第101話 帰り道
スタッ、スタッ、スタッ。
4人はナウサの帰路に着いていた。
魔族大使館で、ゴーレムの資料を手に入れた彼らはダイカンとリィンも含めてこれからの作戦を立てようとしていた。
「なるほどね、クロくん達の見つけた資料に書いてあることが本当ならかなり大変だね。魔族と蠢く会が手を組んでたらもちろん嫌だけど、全く別の集団として動かれるのも厄介すぎるよ。」
「そうだね、少しでも情報を手に入れて最善の選択をしないと、僕らだけじゃ対処しきれないと思うし、作戦を立てたいね。」
「なあ、ノエルは蠢く会の情報をどこで手に入れたんだ?」
「僕かい?ナウサとは逆の町、コロピの町の方だよ。アルタ方面だから、クロウガルトはあまり行ってないと方面だね。」
ノエルはクロウの質問にすらっと答える。
「なるほどな、俺はアルタから追放されてそっち方面はあまり行ってなかったからな。これからも情報集めてきてもらえたら助かるぜ。」
「それくらいは任せてくれよ。ん?それより追放?アルタからかい?」
「ん?ああ、そうだ。話したことなかったよな、俺がオールドタイプってことを蠢く会のハーデンにバラされた時に町民から反感を買ってな。それから、俺はもう入れなくなっちまった。」
「ハーデン……そうだったのか、悪かった、辛いことを思い出させて。」
「いいや、気にするな。それに俺は後悔してない。こうやって、アーシェ、サリアとも出会えて一緒に旅できてる。運がいいだけって言われたらそれまでかも知れねえけど、この幸せはどこにも離さない。」
ギリッ。
クロウの拳に力がこもる。
それは、何かを手放さない意思を表すかのように。
「強いな、君は。そんな君だから、彼女達を含めて多くの人が信じてみたいと思えるのかもしれないな。」
「俺が強い?ははっ、俺はそうは思わねえ。」
「え?」
ズザッ。
クロウはノエルの前に立ちふさがる。
「なあ、ノエル。お前の思う強さってなんだ?」
「僕の思う強さ?そうだね、仲間や助けを求めてる人を助ける力のことだと思うよ。力無き者を守るのが、強さを持つものの使命だと思ってる。」
「確かに、それも一つの強さだよな、俺もその意見には同意だ。ただ、俺の思う強さは少し違う。」
「じゃあ、クロウガルトの思う強さってのはなんだい?」
「誰かの希望になることかな。」
ドクンッ。
ノエルの心臓が大きく波打つ。
「希望になる、それはどうやって?」
「方法はたくさんあるさ、襲われてたら力を使って助ける、困っていたら手を差し伸べる、寂しがってたら寄り添う。そういった一つ一つの小さな事が、そいつの中では一つの希望になると思うんだ。」
「それは、クロウが辛いだけじゃないかい?クロウ1人で出来ることなんてそんなに多くない。」
「それもそうだ。けど、俺の行動を真似してくれる奴が増えたらどうなる?1人じゃできないことでも、2人3人と増えたら出来ることはあるだろ?」
スサーッ。
優しい風が2人の髪を揺らす。
クロウの目は、何一つ迷いがなかった。
「君は、強者だね。そんなこと、普通の人では思いつけないよ。さすが、レイヴァーのリーダーだねーー。」
「ノエル、一つ間違えてるぜ。」
「え?」
「確かに、部分部分を切り取ってみれば、俺は強者になる場所はあると思う。……けど、俺は自分を強者だとは思えない、今の俺は、ただの弱者だ。」
クイッ。
ノエルは首を傾げる。
「何を言ってるんだよ!君は、誰かを助けるために力を使い少しでも笑顔を増やそうとしてる。それが、どうして弱者になるのさ!」
「今俺がやってることは、全て贖罪なのさ。俺は、父さんのような最強のヒーローになりたかった、そのために騎士団を目指してたんだ。」
「父さん、フェルナンドさんのことか。資料で読んだことはあるけど、相当の戦士だったとは聞いてるよ。」
「ああ、この国に絶対必要な存在だった。……けど、血のホワイトデイで行方不明になって、その代わりに俺が生き残っちまった。だから、俺はあの人が目指してたものを体現したいんだ。それが、俺が進む理由。」
ノエルはクロウの顔を見つめる。
ノエルには、クロウが他人のように思えなかったのだ。
(彼は、自分が生きるためにその力を使ってるんじゃない。その過程で、誰かを助けたりしてるだけで、結局は後悔してるんだ。父親をなくしたことを、自分が生き残ってしまったことを。まるで、アイアコス家にいた時の僕のように)
ズザッ。
ノエルは一歩クロウに近づく。
「君は少し、1人で背負いすぎてるんじゃないかい?もう少し、信じ合える仲間に分け与えてもいいと、僕は思うよ。」
「……まあ、あいつらからもそう言ってもらえるから努力はしてるんだけどな、なかなか難しいんだ。」
「じゃあ、同じ男の僕ならどうだい?君が性別を気にしてるとは思えないけど、もし気を遣ってるというなら僕も手を貸すよ。」
「ははっ、物好きだな、お前も。なら、ノエルも何か背負ってるならまずは俺に言えよ。どんなものでも、俺は拒まない、全部受け入れてやる。」
ニコッ。
クロウの笑顔はノエルには眩しいほどであった。
「ああ、ありがとう。」
「おーい!クロくん!ノエルランスくん!早く行くよ!」
「おう!今行く!」
タタタタタッ。
クロウとノエルは2人の後を追う。
ノエルの顔には、少し安心感が浮かんでいた。
その瞬間、
ズザッ!
近くの茂みから何かが飛び出してきた。
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