第157話 モンスターの異変

スタッ、スタッ、スタッ。

クロウとサリアは町を出て、そのままセレスに向かっていた。


「あの町で知り得た情報は、かなりの収穫だな。エルフが魔族に抗うために生み出した魔法、それも、多くの命を犠牲にしてしまう最悪の魔法。」

「そうだね、こんな魔法は絶対に存在しちゃいけない。もしあの池が魔力の貯蔵庫マジックシェルターだとしたら、どうにか解放する方法を見つけないと。こんなことで、無駄な犠牲者を出したくない。」

「まずは情報の整理からだ、アーシェとノエルも何かしら手に入れてくれてるはずだ、セレスに戻ろうぜ。」

「うん、必ずこの事件は解決する。そして、エリカリットのことも、ソーマのことも、なにより、


スッ。

クロウがサリアの前に回り込んで顔を覗き込む。


「それともう一つ、不幸の姫アンラックプリンセスがサリアじゃない、そんなものは存在してなかったってことを証明するぞ!そうすれば、お前も少しは楽になれるだろ?」

「……うん、ありがとう。そうしたら、何が変わるのかな?」


サリアは空を見つめ、その先にある自分を想像する。


これまで、クロウ達と合流する前の孤独な時間は思い出したくないほど。



クロウとアーシェと出会っていなければ、他人を信じることなんてしない、孤独に死を迎えていただろう。



そんなサリアの不安を、クロウの言葉がかき消した。



「そんなの、簡単だよ。無意識下でサリアの心を縛ってる鎖が千切れる、サリアは解放されるんだ!……でも、もし千切れないって言うなら俺がお前の背負ってるものも含めて全部受け入れる。そんで、長年取り憑いたその呪縛を、俺がこの手で全部ぶち壊してやる。そしたら、これまで通り家族で楽しく過ごすんだ、いや、これまで以上にな。



ピクッ。

サリアの耳が大きく震える。


それは、今まで見たことのない動作だった。


(ああ、そうだ、この温かさはサリアを楽にしてくれる。心が温かくなるような、不思議な感覚。今確信した、クロくんは、サリアにとって大切な存在なんだ。……アーちゃん、サリアは少し分かった気がするよ、この気持ちが何なのかほんの少しだけ。)


ニコッ。

サリアはクロウの手を引き、


「じゃあ早く戻ろう!善は急げだよ!」

「おう!」


タタタタタッ。

サリアは初めて見る心からの笑顔を浮かべていた。


心なしか足も軽く、セレスへの道が近く感じていた。




そして、町を出てから20分後。



「ここで半分くらいか、セレスも少し見えてきたな。」

「うん、早く戻ってご飯食べながら作戦会議をーー。」


ピキーンッ!

サリアは異常な魔力を感じ取る。


「クロくん!近くにモンスターがいるよ、けど、何だろう、何か変。」

「変?まあ、行ってみれば分かるだろ!案内してくれ!」


ズザッ!

2人が駆け出していくと、


「ガルゥ!!」

「何だよこいつ!サーベルウルフじゃねえよな?」


エルフの兵士が、本来は綺麗な白色の毛並みをしているが、この個体は紫色に光るサーベルウルフと戦っていた。


「スピードもパワーも桁違いだ、各自陣形を乱さずーー。」

「ガルゥ!」


ドスンッ!

サーベルウルフのタックルが、1人のエルフを吹き飛ばす。


「うはっ。」

「大丈夫か!くそっ。」


エルフ3人は、サーベルウルフ4体に確実に追い詰められていた。


「どうする、どうにか撤退しなくてはーー。」

「ガァォ!」

「っ!?」


シュンッ!シュンッ!

左右に大きく跳びながら、その鋭い牙でエルフを狙う。


「間に合わなーー。」


ガギーンッ!

ガチガチガチッ!

そのサーベルウルフの口は、大剣を齧り付いていた。



「よお、俺の大剣の味はどうだ、美味いだろ!」


ガゴーンッ!

大剣で振り払い、クロウが助けに入る。


「おいあんた、こいつらはいったい何があった?普通の個体じゃないよな。」

「あ、ああ。我々も、討伐を依頼されてきたばかりで状況が把握できていないんだ。」

「ガルァァ!!」


もう1体のサーベルウルフが同じエルフを狙う。


「なるほど、こいつら俺らの強さの優劣を認識してやがるな、サリア!」

「任せて! 初舞ハジマリノマイ剣舞ブレイドダンス!」


クルッ、クルッ。

ジャギンッ!

踊るようなダガーの舞がサーベルウルフを斬り裂く。


「キャンッ。」


ポトンッ。

サーベルウルフは通常の素材となって地面に落ちる。


「素材は落ちる、ってことはこいつらは改造とかされてるわけじゃねえみたいだな。」

「うん、多分あの池が原因だよ、この子達は魔力を暴走させられてるんだと思う。」

「なるほどな、それで感覚も鋭くなって弱いやつから狩るって言う戦略的なものも考えられるってことか。おい!ここは俺たち2人がやる、お前達は1箇所にまとまっててくれ!」

「わ、わかった、すまない。」


ズザッ。

エルフ達は3人で固まり、防御の姿勢をとる。


「グルゥゥ。」

「確かにそうだな、怒ってると言うより、怒らされてるって気がするぜ。」

「この子達は何も悪いことしてない、被害者なだけなのに。」

「けど、ここで見逃すわけにはいかない。倒すぞ、俺たちが無駄な被害を減らすんだ!」

「うん、わかった、やるしかないよね。」


スチャッ。

クロウは2刀を、サリアはダガー構えてサーベルウルフと対峙する。


「お前達を解放する、次の被害者を生み出さねえためにも。だから、静かに眠ってくれ。」


ズザッ!

2人は3体のサーベルウルフと戦い始めた。



果たして、モンスターの異変はどこまで続いているのか。

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