第130話 旅立ちとプレゼント
その日の修行後、クロウはリィンと町を見て回っていた。
多くのお店は食材を置いているところであったが、リィンが連れて行ったのはアクセサリーなどが売られている通りだった。
「こういうところは久しぶりに来たぜ、何か欲しいものあるのか?」
「特にこれがほしいっていうのがあるんじゃないんですけど、ちよーっと。」
スッ。
リィンがクロウの前に立つ。
「ちょっと?」
「これまでクロウさんと過ごしてきて何年か覚えてませんが、長い時間を過ごしたなって思うんです。」
「そうだな、俺が行き場所がないときからアルタで世話になって、ナウサでも、今も頼りにしてる。本当に助かってるよ。」
「それじゃあ、クロウさんがあたしに似合いそうなものをプレゼントしてください!あたしは何も言わないので!」
「えっ!?難易度高くないか!?」
クロウは頭を回転させる。
「そうですか?何年も一緒にいるんですから、どう言うのが好きかくらいわかりますよね?」
「え、あ、いやーー。」
「わ、か、り、ま、す、よ、ね?」
「わ、分かります!任せろ!」
スタッ、スタッ。
クロウは辺りのアクセサリー屋さんを見て回る。
(こういうのって、何を選ぶのが正解なんだ!?リィンに似合うものなんて、そりゃたくさんあるけどその中から喜ばれるものっていったら候補が多すぎる!)
戦い以上に、クロウは苦戦しているようであった。
「ふふっ、あたしのプレゼントのためにあそこまで考えてくれてる、それだけで十分嬉しいですけどね。」
(あたしは理解してる、まだレイヴァーに入るのは早いって、皆さんの足を引っ張ってしまうって。だからこれは、あたしが夢を追い続けるためのわがままなんです。許してください、クロウさん。)
数店舗をまわり、クロウは決めた。
「よしっ、これをもらっていいか?」
「あいよ、プレゼント用かい?」
「そうだけど、そのまま付けてやりたいから袋はいいぜ。」
「あいよ、お会計はこれね、ありがとう。」
クロウは手に何かを持ち、リィンの元に戻る。
「買ってきてくれたんですか?」
「ああ、俺はこれが似合うと思う!」
スッ。
クロウの手のひらには、小さい青いバラが彩られたヘアピンが。
「リィンの綺麗なオレンジの髪色には、こういうのがいいんじゃないかと思うんだけど、どうだ?」
「じゃあ、付けてみてください!」
「あ、ああ。」
スチャッ。
リィンの髪に、綺麗なヘアピンがつけられる。
「どう、ですか?」
「うん、とても綺麗だ。」
「えへっ、ありがとうございます!大切にしますね!」
「喜んでもらえたら嬉しいよ。ついでだ、何か食べ歩きしようぜ、まだ宿に帰るには早いしよ。」
「あ、いいですね!行きましょう!」
スタッ、スタッ。
2人は再び歩き出す。
(クロウさんからのプレゼント、これがあるだけであたしは修行を頑張れます。絶対に、強くなってみせる!アテナ家の槍術を扱えるように!)
青い薔薇の花言葉は、夢叶う。
リィンの中で、さらに固い意志が生まれた。
そして、リィンは同行するのもう少し後にすると伝えたのであった。
そして2日後、レイヴァーは町を出る準備をしていた。
「数日間修行つけてくれてありがとうな、ジュール。」
「いえいえ、こちらこそ町を守ってくれて助かったよ。もっと丁寧に教えられたらよかったんだけど、そうも言ってられなそうだもんね。」
「ああ、テーベに行ってソーマと話をする、そこで俺たちは聞かないといけないことがあるからな。」
「クロウさん、一つだけ伝言が。」
スッ。
クロウにリィンが耳打ちする。
「皆さんがエデッサで助けてくれた、フォルテ兄妹のお兄さんなんですが、どうやらテーベに行く計画を立ててたみたいなんです、少し気になりませんか?」
「そうだな、頭の中に入れとく。ありがとうな。」
「いえいえ、こちらは任せてください!」
スタッ。
レイヴァーの4人は門の前で振り返り、ジュールとリィンを見つめる。
「あの2人なら、任せられるわね。」
「うん!サリア達は、少しでも早くテーベに行ってソーマに聞きたいこと聞かないと!」
「そうだね、行こうか。みんな。」
スタッ、スタッ、スタッ。
レイヴァーはテーベに向けて歩き始めた。
時は少し戻り、出発する数時間前。
ノエルはジュールに呼び出され、広場に来ていた。
「あ、待たせて悪かったね、ノエルくん。」
「いえ、それでどうしたんですか?僕だけに用って。」
「一つだけ、確かめておきたいんだ。」
スッ。
ジュールの表情が険しくなる。
「もし、そのソーマっていうエルフと戦って倒さなくちゃいけない場合、トドメをさせるのは多分、君しかいないと思うんだ。」
「ど、どういうことですか?」
「クロウくんには、不殺の掟がある、アーシェさんもクロウに従うだろうさ、サリアさんは同胞に手をかけるのに抵抗があると思う。レイヴァーの中で、1番冷静に最適な判断をできるなら君だけだと思うんだ。」
「……。」
ノエルは俯く。
「もちろん、最悪の場合はってことだけどね。けど、もし万が一があった場合はこれを使ってほしい。」
スッ。
ノエルは一つのものを手渡される。
「これは?」
「僕が時々使う銃だよ。ハンドガンっていうらしい、ここを引くと金属の弾が出るよ。」
「なんで、僕に?」
「僕が責任を負うためだよ。君たちには、この先もっと多くのことをしてもらわないといけない。だから、余計な責任を負わせたくないから、これを使ってくれ。この弾丸は、僕が放つものだ。責任は僕が持つ。」
「……けど、それではあなたが!」
スッ。
ジュールは笑顔で見つめる。
「君たちの力になりたいんだ、僕の意思でね。だから、僕はノエルくんに託すよ、判断は任せる。」
スタッ、スタッ。
ノエルは銃を握りしめ、その場に立ち尽くしていた。
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