第183話 相棒の本音
スタッ、スタッ、スタッ。
夜空に眩い月が浮かぶ中、クロウは足音を追いかけていた。
(やっぱりそうだ、この足音はアーシェだ。あいつも俺と同じくらいの重症なのに、1人でなんで外に?それに、さっき俺たちの部屋の外にいたよな。)
足音は、人気のない道を通り大きな木が聳え立つ場所に向かっていた。
(でかい木だな、そういやテーベに入った時に見えてたな、ここに何の用が?)
スッ。
アーシェは木の近くまで歩くと、立ち止まり木を見上げる。
スサッ。
クロウは近くの茂みに隠れる。
(何してるんだ?魔力を使いすぎたことに何か関係が?)
クルッ。
アーシェはゆっくりと振り返る。
そして、
「私の後をついて来てたでしょ、隠れてないで出てきなさい、クロウ。」
(ふっ!?なんでバレた!?)
ズザッ。
クロウがアーシェの前に顔を出す。
「なんだよ、気付いてたのか?魔力がない俺をどうやって感知したんだ?」
「あなたと同じよ、まあ、私の場合はあなたの匂いを感じ取ったのよ、それに私が部屋の近くにいたことは足音でバレてたと思ってるわ。」
「まあ、その通りではある。だから、少し様子をみようと思って着いてきたんだ。それで、ここに何があるんだ?」
「……何もないわ、ただ外の空気を吸いたかっただけよ。戻りましょう、お互い怪我はひどいんだから。」
スタッ、スタッ。
アーシェが近付いてくる。
だが、クロウは何かを感じとった。
アーシェの様子がおかしいことを。
体調が悪いとか、そういうことではないことを。
スッ。
そして、アーシェの目の前に立ち道を塞ぐ。
「なに?早く帰るわよ。」
「いや、通さない。」
「なんでよ、疲れてるんだから早く帰ってーー。」
「何か我慢してるだろ、顔に出てるぞ。」
「そ、そんなことないわ。」
スッ。
アーシェはすぐに視線を逸らす。
「マジか、図星だったのかよ。」
「なっ!?勘で言ってたの?」
「ま、まあな、当たったんだからいいだろ!それで何を我慢してーー。」
スタッ、スタッ。
早歩きでアーシェが近付き、
ゴツンッ!
いい音が響く頭突きがクロウを襲う。
「痛っ!なんで!?」
「なんでか分かる?」
スッ。
クロウが見上げると、目が細く尖り怒っているように見えるが、悲しそうにしてるアーシェの顔が。
その理由は、鈍感なクロウでも察することができた。
「アンジュとの作戦会議のことか。」
「まあ、それもあるけど問題はその先よ。」
「その先?」
「アンジュ王女には何か考えがあるんじゃないかとは私も思ってたわ、それをクロウがこそこそ何かして聞いてそうなことも予想してた。」
「そこまで考えてたのか、さすがだな俺の相棒はーー。」
「そこよ!」
ズザッ!
アーシェの声に驚き、クロウは尻餅をつく。
スッ。
アーシェも覆い被さるように、クロウの上に。
「クロウは、本当に私のことを相棒と思ってるの?」
「へっ?あ、当たり前だろ!何度も命を救われてる、何を考えてるか大体察知してくれる、最高の存在だーー。」
「だったらなんで頼ってくれなかったの!!」
「……。」
クロウは答えられない。
アーシェの言うことが正しい。
アンジュとの密会を、2人だけで隠してたことで今回の作戦はうまくいった。
いや、それ以上に良い方法があったかもしれないとクロウも考えてたからだ。
「確かに、情報が漏れたらとても危険なことなのは承知してるわ、だけど、私はあなたにとってそんなに信頼できないメンバーなわけ!」
「そうじゃない!そうじゃ、ないけど、俺はアーシェを危険な目にーー。」
「……悔しかった。」
「え?」
「私はクロウを相棒って思ってる、でも、クロウは私を相棒と思ってないんじゃないかって、そう感じてしまった。」
ポタッ。
一粒の涙が、クロウの頬に。
その涙は、クロウにとって今回の戦いの傷で1番痛く感じられた。
そして、今のアーシェの顔は、この先何があっても忘れないだろう。
「ごめんなさい、考えすぎよね。テーベは守れたんだし、問題なかっーー。」
「アーシェ。」
グッ。
アーシェを自分の胸に引き寄せる。
咄嗟のことに、アーシェも驚きを隠せない。
「な、なに!?」
「悪かった、アーシェにそんな気持ちをさせたくなかった。」
「……わ、分かったから、早く離してーー。」
「俺は!誰がなんと言おうとアーシェの相棒だ、誰よりもお前を信じ、誰よりも背中を任せられる。戦いの時だけじゃない、日頃の生活から俺は支えてもらってる、いつもありがとう。」
アーシェは抵抗することをやめ、体の力を抜く。
「それじゃあ、約束して。この先どんなことがあっても、私にだけは相談して、必ず力になるから。」
「もし、約束を破ったらウェルダンか?」
「……いいえ、私のそばから離れないように縛り付けておくわ、ペットのようにね。」
「おお怖い、今回の反省をちゃんと活かす。この先、似たことがあったとして、上手くいくことばかりではないだろうからな。」
「そうしなさい、サリーとノエルランスも大切な仲間だけど、私があなたの1番になってみせるわ。頭に刻み込んだ?」
アーシェの決意が、クロウに突き刺さる。
「意外と、独占欲強めか?」
「何を今更、私は元魔王の娘よ。」
「違いねえ。」
2人は微笑み合う。
「しっかりと刻み込んだぜ、ありがとうなアーシェ。引き止めて悪かった、戻るかーー。」
「もう少しだけ。」
「ん?」
「もう少しだけ、あなたの温かさを感じていたい。私の心の中の不安を、取り除かせて。」
「ははっ、珍しく可愛いところもあるな。」
「うるさい。」
2人は少しの間体を寄せ合い、決意を表していた。
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