第124話 タイミングを掴む

一点集中ピント?それってどういうものなの?」

「今のクロウくんの例で言えば、彼のイメージは拳で敵を吹き飛ばすことに集中しててあの木全体に衝撃が走るようになってたんだ。けど、姿勢と打ち方を変えるだけで、体が自然と木の一点を狙った。」

「そうか、僕たちが戦う敵がどれだけタフでも、その力を使いこなせれば。」

「そうだよ、相手に着実にダメージを負わせられる。ミラさんは、ここで1週間ほど練習していたよ。」

「さっきの感覚、体の負担も少なかった。それに、姿勢を変えるだけじゃなくて意識的にこれができたら、文字通りを放てる。」


スッ。

クロウは自分の拳を見つめる。


「ただ、一つ忘れないでほしい。今のクロウくんは、基本ができていたからすぐ体現できたこと。それこそ、イメージを形にして放つ魔法や自己流の技はそれだけ会得が難しいんだ。」

「そうなると、私たちの中での適性はクロウとサリアのダガー技、辺りかしらね。」

「そうなのかい?僕は、彼も似たような力を感じるけど?」

「あ、すみません。僕の技は、大元は騎士道の戦い方ですが少しアレンジしてしまってるんです。」

「そうなんだね、でも、君はとても器用そうだしなんとかなると思うよ!ただ、今日は少し忙しいから明日から訓練でもいいかい?」


スッ。

クロウは手を差し伸べる。


「いつからでもいいぜ、ジュールに合わせる。よろしく頼むな、俺たちを強くしてくれ。」

「……ふふっ、やっぱりオールドタイプの人たちは面白いね。ミラさんも最初に握手を求めてきてたよ。」

「そうなのか?なんか、ミラと同じってのもなんか嫌だな。」

「クロウ、ミラさんの斧に刻まれるわよ?」

「やべっ、気をつけよ。」


ガシッ。

クロウはジュールと固い握手を交わす。


「君たちは最優先で体を休めたほうがいいね、宿屋に大きなお風呂もあるから癒されてくるといいよ。」

「ありがとうございます、ジュールさん。行こうか、みんな。」

「ああ、また明日な、ジュール。」

「うん、また明日。」


スタッ、スタッ、スタッ。

ジュールはレイヴァーを見届ける。



「ミラさん、あなたは1人でなんとかすると言ってたけど、こんなに近くにいるじゃないですか、あなたの希望になれそうな人たちが。やっぱりあなたは、


スタッ。

ジュールはギルドに入っていった。



レイヴァーは宿に戻り、明日からの動きについて話し合っていた。



「誰から技を教えてもらう?サリアとクロくんは怪我の度合い的に後半とかがいいと思うんだけど。」

「そうね、ただ私の魔法もジュールさんの言ってた通りかなり難しそうだったから、ノエルランスからでいいんじゃないかしら?」

「僕かい?でも、まだ僕はレイヴァーに入って日も浅いしーー。」

「んなの関係ねえよ、ノエルはレイヴァーの一員で、俺たちは家族だ。だから、先に強くなってくれるなら、俺たちを守ってくれよ!」


ニコッ。

クロウが微笑みかける。


その笑顔は、ノエルの迷いを消すには十分すぎるものであった。


「分かった、なんとかものにして見せるよ。」

「大変だったら、いつでもサリア達に頼ってね!動かないような体じゃないから!」

「ありがとう、サリアリット。それじゃあ、あとは部屋で休憩でいいかい?」

「そうだな、歩いて疲れたし今日は解散するか。」


スタッ、スタッ。

レイヴァーは2人部屋に各々分かれる。




その夜、


キィーッ。

一つの部屋のドアが静かに開かれる。


スタッ、スタッ。

そして、静かに外に向かう。



それは、クロウの姿であった。



ズザッ。

クロウは夜風に当たりながら、近くのベンチに座っていた。



「ふぅ、風が気持ちいいな。」


クロウは考えていた、これからのことを。



(俺たちが強くなったとして、蠢く会と魔族とは必ずぶつかる。そして、あのソーマとかいうのも俺たちの敵。もっと戦力を上げたいけど、ミラは何かを気にしてたし、エリカリットのこともある。何から片付けるかな。)


コンッ。

クロウの頭に何かが乗せられる。


「ん?なんだ?」

「何1人で考え事してるの?」


アーシェが木の容器でできた飲み物を渡してきた。



「なんだ、寝てなかったのか?」

「寝ようとしてたわよ、けど、誰かが外に出たみたいだったからついてきたらあなただったってわけ。」

「なんだよそれ、俺のストーカーか?」

「あ?ジュース顔にかけるわよ?」

「嘘です、ごめんなさい。」


スッ。

2人は隣同士に座る。


その場の静寂は、2人しかこの空間にいないように思わせた。


「なあ、アーシェ。」

「なに?」

「俺さ、エデッサの時に頭をよぎっちまったことがあるんだ。」

「……言わなくてもなんとなくわかるわ、あなたは馬鹿がつくほど優しいから。」


スッ。

アーシェがクロウにくっつく。


「おい、どうした?」

「私の体は暖かい?」

「え、あ、ああ。そりゃ生きてるんだから暖かいだろ。」

「そうよ、私は生きてる。私だけじゃない、サリーもノエルランスもミラさんも生きてる。もちろん、エデッサの一部の人も。」


スサッ。

アーシェはクロウの手を持ち上げる。


「あなたは後悔してしまってる、この手でもっと助けられた命があるんじゃないかって。」

「……さすが、アーシェだな。そうだ、俺にはもっと誰かを守れる力があると思ってた。けど、それは勘違いだったんだ。」

「勘違いなんかじゃないわ。あなたは、私たちだけじゃなくエデッサの人たちを助けたわ。でなければ、もっと多くの犠牲が出てた。」

「でも、もうあの町はーー。」


グイッ。

アーシェはクロウの顔を振り向かせる。


「まあた、悪い癖出てるわよ。全部1人で背負い込まない!私たちは神じゃない、この世界に生きる1人の生き物なんだから。」

「アーシェ。」

「もし、それでもあなたが自分を弱いと言うなら、まずは私のことを信じてみなさい。私は胸を張って宣言できるわ。1


ドクンッ。

クロウの心臓が響き渡る。


アーシェの言葉が、彼を励ましてくれた。



「そうだな、これからも信頼してるぜ、相棒。」

「ええ、お互い人生を変えあった同士、柔軟に生きていきましょう。」


2人はゆっくりと別れ、次の日を迎えた。

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