第86話 新たな出会い、その名は

スタッ、スタッ、スタッ。

3人はリヒターの治療を受けギルドに戻り歩いていた。


「なんか、すげえな!いつも飯食べたり、よく寝たり、軽くストレッチするだけだったけど、専門のやつに診てもらえばこんなに楽になれるんだな!」

「本当にその通りね、怪我したところもそうだけど全身の疲労がさらに抜けた気がするわ。」

「サリア達も人に恵まれてるよね!ますます、蠢く会に邪魔されない様にしなきゃ!」


グゥーッ。

何かが静かに鳴り響く。


「ん?アーシェ?」

「そろそろ日が傾いてきたわね、ご飯の時間じゃないかしら?」

「そうか?まだ16時くらいだし、いつも通りアーシェの腹すかしなだけじゃーー。」


ギリッ。

狼の様な鋭い眼光が、クロウに突き刺さる。


「あなたもお腹空いたわよね?クロウ?」

「え、あ、はい。何か食べさせていただきたいです。」

「じゃあ、一旦宿に戻ろ!オーナーさんに何か作ってもらおうよ!」

「そうね、今日はもう休憩ね。」


まだ、完全には気を使うことをマスターできていないクロウであった。




次の日、


ギルドでレイヴァーはこれからのことを話し合っていた。


「蠢く会と、魔族の奇妙な集団についてはギルドでも力をあげて調べてみます。なので、皆さんには少しクエストをお願いできませんか?最近、かなり多くて。」

「俺たちは構わねえよ。でも、なんでいきなり増えたんだ?」

「評判が上がったおかげだろうな。」


スタッ、スタッ。

ダイカンがブリーフィングルームに入ってくる。



「そうなの?ナウサのギルドに何かあった感じ?」

「何言ってる、お前達のおかげだよ。クエスト発注してから、達成までのスパンが短く、なんでも屋の様に好き嫌いなく幅広いクエストを達成してくれてるからな。」

「まあ、私たちの周りからの評判を上げるためだったから、特に気を使ってるわけじゃないのだけどね。」

「それが結果として、信頼を勝ち取ってる。おかげで、うちのギルドは人手不足だ。だから、レイヴァーにも頼みたいんだ。」


ガタッ。

レイヴァーは席を立つ。


「頼まれるまでもないな、このギルドがあるから俺たちも生きていける。なんでもやるぜ、受注させてくれ。」

「ありがとう、ならここら辺を。」

「あ!クロウさん、1つお願いしてもいいですか?」


リィンが慌てた様子でクロウを呼び止める。


「ん?いいけど、なんだ?」

「あたしと一緒にクエスト行ってもらえませんか?見てもらいたいものもあって。」

「俺は構わないぜ。2人もいいか?」

「ええ、私とサリアで他のクエストをやってくるわ。そっちも、路銀稼ぎはしっかりしてよね。」

「任せろ、じゃあ行こうぜ、リィン。」


スタッ、スタッ。

ここからは、クロウとリィン、アーシェとサリアが別班行動し始めた。



クロウとリィンは、蓮草の採取に向かっていた。



「なあ、リィンが見てもらいたいってのはまさか。」

「はい、これです。」


カチャッ。

リィンは背中から槍を取り出す。


「やっぱりか、アテナ家の槍術、無理して学んでないか?」

「確かに辛い訓練ですけど、あたしも目標がありますから大丈夫です。」

「そうか、まあ自分のことって周りの奴の方が実は詳しく知ってること多いからな。前に言った通り、俺が無理と判断したら何が何でもやめさせるからな。」

「承知の上です。因みに、私がヘルプを出したらクロウさんは手を貸してくれますか?」


スッ。

リィンは少し不安そうな顔で聞く。


「ん?そんなの当たり前だろ。アルタでもナウサでもリィンは俺の命を救ってくれた、大切な仲間だ。俺の命と同等の大切な存在を、無下にするわけないだろ?」

「……仲間、ですよね。ありがとうございます!」


リィンは少し間を置いて声を発した。

(もっとアピールしなきゃ、敵は多いですからね。)



スッ、スッ。

2人は蓮草を採取し、戻る準備をする。


「これくらいでいいよな?」

「はい!完璧です!クロウさんの五感ってすごいですよね、蓮草の位置を匂いで当てるなんて。」

「良いことばかりでもないぜ、余計な会話や匂いまで拾っちまうから。」

「あはは、確かにそれはしんどいですね。」


スタッ、スタッ。

2人はナウサに戻ろうとする。



辺りはものすごく静か。


心地よい風が吹き、モンスターもいない。

雄大な自然が広がっている。




だが、


「っ!?リィン!離れろ!」

「へっ!?」


シュンッ!

風を切り、1つの物体が急速接近。


「ちっ!」


ガギーンッ!

瞬時に大剣を抜き、攻撃を受け止める。


「クロウさん!」

「やはり、お前がアレスか。」

「なんだ、てめえは!」


ガギーンッ!

弾き合い、距離を取る。


そこには、真っ赤な髪色の女性が。


(なんで!?あたしだって、少しの魔力感知はできるのに、あの人からは何も感じなかった。……まさか!?)


「君だろう、クロウガルト・シン・アレス。フェルナンドの息子。」

「俺の父さんを知ってるのか、お前。」

「当たり前だ、彼の大剣の技術には誰も及ばない。」

「大剣使いだって知ってる奴は、俺しかいないはずなんだけどな。何者だ、俺と同じオールドタイプ!」


ガシャンッ!

体のサイズの斧を地面に突き刺す。


「私は、ミラ・アトラース。アテナイの騎士団、先陣隊長アトラース家の者だ。君の力見させてもらうぞ。」


ミラ・アトラース……身長190cmほどの体格で、すらっとしたモデル体型。真紅の髪色に、腰くらいまでのロングヘアー。タイトな黒いロングジーンズ、肩だけ出した白いシャツに、白のショートブーツ。右肩に巨人の証が彫ってある。


「アトラース、斧職人って言われてた家系だったよな。」

「そうだ、アレス。私の信念として、相手の力量は自分の手で確かめないと気が済まなくてな。少し付き合ってもらうぞ!」

「ちぃ、やってやるよ!リィン、下がってろ!」

「わ、分かりました!」


ズザッ!

ガギーンッ!

大剣と大斧がぶつかった衝撃で、周りに風を起こす。


「お前は本物か、見定めささてもらうぞ!」

「厄介な奴ばかりに気に入られるな、俺はよ!」


クロウとミラの戦いの火蓋が切って落とされた。

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