第226話 その手に宿るもの

「殺す!俺の邪魔をする奴はみんな!消えろ!!」


バヒューンッ!バヒューンッ!

大剣から、空気が悲鳴を上げるような鋭い斬撃が縦横無尽に放たれる。


バゴーンッ!バゴーンッ!

アーシェとミラが立つ場所だけではない、辺り一面が削り取られていく。


「ちっ、これがアレスの秘める力の全てか。」

「だとしたら、相当追い込まれてるってことよね。なら、私たちがやることは変わらないわ!」

「ああ、隙を狙って確実に仮面を砕く。」

「ええ、それで後でたっぷり説教してやるわ。説教の対象は、ミラさんも入ってるからそのつもりで。」

「分かってる、全てを話すよ。では、ラストスパートといこうか!」


ズザッ!

ガギーンッ!

2人の攻撃がクロウを襲う。


斧で大剣を抑え込み、動きが鈍くなったところに素早い雷撃や氷撃をぶつけていく。



「諦めの悪い奴らが!もういい加減、こいつを見放せよ!」

「そうはいかないわ、私の相棒をあんたなんかに渡すつもりはない!たとえ全身の骨を追ってでも連れ戻してやるわよ!」

「諦めろ、アレス!いや、アレスに仕える神よ!世界は常に動いてる、人間も昔のままではないんだ。それは、お前も感じてるはずだ!」

「ああ、分かってるさ。それでも、過去は変わらない、忘れられないものもあるんだよ!」

「なら、その過去も背負って私が、レイヴァーが一緒に前に進むわ!後ろにできた道はもう直せない、けど、


バゴーンッ!

クロウの衝撃波で、2人は吹き飛ばされる。



だが、


シュンッ!

態勢を立て直すや否や、瞬時にまた攻勢に転じる。



クロウには、その2人を捌くことが厳しくなっていた。


「邪魔ばかりしやがる、何か別の方法はーー。」


ドクンッ!ドクンッ!

次は、自分の内側から痛みを感じる。



(俺の元に戻れ!この体は、クロウガルト・シン・アレスだから使いこなせるのだ!俺たちでは、破滅に導くだけだ!)

(俺は、白烏レイヴンのことを正直あまり知らない、だからお前という存在を教えてくれ!反発し合うんじゃない、俺がやれることを、お前がやれることを理解し合うのが大切だろ!)

「そんなことをして何になる、人間はどうせ、自分のことしか考えていない!いざとなれば、他人のことなんてどうでもいいのさ!」

(だったら、俺がお前のそのイメージを上書きしてやる!!未来を作るために、俺たちは分かりあわなくちゃならない!)

「くそっ、くそが!!」


バゴーンッ!

クロウから生まれる風圧が、辺りの木や足を吹き飛ばす。


それはもはや、人間のそれではない、化け物にすら見える。



「あんなに力を使ったら、体が持たないわ!ミラさん!」

「ああ!この一撃で終わらせるぞ!」


ズザッ!

2人はクロウの真正面から走り出す。



「くそっ、来るな!俺に近寄るな!」


バヒューンッ!

バギーンッ!

大剣の斬撃を、ミラがなんとか弾き飛ばす。


その衝撃で腕から血を流すが、今は関係ない。



2人は止まることを知らない。



そして、



「これが私たちの最大火力よ!」

「灰になるがいい!灰への道アッシュロード!」


ボァァ!!

バギーンッ!

アーシェがミラの大斧に蒼い炎を灯し、その火力を纏う風で最大限に上げ横薙一閃。


アーシェとミラが、即興で共鳴術技リンクアーツを発動した。





そして、



パキッ。

黒い烏の仮面にヒビが入る。


「う、うぁぁ!!」


クロウの叫び声が、辺りに響き渡る。


「やれたのか?」

「仮面にヒビが入ったわ、あとはあなた次第よ、クロウ!」


ドクンッ!ドクンッ!

クロウの心臓が激しく波打つ。


(今だ!お前の全力で、俺を吸収しろ!)

(分かった、けどお前も分かってるよな、この力を使った時の反動を。)

(……ああ、だがこのままでは死を迎えるだけだ。なら、1%でも可能性があるものに賭けようではないか。)

(それもそうだな、後は、俺の肉体と相棒たちを信じるぜ。)


シュワーッ!

クロウの体から、蒸気のようなものが溢れる。


ポトッ。

仮面の下半分が、地面に落ちる。



「うっ、くそ、後少しで俺の願いが叶えられたというのに!」

(お前の願いは、後でしっかり聞いてやる。だから今は、俺の中で休んでくれ。)


バギッ、バギッ。

クロウの立つ地面が、徐々にひび割れる。


「何が起きてる、このままでいいのか?」

「分からない、でも感じるの、クロウが戻ろうと必死にもがいてるのが。だから、何が起きても私たちが対処する準備だけしておくわよ!」

「ふんっ、アフロディテは本当に信頼してるのだな。」

「そう、だ、俺、たち、は、レイヴァー、追放された、者の集まり、家族は、離れない。」


スザッ。

クロウは捻り出すように言葉を口にする。




そして、


「これで、終わりに、するぞ! 感情の枷リミッター解放ブレイク。」


ヒュイーンッ!!

ドゴーンッ!

クロウの周りの空気が圧縮され、次の瞬間辺りに解き放たれる。


人1人から、台風でも生まれたような力。



その風に負けずに、アーシェとミラは耐えていた。


シューッ。

風がだんだん弱まる。

その先に、クロウの姿が。


「ク、クロウ!」


パリーンッ!

仮面が全て割れ、いつものクロウの顔が見える。


そして、アーシェに向け一言。


「後は、頼む。」


バタンッ。

クロウはその場に倒れ込む。


「なっ、アレス!」

「クロウ!」


スタッ!

2人はクロウに駆け寄る。


そこで衝撃なことが1つ。



「まさか、お前。」


アーシェの頭が一瞬真っ白になる。


クロウの息が途絶えてしまったのだ。





が、そんなことをアーシェは許すはずがなかった。

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