第88話 レイヴンズとミラ
3人は戦闘を終え、大きな木のそばで座りながら話していた。
「蠢く会というのか、そいつらは。」
「俺たちの出会ってる集団と同じだったらな。……てか、その前にリィンにも自己紹介しろよ。」
「おっと、すまない。私は、ミラ・アトラース。アレスと同じオールドタイプの生き残りだ。よろしく頼む。」
「あ、はい!あたしは、この辺りのギルドを管轄されてるキヒ家の娘、リィン・キヒと言います!」
クイッ。
ミラはリィンの顎を優しく掴み、自分の方を任せる。
「かなり若いのに、すごいねリィン嬢は。20にも満たないだろう?」
「っ!?」
リィンは、優しくも、どこかカッコよく見えるその姿から視線を外せなくなっていた。
「かっ、かっこいい。」
ぼそっと、独り言を呟くリィン。
「おい、ミラ。」
「ん?なんだ?」
「お前、普段からそんなんなのか?」
「そんなんとは?私はいつもの私だが。」
「リィンを見てみろ。」
その目は、同性に向けられる視線ではなく、どちらかと言えば恋に近いようなものに。
「私は、何か間違えたか?」
「その見た目も相まって、相当なイケメンに見えてるんだよ。いくら多様性の時代だからって、無自覚に男女問わず落としてたらいつか痛い目を見るぞ。」
「むっ、落としてるつもりはなかったが、そうか、気をつけよう。」
「はっ!?あたしは何を!?」
リィンは我に帰り、話を戻す。
「それで、なんで蠢く会について知りたいんだ?」
「なんでも、エリュシオンでも活動してると言う噂を聞いてな、少し心配だったんだ。」
「エリュシオンって、巨人族の国ですよね?なぜミラさんが心配を?」
「ああ、私は人族と巨人族のハーフなんだ。」
さらっととんでもないことを言うミラに、2人は驚く。
「ハーフ?……そういや、父さんから聞いたことあったな、戦闘技術がずば抜けて高い大柄の騎士団がいるって。確か、それもアトラースだった。」
「なら、それは私の父だろうな。巨人族の父はエリュシオンで生まれ、アテナイで偶然出会った母に一目惚れをして生涯を捧げると誓ったらしい。」
「すごい美しいお話ですね!では、ミラさんも騎士団なんですか?」
「いや、私は流浪の冒険者だよ。」
「流浪のエルフもいたり、ハーフもいたり、アテナイって自由な国だな。」
ここは、少しクロウたちから離れた場所。
「はくしゅんっ!」
「大丈夫サリー?風邪引いた?」
「ううん、平気だよ!誰かに噂されたのかも!」
「そう、なら早く集めて戻りましょう。」
アーシェとサリアも採取クエストを行っていた。
場所は戻り、ミラからいろいろ話を聞いていた。
ミラが今アテナイにいるのは、両親を探すため。
1ヶ月ほど前に連絡をとったきり、エリュシオンでもアテナイでも出会えていないという。
そこで浮上してきたのが、活動を広めているという噂の蠢く会。
噂では、モンスターを捕まえたり囚人を集めたりと、気になる行動を世界で行なっているらしい。
その中には、過去の英雄や冤罪の人たちも含まれているらしい。
「なるほどな、それでミラは情報を集めてたのか。でも、それなら普通に俺に聞きにくれば良かったじゃねえか。ニューマンを警戒するのは俺もわかるし、オールドタイプ同士なら話しやすいだろ?」
「まあ、1つは単純にアレスを信頼していい存在かこの手で測りたかったからだ。」
「この脳筋が。」
「あ?お前も変わらんだろ?」
ビリッ。
2人の間に、火花が散る音がした気がした。
「ほ、ほかの理由はなんなんですか?他にもあるんですよね!?」
リィンが素早くその場を治める。
「ああ、それとアレスの父上、フェルナンドさんのことについても聞きたくてね。今もお元気か?」
「……父さんは、俺も分からない。」
「どういうことだ?フェルナンドさんは、輝石をお持ちだったはずだ。」
「
クロウが首を傾げ問いかける。
「ああ、完全結界魔法石、その名の通り光を放ち対象1人を全ての魔法から守る道具だ。」
「っ!?それって、まさか。」
「騎士団の人間に渡されてた道具だ。……フェルナンドさんの行方がわからないってことは、まさかーー。」
「その石で、俺はオールドタイプのままでいられたんだ。」
クロウは頭を下ろし、10年前のことを思い出す。
フェルナンドに渡された1つの石、それは本来フェルナンドが生きるためのものだったのだ。
「……、まあ、お前は悪くない。それに、フェルナンドさんが選択したことだ、責任を感じる必要はない。」
「……。」
「すまない、アレスを傷つけるつもりはなかった。」
「いいや、少しずつ分かってきたぜ、なんで俺がオールドタイプのまま生きていられるのか。なあ、ミラ、もっと教えてくれないか?」
クロウはミラに問いかけるが、明らかに無理をしている顔であった。
「……ああ、構わないが別日にしてくれ。」
「なんで、俺は少しでも早く真実をーー。」
「先に進むことで傷つくのが分かってるのにか。」
「そ、それは。」
「お前は、やはりフェルナンドさんの息子だな。あの人と過ごした数日間の姿が、お前と重なる。自己犠牲を惜しまない、変わった人だ。」
クロウは何も言えずにいた。
「ミラさん、レイヴンズの人達と行動されてたんですか?」
「ああ、少しだけだがな。アテナイ最強の戦士集団、レイヴンズに入ることは私の夢だった。血のホワイトデイが起きなければ。」
「よければ、この後ナウサに来ませんか?あたしの父が運営してる町なんです!そこなら、クロウさんのお仲間さんもいますし!」
「誘いは嬉しいけど、少し私も用があってね。また今度、必ず行こう、君たちに会いに。」
スサッ。
ミラは斧を背負い、2人に別れを告げる。
「ミラ、必ず来いよ。」
「ミラさん、お気をつけて!」
「ありがとう……そうだ、アレス。最後に、私の父がよく言ってたことお前にも伝えときたい。」
「なんだ?」
スッ。
ミラはクロウの耳のそばで静かに囁く。
「目に見えるものだけが真実じゃない、光がある場所には必ず影がある。」
「っ、どういう意味だ?」
「分からん、それは私も探してるところだ。2人も必ず生き延びてくれよ、ナウサに行く意味がなくなってしまう。」
「ああ、当たり前だ。」
スタッ、スタッ。
ミラはその場から離れて行った。
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