できるものじゃない。」


スッ。

ミラとクロウは見つめ合う。


「まあ、俺とミラは似た者同士ってことだよな、だったらお願いがある。改めて、レイヴァーに入ってくれないか?」


クロウは、真剣な眼差しでミラを勧誘する。


ミラが可哀想だからや、レイヴァーに利益があるではない。



クロウの真っ直ぐな気持ちで、ミラの力になりたいと心から思っているのだ。



そして、ミラの返答は。


「もう少し、考えさせてくれ。知っての通り、私は死神と呼ばれている。そのせいで、誰かに迷惑をかけたくはない。」

「そんじゃあ、ミラが死神じゃないっていう証明ができたらいいんだな?」

「うっ、まあ、それはそうだが、この名前は国中に広まってしまっている、そう簡単にどうこうできるものじゃーー。」

「なら、尚更いいぜ!でかい壁は、1人じゃ乗り越えられなくても助け合えば越えられる。俺だけじゃない、レイヴァーでミラを迎える為に全力で疑いを晴らしてやる。」


クロウの言葉は、ミラの心奥底にまで響いていた。


「そうか、まあ、そこまでされた場合は、断る意味もないな、それまでは同行という形でいさせてくれ。」

「それはこっちからの願いだ、これからも頼むぜ。」

「ああ、そうだ、アルテミスたちにも報告してこよう、少し待っててくれ。」


スタッ、スタッ。

ミラは腕を庇いながら外に出る。


「ありがとう、ミラ。……っ?この香りは。」


微かに空いていた窓の隙間から、今まで何度も経験したことのある香りが。


「これって、まさか?」


ズザッ。

ズッ、ズッ。

クロウは足を引きづりながら、外へと向かう。



夜空に眩い月と星が上がり、町を照らしていた。


ズザッ。ズザッ。

そんな中、クロウは痛みに支配された体を引きずりながら香りのする方へ向かう。




進んだ先には、赤い花が咲く大きな公園が。


そして、


「アーシェ?」

「えっ!?ク、クロウ!?」

「やっぱりか、アーシェも無事だったんだなーー。」


ガクッ。

体にまだ上手く力が入らないクロウは、体勢を崩す。


「クロウ!」


スッ!

アーシェはクロウをなんとか支える。


「ははっ、悪い。さっき起きたばかりで、まだ体を動かすのもままならないみたいだ。」

「そんなの見たらわかるわよ、なんでこんなところまで来たの?」

「アーシェの香りがしたんだ、病室まで。だから、直接伝えたくて会いに来た。」

「……、本当にバカね。用があるなら、私から行ったのに。」

「いいや、これは俺からじゃないと意味がないんだ。」


スタッ。

スッ。

クロウとアーシェはベンチに腰掛ける。


「それで何?言わないといけないことって。」

「そんなの1つしかない、俺を助けてくれてありがとう。」

「……。」


クロウの言葉に、アーシェは何も反応できずにいた。



「ア、アーシェ?」

「ごめんなさい!」


スッ。

不安に感じ、アーシェの顔を覗き込んだクロウにアーシェは大きな声で謝罪をする。


「えっ、あ、え?どうした?」

「私は、約束を破ってしまったわ。クロウを、同じ目には合わせない、2度と仮面を付けさせないって誓ったのに、私は何もできなかった。」


スッ。

アーシェは頭を下げたままで、顔を上げない。



その姿を見て、クロウは、


「いいや、約束を破られてないぜ。だって、俺は今こうしてここに生きてる、その過程に何があったかはどうでもいい、今はアーシェとまたこうして話せて、生きていけることが何よりも嬉しい。」

「それでは私が納得できないの!相棒として、もっとやれることがあったんじゃないかって!」

「十分なんだよ、俺には。これが、その証明だ。」


スッ。

クロウはアーシェの手を取る。



そして、


ピトッ。

アーシェの左手の甲にキスをした。



その瞬間、アーシェの頭がパンクした。


「な、な、何をしてるの!?」

「俺の家で執り行われてた、俺はこれから、アーシェに全身全霊で尽くす、俺の人生はアーシェにやる。」



クロウの発した言葉の意味とは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る