第224話 アーシェの思い

アーシェとミラは、クロウと死闘を繰り広げていた。


「まだ邪魔をするか、愚かな人間どもが!」


ガギーンッ!ガギーンッ!

2刀が音を超えて振られる。


2人は、防御に専念せざるを得ない。


まだ戦い始めて1分も経過していないだろう。



しかし、身体中から体力を根こそぎ奪われ、半日ほど戦い続けたような疲労感が2人を襲う。



それもそのはず、2人は力を解放しお互いの隙を埋め合いながら戦っているが、それを超えるほどのスピードと力でクロウは攻めてくるのだ。


「そろそろ諦めて死んだらどうだ!」

「諦めが悪いの、私の特徴なのよね!あなたに死ねと言われて死ぬほど、この命は安くないわ!」

「そっちこそ、そろそろ休んだらどうだ、ライアとの連戦で疲れているだろ。」

「ふんっ、この体は器だと言っただろう、疲れなど俺には関係ない!」

「っ!?」


ガギーンッ!

ズザーッ!

目を離したつもりはないが、目の前にクロウが迫り2刀の刃先がアーシェの眼前に。


「させるか! 肆の光シノヒカリ女神の抱擁ヴェスタ!」


ドスンッ!

バゴーンッ!

斧を思い切り地面に突き刺し、クロウの前に地面の壁を浮き上がらせる。


「やはりお前から殺すべきか、狼女!」

「そう簡単に殺せるかな、私はこの国で死神と呼ばれている。甘く見ていると、貴様が死ぬことになるぞ!」

「ほざくな、たかが人間1人に!」

「貴様こそ、その人間1人の体に頼らないと生きていけない半端者だろう! 伍の光ゴノヒカリ不滅の波動アタナシア!」


スッ!

ザシュンッ!

大斧から鋭い斬撃が放たれる。


「鈍いんだよ、そんな攻撃!」


ガギーンッ!

クロウは2刀で容易くかき消す。


「ちっ、もう少し時間を稼げると思ったがーー。」

「お前じゃ俺には勝てない!!」


ガッ!

クロウがミラに接近しようとした途端、


地面から岩の鎖が足に絡みつく。


「んっ?」

「何度も言わせないで欲しいわね、私達は2人よ! 弾け飛べ!闇の波動ダークパニッシャー!」


スッ!

ドスンッ!


闇の魔力の波動が、クロウを弾き飛ばす。



地面を転がり、他に伏せるクロウ。


もちろん、体に傷は生まれている。




だが、


「いいな、ボルテージが上がってきたぞ!お前ら2人、この手でしっかり殺してやる!」

「こいつ、本当に底なしね。」

「当たり前だろ、この体はクロウガルトのものだ!お前はこいつと1番長く過ごしてる、ならこいつの強さもよく知ってるだろう!」

「当たり前よ、誰よりもクロウのことを知ってるつもりだわ。だからこそ、信じてる!

「それは大きな間違いだな!」


ガギーンッ!

ズザーッ!

クロウの拳を、氷魔法を溜めてる途中で受けてしまう。


少しは衝撃を軽減したものの、両手から血が流れる。


「はぁ、はぁ、何してるのクロウ。そんなやつ、早くしまって戻ってきなさい!レイヴァーのみんなが、私が待ってる、流石に、寝起きが悪すぎるわよ!」

「お前のためにこいつはもう出てくることはないーー。」

「それはお前じゃない、アレスが決めることだ!  参の光サンノヒカリ覇王の咆哮レグルス!」


グルンッ!

ガギーンッ!

大斧の回転斬りと2刀が鍔迫り合う。


「理解できん、なぜお前はそっち側にいる!狼よ、お前はこっち側の存在だろ!なぜそんな人間に力を貸す!」

「私の神に、何かようか?生憎、こっちは話をしたくないみたいだ!」

「人間に仕える意味なんてない、こいつらには、情というものが全くないんだぞ!」

「なんの話をしているか、よく分からんな!」


ガギンッ!

ズザーッ!

2人は距離を取る。


「だが、情がないというのは間違いだ。人間は、人を信じ、人を愛し人に愛され歴史を紡いできた。お前も、その一部だったんじゃないのか?」

「違う!俺は裏切られた、死ぬ最後の時まで一緒にいると誓った奴に、何のことわりもなくそばを離された!それが人間だ、人間の本質なんだよ!」

「それだけが、人間の全てではないわ! 斬り落とせ!烈風の翼ゲイルウィング!」


バヒューンッ!

大きな風の刃が、クロウを掠める。


「何が違う!お前も感じてるだろ、このクロウガルトからお前は何度も傷つけられた!体じゃない、心にいくつもの傷が生まれたはずだ!」

「……確かに、それは否定できないわ。」


スッ。

アーシェは溜めていた魔力を戻す。


「そうだろ、こいつはそういうやつなんだ、クロウガルトだけじゃない、この世界の人間はそんな奴しかいないーー。」

「だけど、クロウは謝ってくれた、私の傷を治そうと必死に動いてくれた。死にたいと言った私を、叱ってくれた、真っ暗闇の中から、真っ白な眩しい世界に連れ戻してくれた!それは、誰にも変えられない事実よ!」

「それは偽善だ!お前を利用するために、嘘を並べたこいつのデタラメだ!そんなものに踊らされてることすら気づかないのか、今時の魔族はーー。」


バヒューンッ!

アーシェの周りに、突風が巻き起こる。


それは、彼女の怒りを表してるかのよう。



「あなた、それ以上クロウのことを愚弄してみなさい、ウェルダンでは済まないわよ! 中堅の力セカンドギア入力オン!」


アーシェはさらに力を解放し、戦闘は激しくなる一方だった。

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