第227話 生きろ

クロウの顔面から仮面は綺麗になくなっていた。



だが、クロウの呼吸はなく、全身から血が。


力を使いすぎた代償だろう、身体中に傷が生まれ見るだけで心が痛む。



そのそばで、アーシェとミラは固まっていた。


突然のことに、頭で理解することができなかった。




呼吸をしていない、ということは死を意味する。


当たり前のことだが、2人は受け入れられずにいた。




そんな静寂の空間を破るのは、アーシェだった。


「……けないで。」

「アフロディテ?」

「ふざけないで!」


ザッ!

スッ!

アーシェはクロウを仰向けに寝かせ、何かの準備を始める。


「何をするつもりだ、アフロディテーー。」

「クロウ、あなたは勝手に私の人生変えておきながら勝手に死ぬつもり!あなたと出会わなければ、こんな気持ちになることはなかったのに、それなのにあなたは!」

「やめようアフロディテ、アレスはーー。」

「クロウは、最後に言ってたの、後は頼むって。それって、この状態のあなたを私が助けろってことでしょ。本当嫌になる、人任せなクロウにも、こんな無責任な人を相棒にして、命を張って助けようとする自分にも!」


シュイーンッ!

魔力がアーシェの周りに溢れ出す。


「アフロディテ、まさかお前ーー。」

「やってやろうじゃない、この命を賭けて無責任なバカを連れ戻してやるわよ!この体がどうなろうが関係ない、私の全力でこの世界に連れ戻して1発殴ってやるわ!」


シュインッ!シュインッ!

さらにアーシェの周りに魔力が溢れる。


その迫力は、魔力が目に見えてきそうなほど。



「みんな!私たちをカバーして!この魔力は、モンスターを惹きつけてしまうから!身勝手な私を、許して。 最後の力ファイナルギア入力オン!」


バヒューンッ!

体から発生する風圧が、砂埃となりあたりを吹き荒らす。


さらに、


「癒せ!回復の霧ヒールミスト!」


ヒュイーンッ!!

クロウとアーシェをドーム状の青いオーラが覆う。


傷をこれ以上進まないようにする魔法だが、魔力を増加させることにより若干の回復効果も追加されたようだ。


「アフロディテの回復魔法、確かにこの魔力にはモンスターが反応してもおかしくない。」


ミラが警戒した瞬間、


「ガルルゥ!」

「ゲゴッ!」


辺りからドスフロッグ、サーベルウルフ、アリゲイルなど多くのモンスターの声が響き渡る。


「アフロディテの魔力に反応してる、どうにか守り切らないとーー。」


シュンッ。

ミラの顔から仮面が消える。


「うっ、げほっ、げほっ。」


ピシャッ。

吐血もみられ、体の限界が近いようだ。


「くそっ、力を使いすぎてる。こんな状態で守り切れるのか。」


シュンッ。

ミラの頭には、体を押さえ込まれ2人の巨人族が連れていかれる姿が。




「行かないで、お願い!置いていかないで!」



ミラの心からの叫び声が、武装した巨人族に連れてかれる2人、そして町中に響く。



「あぁ、くそ、余計なことを考えるな。やれることを、やるんだ!」

「状況は分かりませんが、あたし達がやらなきゃいけないってことはわかりました!」


ズザーッ!

サリアとノエルの治療をしていたリィンが、加勢に来る。


「キヒ、2人は?」

「あのお2人なら、ご覧の通りです!」

初舞ハジマリノマイ剣舞ブレイドダンス!」

ジン二の型ニノカタ連続打バースト!」


ジャギンッ!

ドスドスドスッ!

アーシェに迫ってきていたモンスターを、サリアとノエルはすでに対処していた。


「まさか、動けるのか?」

「動いて良いとはあたしは言ってません、ですが、今はやらなきゃいけない時だって言ってたので、あたしもしぶしぶ許可しました。」

「なるほど、こちらも手負いだらけか。だが、確かにやらなきゃいけない時だな。」

「はい、あたしが先陣を務めます!ミラさんは、カバーをお願いします!」

「ふっ、私がカバーか、成長したな、キヒ。任せてもらおう、だから背中は気にするな!」


ズザッ!

ガギーンッ!

2人もアーシェたちに迫るモンスターを対処する。



「くそっ、出血はなんとか止められる。けど、脈がどんどん弱くなってる、どんな無理をしたらこんなになるのよ!」


ズンッ!ズンッ!

アーシェは心臓マッサージを始める。


(周りにモンスターが来ない、レイヴァーのみんなが守ってくれてるのね、なら私はクロウにのみ集中すればいい。)


アーシェも決して軽い怪我ではない、だが、クロウを助けるために全力を出していた。


「早く、帰って来なさい!ここで死ぬなんて、絶対に許さない!」

「……。」

「あなた、私のためならどこまでも強くなる、いつまでも離れないでいてくれるんでしょ!1度交わした約束は、しっかり守りなさいよ!」


ピシャッ。

アーシェの両腕の傷が開き、血が垂れる。


だが、そんなことは気にもとめていないようだ。


「くそっ、あとは何ができる、傷が深い?いや、それはこの魔力の中なら問題ない、だとしたら……酸素!」


スッ。

アーシェはクロウの顔の近くによる。


「人工呼吸って、確かこうよね。」


クイッ。

スッ。

アーシェはクロウの顎をあげ、胸が見えるようにしゃがむ。


「あとは酸素を送る。」


クロウの顔を、アーシェは見つめる。




「こんな形で初めてを捧げるなんて、後で責任を取りなさいよ。」


スッ。

アーシェはクロウの口から人工呼吸を始める。



アーシェのファーストキスが、人工呼吸という形で生まれることになってしまったが、



クロウを助けるために、躊躇いはなかった。





(……、俺は、死んだのか?)


クロウは真っ暗闇の中に体が浮かんでいるようだった。

(ここが、天国か?いや、地獄か。)


ズッ。

背中を何かに引きずられる感覚に襲われる。


(ああ、情けねえな。アーシェとの約束を、破っちまうなんて。あいつだけじゃない、レイヴァーのみんなに迷惑をかけちまうなんてーー。)


諦め、目を閉じようとした瞬間、




(……ロウ。……ロウ!)

(なんだ、お迎えが来たのか?)



消えゆく意識の中、うっすらと目を開けると、



(……クロウ!……って来なさい!)

(この声は、アーシェ?)


途端にクロウの目の前に、小さな眩い光が。


(戻ってきなさい!クロウ!勝手に死ぬなんて、許さないわ!)


アーシェの声が、全身に響き渡る。



その声は、消えゆく意識を保つためには充分すぎた。



(アーシェ。……そうだな、諦めるなんて俺らしくねえ。こんなところで寝てる暇はねえな!)


グッ!

背中から引っ張られる感覚を引き剥がそうとする。


だが、そう簡単に動くことはできない。



それでも、必死に足掻いた。


(俺は、誓った!アーシェのために、生きるって!ここで死んだら、誰があいつの背中を支えるんだ!誰があいつの道を切り開くんだ!アーシェの道を切り開くのは、俺の役目だ!)


ズガッ!

クロウは背後の暗闇を蹴り飛ばし、光に手を伸ばす。



(届けぇ!!)



そして、光の中に吸い込まれていった。






「クロウ!クロウ!」

「……っ、ア、アー、シェ。」


薄らと、クロウの目が開く。

アーシェの目には、涙が浮かんでいた。


「クロウ……。」

「信じてたぜ、相棒。」

「……まったく、後で死にたくなるくらい説教よ、相棒。」

「ああ、アーシェと話せるなら何でも受け入れるぜ。」



クロウは戻ってきた、アーシェとレイヴァーのおかげで。


シュンッ!

アーシェは力を解き、その場に横たわる。


「あなたのせいで、もう体が動かないわ、後でいろんな責任を取りなさいよ。」

「もちろんだ、約束は破らない、その前に、言わせてくれ。」

「なに?」

「ありがとう、アーシェ。」


スッ。

2人は手を繋ぎ、生還を喜ぶ。



「クロウさん!アーシェさん!」


リィンが2人の元に駆け寄る。



クロウはなんとか生き残り、力を封じ込めた。


そして、クロウの秘密、仮面の秘密、ミラの秘密、それが明かされる日が、すぐそこに。



第43章 完



◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


第43章まで読んで頂きありがとうございました。


クロウは、アーシェとミラと死闘を繰り広げる。

そして、白鴉レイヴンと邂逅して理解し合う。

暴れ出したクロウを止め、命の灯火が消えかけていたのをアーシェが復活させる。

そして、レイヴァーは生還した。


いろんな秘密がわかる!?

たまにある休憩会!

レイヴァー応援してるぞ!


と思ってくださいましたら、

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ここまで読んで頂きありがとうございます!今後とも宜しくお願いいたします!

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