第182話 体を労わる
ソーマ及びメイリンの騒動を鎮圧し、テーベは落ち着きを取り戻しつつあった。
城の中を彷徨っていたエルフは倒れ、命はやはり尽きていた。
アンジュ及びレイヴァーは城から外に出て、町の方へ向かった。
「えほっ、えほっ。今回ばかりはやばいと思ったぜ。」
「今回だけじゃないでしょ、私たちはいつも危険と隣り合わせで生きてるじゃない、勝てて当然よ。」
「サリアさん、いえ、今はエリカさんですか?」
「ん?両方だよ!ただ、この過ごし方はシンプルに2人分の魔力を使ってるから、これからはうちは用がある時にだけ出てくるわ。」
「そんなことが可能なのかい?」
ノエルが問いかける。
「ああ、大丈夫や!本当のところ、この力を使うことでうちかサリアのどちらかが消えるかと思ってたんや。」
「そんな危険なことをしたの!?サリー、なんでーー。」
「サリア達は、誰も失いたくなかった。もちろん、無茶をしたのは謝る、リィンちゃんにも言われてたからね。結果論だけど、みんな生きてるし前向きに捉えてくれたら嬉しいかな。」
「……当たり前よ、あなたはとてもすごいことを成し遂げたのだから。」
スタッ、スタッ。
アンジュも含め、医者のところに向かう。
コンッ、コンッ。
ドアをノックすると、
「はあい?っ!?レイヴァーの皆さん!王女様まで!早く中に、みんな!急患だよ!」
「ありがとうございます、助かります。」
全員治療を受けていく。
中でも怪我がひどかったのは、クロウとアーシェ。
クロウは骨折に加えて、複数箇所の打撲、切り傷も多数。
アーシェも、外傷はクロウほどではないが魔力が0になる直前まで使い切っていた。
そして、皆病室で休んでいた。
同室になったのは、クロウとアンジュ。
静かな部屋に、リラックスできる香りが漂う。
「ありがとうございます、クロウさん、お怪我は大丈夫でしたか?」
「ん?見ての通りだよ、動くのも正直しんどい。」
スッ。
左手が骨折してるおかげで、片手だけで過ごすことに。
「……申し訳ございまーー。」
「謝るな、これは俺の意思でやったことだ。それより俺はもっと欲しい言葉がある。」
「あっ、えと、あ、ありがとうございました。テーベを、私を救ってくださって。」
「ふっ、どういたしまして。あんたとの作戦がしっかりと機能した、さすが腹黒王女様だな。」
「あらっ、今の言葉、他のエルフが聞いていたら逮捕されちゃいますわよ?」
「怖い怖い。」
ニコッ。
2人は襲撃前夜の作戦を思い返す。
1つ目、アンジュはメイリンが怪しいと薄々感じていた。
もちろん、ドリュアスがメイリンの手にあることも。
どんなものなのかは、アンジュも知らない。
しかし、それを構成する根源は
アンジュはいつか対処しないといけないことは分かっていたが、テーベに自分の仲間は存在しているのか不安になっていた。
そのため、自分は話をできなくなってしまったエルフとして演じることで機を伺っていた。
そこに現れたのが、レイヴァー。
さらに、魔力がないことを感じ、オールドタイプのクロウがいることを確認し、フェルナンドから教えてもらった暗号通信を試し、それを聞き取れたクロウのことを信じられた。
ここから、彼女の意思は行動に移ってきた。
そこで解放したのが、サリアの母、リューネ。
リューネはサリアとエリカの母であり、魔力の使い方も一級品。
そのため最後のクロウとの作戦会議終了後、リューネを釈放し、
そして2つ目、アンジュをどこに配置するか。
メイリンは城の中で暴れ出すと予想していた。
もちろん、それが周りに自分の姿を見せることがなく力を発揮できる唯一の場所だからだ。
レイヴァーなら、アンジュの力を借りなくてもドリュアスを壊せるかもしれない。
だが、保険には保険を。
魔力を完全に消して、アンジュは天井の端に隠れていたのだ。
この保険は、とても必要なものだった。
おかげで、ドリュアスは砕かれ、メイリンの暴走は予想していなかったがなんとか生き残った。
「アンジュの作戦は、どこまで先を読んでるのか少し怖かったぜ。けど、おかげでサリアは力を得て、ソーマも倒せた。」
「先の先を読めなくては、政治なんてできませんわ。メイリンが国のエルフに支持されていたことはよく理解してます、いなくなったことが広まってからのここからが本番ですわ。」
「俺たちもすぐここを出るわけじゃない、何かあれば頼ってくれ。」
「じゃあ、私が疲れたと言ったら会いに来てくれますか?」
「うーん、それは少し難しいかもな、みんなで行っていいなら全然行くけどよ。」
「あらっ、2人きりじゃないなんて残念。」
スッ。
2人の部屋の外を何かが走り出す音がした。
「ん?誰かいるのですか?」
「この足音、アーシェか?走れるほど治ってるわけねえのに、何かあったか?」
スタッ。
クロウは起き上がり、歩き始める。
「私も付き添いますわ、クロウ。」
「いや、大丈夫だ、少し話してくるだけだから。」
スタッ、スタッ。
クロウが外に出ると、入り口が開けっぱなしの状態に。
クロウもその後を追った。
そして、違和感がクロウを包み込んでいた。
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