第184話 ドリュアスとは

テーベでソーマとメイリンが暴れた日から3日が経過した。


少しずつ怪我も治りつつあったレイヴァーは宿に戻り、アンジュも城で過ごしていた。


「アーシェ、水とってくーー。」

「はい、これ。」

「サンキュー。」


クロウが要求を言い終える前に、アンジェは水の入ったコップを差し出していた。



「うーん、何か違和感。」

「どうしたのサリー?」

「アーちゃん、今なんでクロくんが水を必要って分かったの?」

「そんなの、視界の端で食べ物だけを口に入れてる姿を捉えてたから、そろそろ水とか液体が必要じゃないかと思っただけよ。」

「そんなこと、簡単にできるものではないよ。すごいな、クロウガルトとアーシェリーゼの関係は。」


シューッ。

少しアーシェの耳が赤くなる。



自覚してしまった、視界に常にクロウを捉えていることを。


「ま、まあ、連携がうまくいけば戦いも楽になるわ、クロウはちょうど扱いやすかっただけよ。」

「うん?俺今しれっとバカにされた?」

「ええ、したわよ、単純な人だって。」

「アーちゃん、照れ隠しするならもっと上手くしないとーー。」

「何か言った??」


スッ。

サリアの背筋がピーンと伸びる。


「それより、今日はアンジュがここに来るんだろ、要件は誰か聞いてるか?」

「詳しくは聞けてないよ、ただ、お話ししておきたいことってところは前に聞いたかな。というより、クロウは王女様を呼び捨てにするのやめた方がいいよ、本人が公認してるとはいえ、周りのエルフが聞いたらどう思うか。」

「ん?ああ、そうだな、気をつける。」


食事を終えたレイヴァーは、宿の大広間に集まる。



すると、時を同じくして、



キィーッ。

ドアが開かれ、アンジュが入ってくる。


「レイヴァーの皆さん、こんにちは。」

「アンジュ様、お暑い中足を運んで頂きありがとうございます。」

「ふふっ、ノエルランスさんは変わらずとてもご丁寧ですね、誰かと違って。」


チラッ。

その視線の先にはクロウが。


(あの腹黒王女、喧嘩売ってるのか!)


ベェー。

クロウは舌を出してアンジュに返答する。


「あら、これは後で罰を与えなくてはいけない人が出来てしまいましたわ。」

「すみませんでした!」

「素直でよろしい、話が逸れてしまいましたわね、本日はもう1人お連れしてるのです。どうぞ。」


スタッ、スタッ。

アンジュの後ろからもう1人の足音が。



それは、



「あなたは!」

「っ!?お母、さん。」

「サリア、エリカ。」


そう、サリアの母、リューネであった。



「あ、ぁ。」


サリアの中のいろんな感情が溢れ、その場を動かずにいた。


その背中を押したのは、



「ほら、しっかり話してきなさい。」

「う、うん。」


アーシェの言葉でサリアは歩きだし、


「サリア、エリカ!」

「お母さん!」


ガシッ!

念願の再会を果たしたサリア。


不幸の姫アンラックプリンセスとして追放されてから、再会できる日をどれだけ待ち望んでいたことか。


「良かった、生きててくれて。」

「うん!いろいろあったけど、ここにいるみんなのおかげで今まで生きてこれたよ!」

「大切なお仲間もできたのね、とても嬉しいわ。私からも、お礼を言わせていただきます。」

「そんな、私たちだってサリーには助けてもらってばかりです。ここは、お互い様ってことで。」

「お優しいのですね、あなた方は。」


スッ。

リューネはアンジュに視線を向ける。


コクッ。

アンジュはその動きに、頷いて答える。


「皆さん、今日お時間頂いたのは2つあります。1つ目は、このテーベが存在し続ける上で作られてきた歴史とドリュアスについて、もう1つは、私たちの植物魔法についてお伝えしたいと考えてます。」

「え!?い、いいのか?俺たちは人族と魔族だぜ、そんな重要なことを話しちまって。」

「確かに種族は違うかもしれません、ですが、この国をお救いくださったヒーローなのには変わりありません。もし、嫌でなければ聞いて頂きたいのです、この国で何が起きてたのか。」

「では、お願いするわ。」


レイヴァーはリューネから語られるテーベの歴史についてまず聞き始めた。



ソーマが持っていた石、メイリンが吸収したものは、ドリュアスというテーベ建国の際に初代王女、ドリュアス・アルテミスが自分の魔力を後世に残すために作った装備だった。


そう、この国を作ったのはサリアとエリカの先祖。



しかし、建国したばかりは皆したがっていたが、各地で暴動などのデモは発生してしまっていた。


そこで、ドリュアスは自分の寿命が短いことを理由に、アンジュの祖先であるセレスティア家に一度王女の座を譲ったのだ。


そうやって、後世にいくつもの家を渡りながらより良い国にしていこうと動いていたのがドリュアス。



彼女は常日頃感じていた、この世界は変わらなければいけないと。



「ここで、私からは一つ提案をさせていただきます。」

「アンジュ王女、まさか。」

「そうです、アーシェさん。私は、王女の地位を退き、サリアさんとエリカさんに譲りたいと考えています。」

「えっ!?」


サリアの目がぎょろっと開かれる。



サリアの意思は、いったい。

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