第174話 ドリュアス

ポロポロポロッ。

部屋の周りの壁は所々崩れ、ソーマがいたところには大きな凹みが。


バサッ。

アーシェとサリアの防御魔法のおかげで、レイヴァーの4人は怪我なく済んだ。


「大丈夫やな?ノエルの兄さん。」

「ああ、助かったよ。」

「クロウも生きてるわよね?」

「アーシェのおかげでな。んで、あいつに何が起きた?」


ボワーンッ。

エルフであったソーマ。


しかし、目の前にはエルフとは似ても似つかない存在。


手足は獣のように大きく膨れ上がり、全身はワインレッドをドス黒くした様な状態に。


全長も6mはあるだろう、巨大になり背中には縫い目のようなものが。


顔は限界をとどめていなく、エルフではない、生きる何かに変わってしまった。


「なあエリカ!これが、ソーマだって言わねえよな!?」

「良い勘しとるわ、クロの兄さん!目の前にいるのが、うちのクソ兄貴、ソーマや!」

「どこをどう見ても彼には見えないね、もはや化け物としか言い表せない。」

「でも、魔力は桁違いに増幅してるわ。みんな、警戒してーー。」

「がぁぁぁ!!」


バヒューンッ!

ソーマの雄叫びが部屋中に響き渡る。


それは怒号とは言わない、嵐とすら勘違いするほどの迫力。


「はぁ、こうなっちまった以上、やるしかねえな。」

「ええ、この国を守るためにモンスター退治といきましょうか、みんな!」

「そうやな、あのクソ兄貴を止めないとこの国は滅びかねない、みんなの力頼りにしてるで!」

「任せろ!いくぞ!」


ズザッ!

まずはクロウとノエルが接近する。


「はははっ、お前たちじゃ俺には勝てない、ここで死ぬ運命。」


ズザザッ!

ドゴーンッ!

ソーマの体から黒い枝が複数生え、クロウ達を襲う。


「おいおい、身体にまで木を生やしてやがるぞ!」

「なら、弾いて進むまでーー。」


ブンッ!

ピシャッ!

ノエルの右腕に傷がつく。


完全に木の枝からは避けていた、しかし、当たっていないはずの体から血が流れたのだ。


「うっ、何が起きた?」

「2人の兄さん!その枝は、よく分からんけど何かやばい!出来るだけ余裕を持って避けるんや!」

「無茶な要求だな、くそっ!」


ズザッ!

サッ!

2人は力を解放した状態で避けるのがやっとの攻撃。


それほどに、ソーマの力は膨れ上がっていた。



(なんでや、ドリュアスにはそんな力はないはず。あれは簡単に言えば、この国の統治者を守るための魔力の塊のようなもの。いくら取り込んだとしても、ここまで膨れ上がるなんて……まさか!?)


ガギーンッ!ガギーンッ!

クロウとノエルは避けきれない枝を弾く。


パシッ。

だが、確実に弾けてるように見えても体に傷が生まれる。


「くそっ、厄介すぎだっての。」

「2人とも下がりなさい! 審判よ!天罰ジャッジメント!」


ピカーンッ!

ドゴーンッ!

ソーマだったものの頭上から、雷が降り注ぐ。


「うっ、痛いな、女!」

「ダメージは通ってる、2人ともなんとか近づいてーー。」


ピカーンッ!

ドゴーンッ!

アーシェの頭上から、眩しく光るものが。


そう、先ほど放った魔法がアーシェにも降り注いだのだ。


ズザーッ!

ドゴンッ!

その衝撃をまともに受けてしまったアーシェは、壁に叩きつけられる。


「っ!?アーシェ!」

「ギリギリ平気や、アーの姉さんは生きてる!うちが代わるから、クロの兄さんは応急処置を!」

「分かった!」


ズザッ!

ガギーンッ!ガギーンッ!

ノエルとエリカがソーマだったものの攻撃をギリギリで捌いていく。


「まだ平気かいな、ノエルの兄さん?」

「ああ、まだパーティは終わってないんだから、退場はしないよ!」

「ありがとうな、もう少し付き合ってくれや! 玖の舞クノマイ!終末の鎮魂歌ラストレクイエム!」


ズザッ!

グルルンッ!ジャギンッ!

ダガーでその体を斬り上げ、横回転しながら切り刻む。


「痛ぇ、痛ぇよ!楽しいな、エリカリット。」

「なんも楽しくないわ、クソ兄貴!」

「本当、なぜ兄というのはこんな人ばかりなんだか! ゴウ九の型キュウノカタシップ!」


シュバーンッ!

勢いの乗ったサマーソルトが、顎を捉える。


「うぐっ、邪魔だ、消えろ。」


バゴーンッ!

「うはっ!」


体を大きく揺らした事で生まれた衝撃波が、2人を吹き飛ばす。


「はぁ、はぁ、ドリュアスはどこにあるんや。それさえ壊せば、この状態は止められるっちゅうのに。」


エリカが突き進もうとすると、


フラッ。

体がふらつき、体勢を崩す。


「しまっ、限界が近いーー。」


シュンッ!

そこに黒い枝が数本突き進んでくる。


「だめや、避けきれないーー。」

「エリカリット!」


ドンッ!

バゴーンッ!


エリカはノエルに突き飛ばされ、地面に倒れ込む。


「う、っ!?ノエルの兄さん!」

「ははっ、まずは1人。」


枝の先には、手や足に枝が突き刺さるノエルの姿が。


身体はぐったりとしており、力が入っていない。



「そんな、なんでうちなんかのために。」

「念には念をだ、これで確実に死ぬ。」


シュンッ!

さらにノエル目掛け黒い枝が迫る。


「や、やめろ、クソ兄貴!」

「1人退場、お疲れさーー。」


バヒューンッ!

ジャギンッ!

巨大な風の刃が、枝を切り裂く。


「うん?何が起きーー。」

歓喜の鎖ラックチェーン解除リリース。 拳の響ケンノヒビキ八式ハチシキ雷火ライカ!」


ズザーッ!

バゴーンッ!

地面に拳を擦らせ、熱を持たせた拳がソーマだったものを打ち飛ばす。


「うぐっ、まだ動けたか、邪魔者ども。」

「ええ、おかげさまで体が温まったわ、あなたに対する怒りでね!」


ボァァ!!

アーシェは全身に傷を負いながらも、中堅の力セカンドギアを、発動していた。


そして、クロウも一瞬2つの鎖を解放し、攻撃を放った。


「てめえがやったこと、その身で後悔しろ、俺たちは今冷静じゃねえからよ。加減はできなそうだ!」

「あなたにはウェルダンじゃ生ぬるいわ、塵になりなさい!」

「うがぁぁ!!」


クロウとアーシェの2人が、ソーマだったものと戦いを始めた。

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