追放された者達、旅をしてたら世界を救っちゃった件

第201話 仮面とミラ

仮面はクロウの攻撃によって、確かに亀裂が入り1/3ほど地面に落ちていた。

しかし、何の力が発動したのか画面は元通りに戻っていた。

「おいおい、予定と違うぞ！アーシェ何か間違えたか？」

「間違えてないわよ！多分、クロウはその指輪の石が割れてた、この人は何かを飲み込んでた、そこだけがあなたの時と違うわ。」

「てことは、あの液体が体の中で悪さをしてるってことか。だとしたら、対処法がわからねえぞ、どうするかーー。」

「邪魔をするな！消えろ！！」

ブンッ！

ガギーンッ！

クロウの拳と、巨人族の拳がぶつかり合う。

「こいつの時間稼ぎは俺がやる、だから、何かいい案を考えてくれ！」

「そんな、この強さを1人で相手にするなんてーー。」

「アーシェだから頼めるんだ、何があってもそっちにこいつはいかせない！俺より頭の良い相棒を信じたいだけだ、無理は承知だけど頼む！」

「分かったわ、けど最悪のパターンがあることを忘れないでよ。」

「……ああ、了解した。」

ガギーンッ！

ズザーッ！

クロウは力を解放し、男を押し返す。

「やるしかねえよな、ここで！　憤怒の鎖（レイジチェーン）、解除（リリース）。」

ズザッ！

ガギーンッ！ガギーンッ！

クロウは鎖を引き裂き、筋力を一時的に増幅させた。

その力は、巨人族の男と同等かそれ以上。

だが、クロウは絶対に殺さない。

不殺の掟を守り抜くため、必死に時間を稼ぐ。

「おい、あんた！そんな力に呑まれるな！見えるはずだ、暗い中に一筋の光が！」

「ぁ、ぁあ！がぁ！」

「あんたを死なせたくない！頼む！諦めないでくれ！　拳の響（ケンノヒビキ）、初式（ショシキ）！雷（イカヅチ）！」

スッ！

ガゴーンッ！

掌底突きが、男の腹をとらえる。

しかし、

「硬い、筋肉を無理やり増幅させて鋼の体にしやがった！？」

「ぐぁ！！」

ガゴーンッ！

ズザーッ！

クロウの攻撃を受け止めた男は、渾身の足蹴りで、クロウを吹き飛ばす。

「えほっ、ガードが間に合ってなかったら体が壊れてたぞ。どうする、もっと力を使うか、けどそんなことしたらあいつが死んじまう。」

「死にたくない！だから、殺す！」

シュンッ！

さらにスピードを上げ、クロウに追撃をかける。

「まだそんな無理がきくのかよ、　雨の音（アメノオト）、四式（シシキ）！叢雨（ムラクモ）！」

ガギーンッ！

折りたたみ式剣の突きで、男の拳を受け止める。

「時間稼ぎするのも楽じゃねえな、何か方法があればーー。」

「うがぁ！！」

ガギンッ！

クロウの予想を上回る力が、折りたたみ式剣をつけた右腕を弾く。

「なっ、嘘だろ！」

「死ね、邪魔者！」

クロウに男の拳が迫る。

「クロウ！させるもんですか！跪け！重圧ーー。」

アーシェの魔法の詠唱が終わるよりも、コンマ数秒クロウに拳が届く方が早い。

「だめ、間に合わなーー。」

「参の光（サンノヒカリ）！覇王の咆哮（レグルス）！」

グルンッ！

ガギーンッ！

大きな斧の回転斬りが、男ごと吹き飛ばす。

そう、ミラの到着だ。

「ミ、ミラ。悪い、助かったぜーー。」

ゴツンッ。

ミラはクロウにゲンコツをくれる。

「痛っ！？いきなりなんだーー。」

「アレス、なぜ本気で戦わない。私が来なかったら、お前は死んでいたぞ。それが、レイヴァーのリーダーが取るべき行動か？」

「そ、それは……。」

「まあいい、あいつは私が片付ける。そこで休んでろ。」

「片付けるって、殺すってことか？」

ギリッ。

クロウの目がカラスのように鋭くなる。

「……そうだ、あの姿になったしまった者は何があっても元に戻らない、戻るどころか町を破壊してるくらいだ。この町も被害を受けた1つだ。」

「そんな……、じゃあ仮面をつけたやつを止めたってのは。」

「私だ。私が、この斧で切り裂いた。」

「……。」

クロウは何も言えなかった。

そう、ミラがやってることは正しい。

危険因子を排除することで、多くの人が救われる。

実際に、被害にあった人たちは排除することを望むだろう。

だが、どうしても諦められなかった。

目の前で死にたくないと言ってる人を、殺すということが。

不殺の掟を除いても、生きたいと思ってる人を手にかけることはしたくなかった。

「なあ、ミラ。」

「なんだ、少し強く殴りすぎたか？」

「いや、俺は諦めたくない。あいつは、俺を攻撃しながらも死にたくないって言ってたんだ。だから、生きさせるためにやれることをしたいんだ。」

「それはあの男のためか？それとも、自己満足のためか？」

「どう取られたって構わねえ。ただ、みんな平等に生きる権利はあるだろ、それを奪う権利は誰にもない。」

ミラはクロウを見つめる。

そして一言、

「あまいな、アレス。」

「どういうことだ。」

「あの姿から元に戻れた事例はない、なのに誰かを犠牲にする可能性を含んでまでやるべきことか？」

「事例はここにある！俺だ、俺もカラスの仮面に取り憑かれた。けど、アーシェとサリアが救ってくれたんだ。」

「なに！？そんなことあるわけ……。」

ジッ。

クロウのまっすぐな瞳を受けたミラは、

「……嘘は、ついてないようだな。分かった、なら私を使え。」

「ミラを、使う？」

「そのままの意味だ、昨日お前はチャンスをくれと言っていたな。なら、まずはここで1度チャンスをやる。私を矛でも盾でも好きに使え、そして後ろのアフロディテも含めた3人で試してみようじゃないか。」

「ミラ、ありがとう。必ず恩返しする、必ずだ。アーシェ！」

ズザッ！

アーシェは2人のところに合流する。

「アーシェ、これからーー。」

「言わなくてもなんとなく分かるわ、私たち3人であの人を救い出すんでしょ。いいわ、やれるだけやってやりましょう。」

「意外と素直なのだな、魔族のアフロディテは。」

「意外とって失礼ね、あとでミラさんとは話し合う必要がありそうね。」

「その前に、目の前の問題を解決するぞ。ミラ、アーシェ、俺に力を貸してくれ！」

「ぐぉぉ！！」

ミラに吹き飛ばされた男も、体勢を立て直す。

3人と男の戦いが始まった。