第89話 いざ出発
クロウとリィンはミラを見送り、蓮草を持ってナウサに向かい歩いていた。
ただ、クロウは真実を知ったことにより少し暗い表情をしていた。
それもそうだ、何も知らなかったとは言え、父親の意思を受け継ぐ形で今を生きてるのだ。
18歳の彼には、少し負担が大きすぎた。
「クロウさん、帰り道のモンスターはあたしに任せてください!この槍で、軽く捌いてみせます!」
「ぁ、ああ、頼もしいな。」
「うーん、やっぱりお辛いですよね。」
「え?なんでだ?」
スッ。
リィンはクロウの前に回り込み、顔を覗き込む。
「普段のクロウさんなら、今の発言にチャチャを入れてくるか、俺がやるから無理するな!だとか言ってくるはずですし。」
「あ、ははっ、よく見てるな、リィンは。」
「当たり前です!あたしはレイヴァーの軍師ですから!」
「本当、つくづく思うよ。無知は、そいつを滅ぼすって。」
当時のクロウが
だが、可能性が1%でもあったなら、後悔せざるを得ない。
そんなクロウを、リィンはなんとかしたい気持ちでいっぱいだった。
「クロウさん、手を貸してください。」
「ん?手?」
「はい、両手とも。」
「ああ。」
スッ。
クロウの両手を、リィンは優しく自分の手で包み込む。
「ん?何してんだ?」
「あたし達生き物って、温かいですよね。」
「まあ、そうだな。」
「なんで温かいと思いますか?」
「……考えたことないな。」
さらに優しくクロウの両手を包む。
「あたしは、優しい生き物は温かいんだと思います。」
「そんな単純か?」
「はい、単純だと思います。だって、クロウさんはバカがつくほど優しい、それに周りをよく見ている。けど、自分のこととなると隠そうとする。」
「いや、そんなことはーー。」
「あるんです!温かいの先は、熱いですよね。今のクロウさんの手は、とても冷たい。それも簡単、暑すぎると生き物は冷まそうとする、クロウさんは優しすぎるんです。」
クロウは気づいていなかった、自分の手の冷たさを。
「優しさで熱くなりすぎた自分の手を、誰にもバレないように冷やそうとしてる、理由は、誰にも心配をかけたくないから。」
「……。」
「だから、あたしの温かさを分けてあげます。あたしはクロウさんほど温かくありませんが、この熱を分け与える方法を知ってます。冷えた手は、温めればまた戻る、冷えたままだと心まで冷たくしかねない、そんな姿をあたしは見たくない。」
「……お前も、大概だと思うけどな。けど、ありがとう。」
ニコッ。
少しクロウの顔に余裕が生まれていた。
「じゃあ、このまま手を繋いで帰りますか?」
「それは周りからの視線とか、ダイカンに何か言われそうだからちょっと。」
「がーんっ、そんなにあたしと2人でいる姿を見られるのが嫌なんですね……。」
「いや、そうじゃなくて、えっと。」
「あははっ、冗談です!」
スッ。
リィンは手を離し、小走りでナウサに向かう。
「おいおい、心臓に悪いっての。……もう少し、俺も頼ることを覚えないとな、父さん。」
「早くしないと置いていきますよ!」
「今行く!」
タッ、タッ、タッ。
2人は蓮草以外にも大きな収穫を得た時間だった。
ナウサに戻ると、ギルドにはアーシェとサリアが待っていた。
「あ、やっと帰ってきた。」
「おかえり!リィンちゃん!クロくん!」
「早かったな、2人は。」
「まあね、採取クエストはレイヴァーの得意分野だから。」
「じゃあ、あたしが報告してきますね!」
スタッ、スタッ。
リィンは蓮草を持ち、ギルドの受付の方に向かった。
「ふぅ、これからどうするか。」
「ねえクロウ、何かあった?」
「え?」
「少し元気なさそうよ、怪我してるわけでもなさそうだし。」
「ははっ、すごいな。俺ももっと察する力を磨きたいな。」
クロウは、クエスト中に出会ったミラについて話す。
「なるほど、そのミラって人は血のホワイトデイについて詳しそうね。ぜひ私も話してみたいわ。」
「ねえ!サリアも知らないこと知ってそう!いつ来るかな?」
「用事があるって言ってたし、忙しそうだったからな。かなり日が空くかもな。」
「お待たせしました!これが、今回のレイヴァーの報酬です!」
チャリンッ。
リィンの手により、銀貨10枚が運ばれてきた。
「ありがとう!じゃあ、今日はもう休もうよ!いろいろあったみたいだし、情報整理も必要だよ!」
「そうだな、リィンもこれから空いてるか?」
「うーん、少し事務仕事があるので、それが終わったら平気ですよ!」
「それじゃあ、近くのレストランで待ち合わせにしましょう。お金も稼いだし、明日に備えてーー。」
ガゴーンッ!
ギルドのドアが激しく開けられる。
「はぁ、はぁ、はぁ、誰か手の空いてる人はいないか!」
息を切らせ、1人の男が入ってくる。
「ど、どうしました!?そんなに慌ててーー。」
ズザッ。
リィンが駆けつける。
「た、大変だ!近くに魔物の大群を引き連れた魔族が現れたんだ!」
「魔物と魔族!?それはどこ!」
アーシェも男の近くによる。
「はぁ、はぁ、アイギオの2つ先の町!キルキスだ!」
「ここからだと、かなり距離がありますね。」
「でも、無視するほど俺たちは無慈悲じゃない。リィン、作戦を頼む!レイヴァーで向かう!」
「わ、分かりました!少しだけ待っててください!」
レイヴァーに休憩の時は、まだ訪れないようだ。
第17章 完
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第17章まで読んで頂きありがとうございました。
ナウサで情報をまとめつつ、採取クエストで路銀を稼いでる途中、ミラ・アトラースと出会う。
血のホワイトデイについて少しずつ知るとともに、心にもダメージが。
そんなクロウ達には、まだ休みが来ないようです。
派手な戦いが!?
再び彼も登場!?
レイヴァー応援してるぞ!
と思ってくださいましたら、
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ここまで読んで頂きありがとうございます!今後とも宜しくお願いいたします!
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