第225話 諦めの悪さ

「まだ逆らうのか、こんな奴のために命を賭けるとは、理解に苦しむな!」

「あなたには分からないでしょう、情を感じられないあなたには私の心に確かにある、大切な人を思う気持ちは!!」

「分かる必要がない!俺は、1人で生きられる強者なんだ!」

「今は昼間よ、寝言は寝ていいなさい! 痺れるわよ!雷の刺剣サンダーレイピア!」


バリッ!

ガギーンッ!

雷のレイピアと、2刀がぶつかり合う。


「もう面倒だ、お前との話は疲れるだけだ、ここでしっかり息の根を止めてやる!」


グッ!

クロウは片方の刀でレイピアを受け、もう片方の刀でアーシェの顔面を狙う。




だが、アーシェは焦りすら見せない。


「諦めたか、魔族の女!」

「諦めるわけないでしょ、諦めが悪い、独占欲が強いのが魔族の特徴よ。そこに、みんなと過ごすことで私は、だから!」


シュンッ!

クロウの背後から何かが急接近。


「まさかっ、ここまで狙って!?」

「さすがだな、アフロディテ!おかげで背中がガラ空きだぞ、アレス! 始の光イチノヒカリ金剛の一撃アルデバラン!」


ズンッ!

ガギーンッ!

大ぶりの縦斬りが、クロウを襲う。


だが、持ち前の反応を活かし刀1本で受け止める。



「はっ!背中が空いてても傷をつけられないようじゃーー。」

「いつ私が本命だと言った?」

「なっ!?」

「あなたにも分からせてあげる。信じ合うことが、大切なことを。裏があるから、表が活きるのよ! 怒号よ響け!地竜の咆哮グランダッシャー!」


ゴゴゴゴゴッ。

ガゴーンッ!

地面から巨大な槍が生み出され、クロウを直撃し吹き飛ばす。


ズザーッ!

10mは吹き飛ばされただろう、体にはいくつもの傷が生まれる。


「えほっ、えほっ。狼女がいたのに構わず放ちやがった、なのになんで狼女は無傷なんだ?」


スッ。

ミラは大斧を構え立つ。



そう、ミラは信じていた。

アーシェなら隙を作ったところを見逃さないと。


そして、アーシェも信じていた。ミラなら、隙を作ってくれると。



2人の戦いの中での信頼が、クロウにダメージを与えるきっかけになった。



「戦士の私が裏で、魔法使いのアフロディテが表か。普通はありえないパーティ構成だな。」

「そうかしら?前線で戦う魔法使いもいいでしょ?」

「ふふっ、どこかのバカなリーダーに似て面白いことを言うな。」

「それは聞き捨てならないわね、そのバカよりは私の方が賢いわよ。」

「そういう事にしておこう。まだ、あいつは元気みたいだからな。」


ズザザッ!

クロウは大剣を構え、起き上がっていた。


「くそがっ、人間2人にやられてたまるかよ、俺は強い、誰にも負けねえ!」

「虚勢を張るのはやめなさい、そろそろうちのクロウが我慢の限界だと思うわよ。」

「へっ、あいつはもう俺の中で死んでーー。」



ドクンッ!ドクンッ!

クロウの中から、大きな鼓動が響く。


それは、今目の前に立っているクロウを苦しめていた。



「なんだ、何が起きて……まさか。」

(ああ、そのまさかだよ!勝手に俺の体を使って好きに暴れてるみたいだな!そろそろ、返却期限だぞ!)

「くそっ、なぜ生きてる。2度目で完全に消し去ったはずーー。」

(1人で強くなった気でいるお前を哀れに思って、クロウはここまで登ってきたんだよ。)

「てめぇ、白烏レイヴン!そういうことか、お前が手を貸しやがったな!」


シュンッ!

クロウ目掛け、アーシェとミラが攻撃を仕掛ける。


「ちっ!」

「さっきから独り言が激しいわよ!」

「疲れてきたのではないか、そろそろ休むがいい!」


ガギーンッ!

ズザーッ!

クロウはなんとか攻撃を受け流し、距離を取る。



「くそっ、目の前の2人だけならまだしも内側からも邪魔されるなんてな。」

(さあ、お前も楽になれ。分かってるはずだ、こいつらの強さは本物だと。)

白烏レイヴン!なんでお前は従う!これまで裏切られ続け、傷ついた仲間を忘れたか!」

(忘れていない、1秒たりともな。だが、こいつらのことを見てて気付けた、遠ざけるだけじゃ何も分からない、それからどうするか判断しても、遅くはない。)

「くそっ、どいつもこいつもふざけやがって!いいぜ、ここで全部終わらせてやるよ!」


バヒューンッ!

クロウの力がさらに増幅する。


ピキーンッ!

その中に、アーシェは感じるものがあった。


「クロウ、そこにいるのね。」

「なに?何か感じたのか?」

「ええ、クロウは死んでいない、必死に今も戦ってる。」

「なるほど、アレスの相棒の言うことなら信じてみようか。こちらもそんなに長くはもたない、一気にいくぞ!」


ズザッ!

2人も体勢を整える。


「こんな奴ら、俺1人でぶっ殺す!」

(やめろ!お前も俺なら分かるはずだ、こいつらの正義はまだ何色にも染まっていない白いものだ!俺たちが賭ける価値がある!)

「もう後悔したくねえ、だから俺は黒に身を染めたんだ!後悔は、1番無力を感じさせられる感情だ、そんなもの、もう感じらつもりはねえ!」

(俺は、お前を受け入れたい、力を貸してくれ!)

「しゃべるな!!」


ドゴーンッ!

クロウの力の開放が止まることを知らない。


はたして、この戦いの結末は。


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