第118話 サリアの気持ち
「これって、何が起きてるんだ?サリアの見た目だし、匂いとかも本人のものだ。けど、明らかに……。」
「ああ、元々のアルテミスではないな。ただ、私にもこうなってしまった理由はわからない。だから、アルテミスも個室に入れたんだ。周りの人に、心配をかけさせないために。」
「なるほどな、俺たちがここに運び込まれてどのくらい経つんだ?」
「大体、2ー3時間というところだろう。」
スサーッ。
テントの扉が風で舞い上がり、そこから涼しい風や葉っぱが入ってくる。
すると、
「ピクッ。」
「ん?今、サリア動かなかったか?」
「そうだったか?私の目には何も。」
「そういやよ、エルフって自然の力を借りて戦う種族なんだよな?だったら、木とか自然が多いところに行ったほうがいい可能性はないか?」
「……一理あるかもしれんな、やってみるか。」
ガシッ。
ミラは右肩でクロウを担ぎ、左肩でサリアを担ぐ。
「マジかよ、ミラの筋肉どうなってんだ?一応、戦士として活動してる2人を同時に持ち上げられるか?」
「この方が効率いいだろう、私は力持ちだからな、これくらいは任せてくれ。」
「もはや馬鹿力だろーー。」
「何か言ったか?」
ギリッ。
ミラの目が狐のように鋭くなった気がした。
「いや、お陰様で助けられた力だなと思ってよ、それよりどこか自然豊かな場所はあるか?」
「そうだな、町長の家の方にはまだ無傷な大木があったはずだ、そこへ向かってみよう。」
「分かった、頼むぜ。」
スタッ、スタッ、スタッ。
ミラは、数分2人を担ぎながら歩き町長の家の近くにたどり着く。
「ここだ、無事な場所だとしたらここくらいだろうな。」
「分かった、俺も一緒に降ろしてくれ。少しずつ、力が入るようになってきた。」
「了解だ。」
スザッ。
ミラは2人を、大木の近くのそっと置く。
「ふぅ、ミラは体大丈夫か?あのエルフと、モンスターまで退けてくれたわけだし。」
「私は平気だ、なにせ、レイヴァーのダメージを負っていたんだからな、どんな頑丈でも、不死身でも、全力を出し続けられなかったようだ。」
「それなら良かった、サリアはどうだ?」
スーッ。
ファサァ!
大木が風も吹いていないのに大きく揺れだす。
それに呼応するかのように、辺りの枝や地面も少しずつ揺れている気がする。
「なんだ?よく分かんねえけど、植物達がサリアのところに集まろうとしてる?」
「そうなのかもしれんな、確かにエルフは植物魔法を使役と似た形で使う、アルテミスは植物達に信頼されてるから、植物の方から助けようとしているのかもしれないな。」
「そんなことあり得るのか、まあ、目の前で起きてちゃ信じるしかないか。」
シュイーンッ。
少しずつ木や葉っぱが呼応して、サリアの周りに活力を漲らせていく。
草や葉、枝は踊るように転がり、木はサリアに向け揺れる。
「すげぇ、俺たちみたいに生きてるかのように動く。これならもしかしたら。」
「ああ、可能性はあるな。」
シュイーンッ。
サリアの体が薄黄色く光り、みるみるうちに痩せこけていた体がいつもの体に戻っていく。
数分で顔色も良くなり、その後光が消え地面に横たわった状態になる。
「終わった、のか?」
「そうみたいだな、ではアルテミスの様子を見に行ってみようか。」
スタッ、スタッ。
2人が歩き始めると、
「っ、ん?ここ、は?」
パチッ。
サリアはゆっくりと目を開き、目の前に広がる青い空を捉える。
どういう状況なのか把握しようとしていると、
「サリア!まさか本当にこれで正解だったのか!?」
「クロ、くん?それと、あなたは。」
「さっきあの男との間に割って入った、ミラ・アトラースだ。体は動きそうか?」
「う、うん。至る所が痛むけど、動かすのには問題ないーー。」
スサーッ。
サリアの顔から一瞬血の気が引く、
その一瞬の変化を、クロウは見逃さなかった。
「どうしたサリア?何かあったか?」
「エリカリットが反応してくれない。いつも、サリアの内側に確かにいてくれてたのに。」
「どういうことだ?サリアがエリカと変われなくなったのか?」
「エリカ?いきなりあだ名呼び、まあ、でもそんなところ。これまでは、サリアの力の他にエリカリットの力も内側に感じてて、それを完璧に引き出すためにサリアは何度も実験として体を貸してたの。」
「先ほどからのその話し方、やはりさっきまでのアルテミスではないのだな。私が来た時点で、かなりの重傷を負っていた、今は長い眠りについたとは考えられないか?」
ズザッ。
サリアは座り込み、胸の前で手を重ねる。
「実はね、サリアもエリカリットのことは詳しくないの。エリカリットは、サリアよりもこの体とか国のことについて詳しそうなんだけど、何故かまだ教えてもらえなくて。」
「そうだったのか、まあまずは、サリアがいなくちゃエリカリットとも絶対に会えない。なんとかサリアが生きててくれてることを、俺は喜ぶぜ。」
「そうだな、深く考えすぎて自分を追い詰めてしまうのも良くない。他のメンバーの顔でも見に行くのはどうだろうか?」
「う、うん。サリアもそうしたい、みんなが無事な顔を見れたらホッとして何かわかるかもしれないし。」
ニコッ。
サリアは優しく微笑む。
ズザッ。
そんなサリアを、クロウは優しく包み込む。
「無理に笑おうとしなくていい、辛い時は辛いって言え。俺にできることなら、なんでもするからさ。」
「う、うん。ありがとう。でも、今は平気、アーちゃん達のところに行こう。」
「分かった。」
スタッ、スタッ。
3人はアーシェ達のいるテントに向かった。
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