第87話 一騎打ち

バギーンッ!バギーンッ!

金属のぶつかり合う甲高い音が響き渡る。


辺りには一撃一撃の重さを表す、豪風が。


「小手調べといこうか!アレス!」

「俺は遠慮させて欲しいけどな!  獣の声ケモノノコエ二式ニシキ獅子の重撃ネメアー!」


ドゴーンッ!

大剣のジャンプ斬りが、ミラに当たらず地面を砕く。


「そんな逃げ腰で良いのか?俺の力量を測れねえぞ!」

「全部受け止めていたら、私が持たなそうだからな。お前ほどバカではないのさ。」

「むかっ、知らん奴に面と向かって言われるのは心外だな!」


ガギーンッ!ガギーンッ!

さらに2人の戦闘は激しくなる。


その2人を、リィンは見つめることしかできなかった。


(すごい迫力、それに覇気。少しでも加勢しようとしたら、確実に邪魔になっちゃう。……クロウさん。)


悔しさと不安が入り混じり、萎縮しながら見つめる。



「そろそろ、私の攻撃も受け止めてもらおうか! 始の光イチノヒカリ金剛の一撃アルデバラン!」


ズザッ!

ガギーンッ!

大斧を高く振り上げ、全てを叩き落とす勢いで振り下ろす。


大剣と大斧が激しくぶつかり、悲鳴を上げる。


「重たっ。馬鹿力女かよ。」

「あ?なんか言ったか?」

「自覚あんだろ、俺ほどバカじゃないってことは、一般人よりはバカだって。」

「喧嘩を売ってるのか……、良いさ、買ってあげよう! 次の光ニノヒカリ織姫の慈愛ベガ!」


ブンッ!

ドゴーンッ!

斧の刃が付いてない方で吹き飛ばす。


「えほっ、えほっ。本当、真正面からやり合うのは得策じゃないな。」

「そっちが喧嘩を売ってきたんだ、ちゃんと買ってくれよ。」

「いやいや、そもそも襲ってきたのはそっちだろ!俺は逃げたって良いんだぜ。」

「むっ、それは困るな。なら、釘付けにさせるしかないな!」

「もっとお淑やかな女性にアタックされたいね!」


ガギーンッ!

大斧と大剣が鍔迫り合う。


(力比べじゃ、俺のほうが不利だ。なら、俺の得意分野で!)


スッ。

両手から大剣を手放し、


「父さんの使わない技ならどうだ! 空の光ソラノヒカリ初式ショシキ半月ハンゲツ!」


グルンッ!

ガギーンッ!

お次は2刀の横回転で応戦する。


「それがアレス家に伝わる戦い方か、興味深い!」

「まだ帰るつもりはなさそうだな! 空の光ソラノヒカリ四式シシキ月光ゲッコウ!」


ズザッ!

ドゴーンッ!

ジャンプ斬りで押し返す。


「げほっ。本当に同胞ということかな。」

「信じてもらえたか?そろそろ帰ってもらっても良いぜ。」

「いいや、まだだな!」


ズザッ!

ミラは猪の様に突撃してくる。


「なら、次はこれでどうだ! 雨の音アメノオト四式シシキ叢雨ムラクモ!」


チャキンッ!

キーンッ!

折りたたみ式剣の突きが、斧を受け止める。


「3つ目の武器、アレス家はそんなに技があるのか。」

「アトラース家は、唯一の斧使いの家系だよな。その威力、まともにやり合ってたら俺の体が持たねえんでな、手数で勝負さ!」

「フェルナンドさんは大剣しか使っていなかった。……後継者は厄介になってくれたね!」

「褒め言葉として受け取るぜ! 雨の音アメノオト二式ニシキ五月雨サミダレ!」


ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

5連撃でさらに追い打ちをかける。


「差し詰め、パワーの私と、テクニックのアレスか。良いね、楽しくなってきた!」

「戦闘狂が!」

「それはお前もだろ、私たちは戦うことしかできない存在さ!」

「そんなことねえよ!オールドタイプは俺しかいないと思ってたけど、お前も同じだろ!俺は今、戦うために力を振るうんじゃない、


ガギーンッ!ガギーンッ!

辺りの地面はひび割れ、草木は怯えてる様に見える。


「綺麗事だな!オールドタイプに、この世界で生きていられる場所はない!お前も感じてるだろ、血のホワイトデイの影響を!」

「ああ、感じてるさ、嫌ってほどにな。」


クロウの中に、アルタでの追放の記憶が呼び起こされる。


「ならば、私たちは生きるために力を振るうことしかできない、お前の言う守るは、自衛のためだけだろ!」

「……、まあ、それもそうかもなーー。」

「違います!」


リィンの心からの叫びが、2人に届く。


「リィン!?」

「クロウさんは、自衛のために戦ってない!あたしがこれまで長年見てきたクロウさんは、誰かのために自分を犠牲にして戦う大馬鹿な人です!」

「それはアレスを守りたくてのことか、それとも事実か?」

「事実に決まってます!ここまで無茶するバカな人、あたしは見たことありません!」

「え、それって俺を褒めてる?貶してる?」


クロウは困惑した表情を浮かべる。


「お前は、ニューマンだろ。オールドタイプが怖くないのか?」

「怖い?ふざけたことを言わないでください!あたしには種族なんて関係ない、クロウさんに恐怖を覚えたことはありません!……まあ、怒りを覚えたことはたくさんありますけど。」

「さっきから俺を守ってないよな?傷つけにきてるよな?」

「……ふっ、面白いな、アレスの周りにいる者は。分かった、戦いはこれで終わりにしよう。」


チャキンッ。

ミラは斧をしまう。


「終わったのか、力量を測るのは。」

「ああ、私の中で答えは出た。もう武器を構える必要もない。」

「そうか、ふぅ。命拾いしたぜ。」

「冗談言うな、まだまだ本気ではなかっただろ。」

「それはお前もだろ。……で、なんで俺に接触してきた?」


クロウも武器を納め話し始める。


「ああ、簡単に言えば情報交換をしたくてな。同じオールドタイプとはいえ、信頼できるかはこの身で確かめたくてな。」

「はあ、まあ分かりやすくて良かったよ。リィンも同席でいいか?」

「もちろんだ、呼んでくれ。」

「分かった、リィン!こっちきてくれ!」

「あ、はい!」


スタッ、スタッ。

リィンは歩いて2人の元に向かう。


「あ、そうだ。」

「ん?どうしたーー。」


ゴンッ。

ミラの拳が、クロウの脳天に軽く突き刺さる。


「痛っ!なんで!?」

「馬鹿力女と言われるのは私も心外でな、1発叩きたくなった。これでおあいこだな。」

「一方的に俺が叩かれてるじゃねえか!」

「あのー、お2人さん?」


リィンが恐る恐る問いかける。


「ああ、すまない。2人に聞きたいことがあるんだ。」

「聞きたいこと?」

「黒ローブの集団について聞きたいんだが。」

「黒ローブ……蠢く会のことか?」


クロウとミラの戦いは終わり、情報交換が始まった。

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