第204話 相棒の存在
「クロウ。」
「んっ、アーシェか。そろそろここを出るか?」
「いいえ、ミラさんが周りに危険がないか見に行ってくれてるわ。少し休めるくらいの時間はある。」
「そうか、でもミラに迷惑をかけるのは悪い、そろそろ次の場所にーー。」
「ダメ!」
ガシッ!
アーシェは立ちあがろうとするクロウを抑え込み、無理やりのような形で座らせる。
「な、なんだよ!?そんなに力入れなくてもーー。」
「クロウ、少し話をしましょう。私は正直に話す、だからあなたも私に正直に打ち明けて欲しいの。」
「打ち明けるって何を。」
「惚けるつもり?あなたがいつも通りじゃないことは、とっくに分かっているのよ。そんなあなたを、次の戦場になり得る場所に送ることなんてできない。」
クロウは観念したかのように、力を抜く。
スッ。
そして、クロウは体育座りになり、俯く。
その隣に、アーシェは座る。
「なあ、アーシェには聞こえたのか?あの男の、助けを求める声は?」
「……聞こえなかったわ。私が感じたのは、あの仮面から今まで感じたことのないような魔力。悍ましいという言葉が当てはまるものだったわ。」
「そうか……かっこ悪いよな、俺。助けるって言っておきながら、目の前で死なせちまった。あいつに、無駄に希望を持たせて、絶望に突き落とした、最低な男だ。」
「……なんであなたは、そうやって自分ばかりを責めるの?」
「え?」
クロウがアーシェを見ると、しっかりと見つめてくれてる姿が映る。
「クロウは、かっこ悪くなんてない。あなたは、自分を犠牲にして、私たちを上手く使ってやれるだけのことをしたわ、それは私が保証する。」
「だけど……だけど!」
ゴスッ。
クロウは石の壁に拳を打ちつける。
「あいつは、何か悪いことをしたのか?死ななきゃいけない存在なのか?俺には分からない、だからあいつの口から聞きたかった、あいつを縛り付けてるものはなんなのか。」
「それは、私にも分からない。今は、ね。」
「これから先だって分かる保証はない、悪戯に希望を抱かせて、あの男と同じような道を辿らせるかもしれない。俺は、それが怖いんだ。」
「クロウ……。」
クロウの顔は、怒りと悲しみで溢れていた。
その怒りは、他の誰でもない、自分に対してのものだった。
「無責任なやつになりたくない、みんなを死なせたくない、だから俺は、血のホワイトデイが起きた時からがむしゃらに力を求めた。父さんを、兄さんを失った時の痛み、同じ痛みを他の誰にも味わって欲しくない。」
「確かに、あなたの言ってることは間違ってない、素晴らしい目標だと思うわ。でも、なんでそこに私を巻き込んでくれないの?」
「アーシェを、巻き込む?」
「そうよ、私はあなたと一緒に生きると決めてる、だから、今クロウが1人で抱え込もうとしてる責任を私にも分けてくれてもいいんじゃない?人には絶対、限界というものがあるの。」
アーシェは優しく話しかける。
その言葉は、クロウを優しく包むかのよう。
「だけど、アーシェを巻き込んで傷つけたくない、お前は俺にとって特別な存在、だからこそ俺とは違う道でーー。」
「本当に特別だと思ってくれてるなら、特別扱いしてよ。サリーにも、ノエルランスにもしない、特別な扱いを。」
「それは、どういう意味だ。」
「前にあなたは言ったわよね、私が強くなれと言ったら世界を滅ぼすくらい強くなるって。」
クロウは、アーシェに誓った言葉を思い出す。
「だったら、私も同じよ。あなたが私に心の支えを求めるなら、私も背負う。あなたが支える必要がないくらい逞しくなってみせる。それが、私のやりたいこと。」
「……辛い道になるぞ、これから先まだ俺たちが解決しなきゃいけないことはたくさん残ってる。それでも、やるっていうのか?」
「愚問よ、私の命はあなたに救われた、救い救われの関係ってどこか美しいと思わない?どちらかが頼るんじゃない、2人で1つのゴールを目指す姿はとても美しいはずだわ。」
「……アーシェ。」
スッ。
アーシェは立ち上がり、クロウに手を差し伸べる。
「もっと気楽にいなさい、もっと私に甘えなさい、年下の男の子に全てを託すような生き方を私は知らない、背中を任せ合える対等の姿が私の理想よ。その理想のために、これからも茨の道を進み続ける。頭に刻み込んだ?」
アーシェの迎え入れてくれるような優しい姿は、今のクロウを救ってくれる最高のものであった。
「ああ、正直まだ100%だとは言えない、けど少しずつアーシェを頼る、甘えさせてもらう。だから、覚悟しといてくれよ。」
「任せなさい、あなた1人を受け入れるくらい、モンスターを倒すことより容易いわ。だから、私たちの目でこの先の未来を見に行くわよ。エリュシオンで、何が起きてるのか。」
「ああ、必ず突き止める。被害を、最小限にするために。」
ガシッ。
アーシェの手を掴み、クロウは立ち上がる。
その動きは、少し軽やかに思えた。
ニコッ。
お互いが微笑み合う姿は、何よりも眩しいものであった。
スタッ、スタッ。
2人のことを見守っていたミラが、近づいてくる。
「アレス、アフロディテ、少し良いか?」
「ああ、ありがとうな、周りを警戒してくれて。」
「構わないよ。……うん、2人ともいい顔になったな。今なら、話してもいいかもしれないな。」
「話すって、いったい何をだ?」
「私の知る、仮面についてだ。私は、仮面をつけた戦士を何度か見ている、そして、戦っている。」
ミラの口から告げられた衝撃の事実。
その先、何を話すのか。
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