第200話 異変

「ふぐっ、う、あぁ!!」


巨人族の男は、耳を劈くような雄叫びを上げる。


その顔には、茶色い猿のような仮面が。



「なんだ、あいつに何が起きた?」

「あの液体を飲んでからよね、この感覚は。……それに。」

「それに?」

「あの雰囲気、クロウがガラスの仮面を付けた時の似ているわ。この体を覆う悍ましさ、冷たさ、もしかしたらあの時のクロウと同じ状態なのかもしれーー。」


シュンッ!

2人の視界から男は消える。


「なっ、消えーー。」

「うぉぉ!!」


スッ!

クロウの目の前に、男の拳が迫っていた。


「っ!?」


ガギーンッ!

ズザーッ!

咄嗟に両手で攻撃を受け止めたことで、クロウは大怪我を逃れる。


「クロウ!」

「ぁぁぁ!!」

「ちっ! 弾け飛べ!闇の波動ダークパニッシャー!」


バゴーンッ!

闇の波動が、男を吹き飛ばす。



だが、体勢を立て直し男はピンピンとしたまま。


「クロウ!生きてるわよね!」

「当たり前だ、けど両腕が一瞬麻痺したぜ、あいつの一撃はアーマーゴーレムよりも数段上だ。」

「それにあの速さ、尋常じゃないわ。あの姿から感じられるのは、殺意のみって感じね。」

「ああ、けどなんであの姿になる必要があったんだ。敵意は出しなかったし、俺たちを敵と認識するには流石に早すぎる。」


ズザッ!ズザッ!

男は辺りの岩に体を当て、砕きながらこちらに向かってくる。


「おいおい、わざわざ壊す必要のないものまで壊す体力もあるのかよ、どんな体してやがる。」

「まずは止めるわよ!仮面をつけたクロウは私とサリーの力で止められた、だったら私たちなら!」

「ああ、同じ結果を出せる!前衛は任せろ!」


シュンッ!

スタタタタッ。

2刀を構え、男に向け走り出す。


「うぉぉ!!」

「少し落ち着いてくれ!俺たちは、あんたと話をしたいだけなんだ!」

「俺の邪魔をするな!」

「聞く耳持たずかよ! 空の光ソラノヒカリ三式サンシキ日輪ニチリン!」


ガギーンッ!

2刀の上段斬りが、男の腕とぶつかり合う。


男は金属のグローブを嵌めているが、予測を遥かに超える力でクロウを押し返す。


「ふざけた力だな、くそ!」

「隙は逃さないわ! 氷つけ!凍て付く光フリーズレイ!」


パキパキパキッ!

ヒューンッ!!

男の足目掛け、氷のビームが照射される。



カチカチカチッ!

足元が氷で覆われる。


その隙に、クロウは距離を取る。



「うぐっ、あぁ、あぁ!」


バキバキバキッ!

足を凍らされてるにも関わらず、無理やり剥がそうともがく。


「やめなさい!そんなことしたらあなたの体が持たないわ!」

「がぁ!!」


ガゴーンッ!

両足の氷を無理やり砕き、アーシェ向け風の如きスピードで迫る。


「やっぱり異常ね、その姿は! 弾け!地の加護レジスト!」


ゴゴゴゴゴッ。

ズンッ!

地面が隆起し、男を覆う。


そして、


「少し痺れるわよ! 審判よ!天罰ジャッジメント!」


ピカーンッ!

バゴーンッ!

空から雷の柱が土の壁ごと貫く。


「これで、少しはおとなしくなるかしら?」

「流石にやりすぎ……ってことはなさそうだぜ、こいつの体は!」


バゴーンッ!

土の壁を砕き、男は体から血を流しながらもクロウとアーシェをその目に捉える。


「全く止まる気配がないな、このままじゃあいつの体が壊れちまう。」

「そうね、どうにかあの仮面を壊す隙が作れれば、クロウの時と同じように助けられるはず。けど、クロウの時と違うのは、完全に彼は呑み込まれてしまってる、ドス黒い何かによって。」

「力を解放して戦いたいけどよ、下手したらあいつを殺しかねない。それだけは絶対避けるには……。」

「私とクロウでさらに連携を取る必要がある、それも作戦を練る時間のない即興のね。どう、やれそう?」


アーシェの言葉に対して、クロウは軽く微笑む。


「ははっ、出来るできないじゃねえ、やってみせるぜ!俺にしっかり合わせろよ、アーシェ!」

「勘違いしてるわよ、合わせるのはあなたの方よ、クロウ!」


ズザッ!

クロウは大剣を構え男に向かって走り出す。


その背後から、


「燃やせ!火炎弾ファイアーショット!」


ボァ!ボァ!ボァ!

複数の炎の弾丸が、男目掛け突き進む。


「がぁぁ!!」


ガゴーンッ!ガゴーンッ!

直撃するが、動じている気配がない。


そして、炎の中から出てくるかのように、クロウが大剣を掲げる。


獣の声ケモノノコエ初式ショシキ番犬の迅牙オルトロス!」


ガギーンッ!ガギーンッ!

上段斬りからの斬り上げが、男のグローブを削る。


「がぁぁ!!邪魔だ!!」


ブンッ!

拳がクロウの顔面に迫る。



だが、


ガシッ!

「なっ!?」


岩でてきた鎖が、男の手を縛り上げる。


「縛り上げろ!岩の鎖ロックバインド! あなたを自由に動かせはしないわ!」

「そして、ここだろ! 拳の響ケンノヒビキ六式ロクシキ疾風迅雷シップウジンライ!」


スッ!

ガゴーンッ!

高速の裏拳が、顔面にクリーンヒット。



「うごぁぁ!!」


ぽろっ、ぽろっ。

仮面にヒビが入り、少し欠片が地面に落ちる。


「よしっ、やれたか、おっと!」


ブンッ!

痛みに苦しむ男が、拳を振り回す。


持ち前の反射神経で、クロウはなんとか避ける。



「アーシェ!これでどうだ?」

「クロウの時と同じよ!あとは、本人の意思が戻ってきさえすればーー。」



男は、割れた顔を2人に向ける。



すると、


ヒュイーンッ!

何ということだ、仮面の欠けた部分がいつの間にか治っていた。


「なんだよ、それ。」

「クロウの時とは、少し違うみたいね、厄介すぎて嫌になるわ。」

「俺は、死にたくない!!」


仮面の男は、止まる気配がなかった。

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