第117話 力の代償

スサーッ。

ボロボロに壊されたエデッサに、静かな風が流れる。


家々は倒壊し、辺りの地面や壁は傷だらけ。


ミラの加勢でなんとかソーマを退けるが、レイヴァーも大きなダメージを受けていた。


地面からはたくさんの黒い根が生え、まずは無事な人だけで緊急用のテントを立てていた。



そこに、クロウ達も運び込まれていた。



「……っん?ここは?」


ボワァ。

クロウが感じたものは、白い布と外の騒がしい音。


「どこだ、部屋の中?」

「起きたか、アレス。ここは、緊急用のテントの中だ。お前は気を失ってたから、私が運んだ。」


クルッ。

クロウは隣に座っていたミラに気がつく。


「ミラ、ありがとうな、マジで助かったよ。アーシェ達は?」

「他のテントにいる。アレスは特にダメージが大きかったからな、私が看病してたんだよ。」

「そんなことまで、何から何まで悪いなミラ。っ……??」


グッ。

体に力を入れようとするが、上手く手足が動かない。


何度か試してみるが、結果は変わらず。



クロウは起き上がれないようだ。


「体が動かないんじゃないか?」

「ああ、ミラの言う通りだ。なんでだ?今までもっとでかい怪我をしたはずだけど、そん時より体に自由がねえ。」

「それはアレスの力、感情解除エモーションリリースで2つの力を同時に解放したからだと思う。」

「俺が、憤怒と歓喜を同時に解放したから?確かに、今までやったことはなかったな。」

「当たり前だ。」


ゴスッ。

ミラのチョップがクロウの頭に入る。


「痛っ、なんだよ、何か知ってんのか?」

「知っているよ、まさかそっちが知らないとは思ってなかったさ、オールドタイプのレイヴンズの人たちは基本特殊な力を持った家の生まれだ。アレスで言えば、感情の力。私は、自身の力を手や足の1箇所に集中させて瞬間的に爆発的な力を得るエンジン全開フルスロットル。」

「そんな力があるのか、だったらどんな使い方がダメなんだ?」

「簡単だ、同時の使用だけだよ。私も手に発動させた状態で足には発動できない、アレスは2つの鎖を同時に断ち切ったからその反動で動けないのさ。」

「マジかよ、生きることができて良かったぜ。ミラがいなかったら、俺たちは多分死んでた。」


ズザッ。

ミラはクロウのベッドに腰掛ける。


「もちろん、アレスを責めるつもりはないし気持ちがわからないわけじゃない。助けるために、自分の持てる力を全部出してどうにかしようとするのは間違いとは思わない。けど、自分の力について、自分が1番詳しくなくちゃいけないのもわかるよな?」


グッ。

ミラはクロウの顔を覗き込む。


「ああ、分かった。はしないし、今教えてもらったから使い方は考えるよ。他に俺の力のことで何か知らないか?」

「まあ、アレスにはもう一つの力があるはずだが、それはまだ教えられない。」

「なんでだ?俺にはまだ使えない力なのか?」

「教えられないというのは間違いだな、正確には全てを私が理解してるわけじゃないんだ。私にも、もう一つ力があるはずなんだが、情報が足りない。それを突き詰めようと、私は旅してるんだ。」


スッ。

ミラは立ち上がる。


「なんだよその力って、俺たちだから使えるものなのか?」

「その可能性もある、だが、オールドタイプだけとは限らない。それこそ、アレスの周りのアフロディテやアルテミスもあるのかもしれない。もっと調べなきゃ答えは出せないがな。」

「なるほどな、それじゃあ俺たちもその手伝いをさせてくれよ。強くなれるなら、協力して損ないだろ?」

「……まあ、いい案だとは思うがまずは他のメンバーの意見も聞くべきだろう。レイヴァーは、4人になったんだろ?」

「それもそうだな、ただ、ミラ。」


スッ。

ミラがクロウに振り返る。


「まだ俺動けないからよ、連れて行ってくれないか?」

「……それもそうだな。まずは、アルテミスのところに連れて行ってやろう。」

「ありがとうな、何度も助けられてーー。」


バサッ!

ミラはクロウの体をお姫様抱っこする。


「え!?なんでお姫様抱っこ?」

「うん?これが1番抱えやすいからな、ほら外に出るぞ。」

「待て待て待て!流石に恥ずかしいっての!!」

「注文の多いやつだな、怪我人は静かにいうことを聞け。」

「くそっ、もう力の使い方を間違えねえ。」


スッ。

クロウはミラにお姫様抱っこされながら、エデッサの現状を見る。



スサーッ。

辺りの家々はボロボロ、戦闘の激しさを物語ってる。



そして、目に入ってきてしまう血痕。


クロウ達のものだけじゃない、逃げ遅れたエデッサの人たちのものもあった。



「なあ、ミラ。エデッサの人たちは……。」

「アレスが背負いこむ必要はない。レイヴァーは頑張った、だから生き残った命をさらにつないでいけ、無くしたものはできる限り心に留めておけ。」

「……ああ、分かった。サリアのところに頼む。」

「ああ。……お節介かもしれないが、アレスはとても優しいのは理解してるつもりだ、だからもう一度言う、

「……。」


グッ。

クロウの歯に力が入る。


彼は悔しいのだ。



誰かを助ける力を持ってる、そこに助けられる命があった、だが助けられなかった。


全てを助けることはできないと分かっていても、悔しいものは悔しかった。



クロウは心の中で誓う、同じ過ちは絶対繰り返さないと。



ズサッ。

そして、ミラとクロウはサリアのテントに入った。


「おい、ミラ、サリアは本当に大丈夫なのか?」

「怪我はそこまででもない、ただ……。」


サリアの体が、着実に痩せこけていた。


「何故か、体がとても痩せこけてしまっているんだ。」

「サリア、お前に何が……。」


サリアにはいったい何が起きてるのか。

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