第223話 内側に棲むもの

「お前と話すのは初めてだな、クロウガルト。」

「誰だ、お前は。ここはどこだ!」


ガシッ!

クロウは体が肉壁に埋め込まれていることに気付く。


クロウの目の前には、体長2mはあるだろう真っ黒な体に赤い目をした烏。


嘴は角のように尖り、銀色なのが特徴的。


「名前を感じられないか、ならお前に資格がないということだ。」

「資格?何を言ってやがる……アーシェは!みんなは!どこにいる!」

「お前と戦っているよ。正確に言えば、お前の体で暴れてる俺がな。」

「どういうことだよ、何がどうなってんだよ、お前はいったいーー。」


ギュインッ!

クロウの両腕が真っ黒な影に包まれる。


「なんだこれ、くそっ、剥がれねえ!」

「無駄だ、お前は生と死の狭間にいる。それに呑み込まれたら、ゲームオーバーだ。お前は、暴れる危険生物として世界から排除されることになる。」

「ふざけるなよ、俺はまだやらなきゃいけないことがたくさん残ってる!こんな所で、死んでる暇はない!」

「ならば、俺の名前を思い出せ。お前は俺の名前を知らないわけじゃない、知らない状態に上書きされてるのだ。」

「上書きされてる?俺は、お前を知ってる?」


グググッ!

さらにクロウの体が肉壁に吸い寄せられ、体に黒い影も増えてくる。


体が沸騰するように熱く、全身に激痛が走る。



それだけではない、目の前から死が迫ってくるのが分かるほどに苦しみを味わっていた。



「うっ、はぁ、はぁ、頭が回らなくなる。」

「早くしろ、でないとお前だけではない、今生きてるお前の仲間も死ぬことになるぞ。完全に解放された俺の力を、止められる奴は思いつかない。それか、力を解放する前に狼の長身女が殺すかもな。」

「それは、ミラのことか。確かに、あいつならそうしてくれそうだ、それが1番楽な気もするしな。」

「なんだ、諦めるのかーー。」

「だけど、俺はそんなもの望まねえ!あいつらに余計な十字架を背負わせない、俺も死んじゃいけない、約束したんだ!」


グググッ。

みるみる体は吸収され、首から上以外はほとんど見えない。


「約束か、それは魔族の女とか。」

「そうだ、アーシェに誓った。一緒に生き抜くって、あいつのためならどんな試練でも乗り越える、限界の限界まで強くなる、だからここで死ぬわけにはーー。」

「その約束は、誰のためだ?お前の為か、魔族の女の為か。」

「何言ってるんだ、アーシェの為に決まってる!」

「そうか、だが今のお前では自己満足で終わるただの偽善者止まりだな。」

「なんだとっ!!」


ガシッ!

黒い影が顔にまで伸びる。


呼吸が苦しくなり、視界も聴覚とも鈍くなる。



「くそっ、なんなんだ、お前は、黒い烏が……黒い烏?」


スサーッ。

クロウの中に、父フェルナンドから教えてもらった事が走馬灯のように蘇る。




「俺たちはレイヴンズとしてアテナイを守ってる。なあクロウ、レイヴンズってどういう意味か知ってるか?」

「え?確か、正義を志す者達って意味だよね?」

「そうだ、でも1つ気をつけないといけない。正義とは白色だ、誰しもが持っている。それが、周りに受け入れられるか拒まれるかで色が変わり、最悪の結果、正義が悪という黒色に変わる。」

「うーん、難しいよ。」

「ははっ、まあまだ分からなくていい。けど、そのうち分かるさ、お前はアレスの血を継いでる。アレス家は、代々大切なものの為に最前線で戦い続ける家系だ、だから、常に世界を見続けろ、自分の正義を迷わず貫く必要がある。」

「それは、どうすればいいの?」

「それはなーー。」



シュインッ!

情景は現実に戻り、クロウは意識を朦朧とさせながらも目の前の烏を見る。


なんとか声を捻り出し、言葉にする。


「正義とは、そいつの信念、目指す未来を形にするための道。1人じゃ出来ない、だから皆とわかり合い託しあって白い正義を作り上げる。それが、レイヴンズの存在意義。」

「ならば、お前は誰だ。ここで死ぬ愚かな人間か、それとも未来を照らす光となる人間か。」

「そんなの、分からねえさ。けど、はっきり言えるのは、俺はそれが、光なのか闇なのかは分からねえけど、白か黒かははっきりさせられる。」


ギュインッ!

さらに黒い影が伸び、口と目以外は塞がれる。


「そうか、だがそれは叶わないようだな、俺の名前を分からないならーー。」

「誰が分からないって言ったよ、黒烏野郎。」

「黒烏野郎……その呼び方、あいつと変わらんな。初めは、あいつもそう呼んでいたさ。やはり、親子ということか。」

「当たり前だ、俺はフェルナンドの息子、クロウガルト・シン・アレス。アレス家の血を継ぎ、世界を知るために自分の正義を信じ、仲間と共に貫く男だ。

「しぶとい男だ、ならばやることは1つだ。」


スッ。

黒い烏はクロウの目の前に立つ。


「俺を使えるかテストしてやる。さあ呼べ!俺の名前を!」

「ああ、アレス家に代々仕える戦神、俺に力を貸せ!白烏レイヴン!」


ピカーンッ!

2人の空間に、眩い光が差し全てを呑み込む。


はたして、クロウは……。

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