第81話 2人の会議

5人はブリーフィングルームで解決策が見出せず行き詰まっていた。


「結局は、まだ情報が足りなすぎるよな。また明日、アイギオに行ってみるか?」

「そうね、まだ魔族達が残したものがあるかもしれないわね。」

「じゃあ、今日はゆっくりして明日再スタートだね!ご飯行こうよ、ご飯!」

「あ、そしたら近くにおすすめの魚メインの料理屋さんありますから一緒に行きましょう!」


スタッ、スタッ。

続々と部屋から出ると、


「ああ、僕は別件で抜けさせてもらうね。」

「え、ノエルランスくん忙しいの?」

「少しね、また次回参加させてくれたら嬉しいよ。」

「そうか、分かった。明日はどうする?」

「明日はレイヴァーに任せるよ、少し調べ物したいからね。」


スタッ、スタッ。

ノエルは4人の隣を過ぎ、ギルドを出ていく。



「大変ですね、ノエルランスさん。」

「ああ、ま、また会えるだろ。」

「それはそうと、早くリィンのおすすめのお店行きましょう。」

「ちょっと待ってね、レイヴァーの予算確認しなきゃ。」

「そんなに大袈裟なことするほどなんですか!?」


リィンはまだ知らなかった。


外でご飯を食べるときに、レイヴァーが1番心配なことは味でも、場所でもない、お金が足りるかどうかであった。




キィーッ。

4人は食事を終え、日も暮れたので宿屋に戻っていた。


相変わらずの食欲を見せたアーシェは、店主から気に入られ次来る時までに大盛りメニューを追加すると約束してくれるほど、たくさん食べていた。


結果、金貨一枚はなくなっていた。(現実で約10万円相当。)



アーシェには明日からもギルドでお金を稼ぐ理由ができた。




そして、ここはアーシェの部屋。


蝋燭の火と、月明かりが部屋を照らす。


そんな中、1人で考え事をしていた。



(ノエルランス……アイアコス家の次男と言ってたわね。なんで私たちに協力的なのか正直分からないわ、オールドタイプとニューマンの関係は悪いらしいし、まだ彼は何か隠してる。警戒は怠れないわね。)


アーシェはベッドに腰掛け、今後のことについて考えていた。


(ゴーレムも、蠢く会だけじゃなくて魔族も作り出せる、しかもギルの手中にあるならハデスの元にも届いてるわよね。厄介なのが広められてしまったわね。)


「……ェ。……シェ。」


(クロウとノエルランスの2人でも押されてた、あんなのが複数体いたら私たちだけじゃどうにもできない。この先どうすれば。)


「アーシェ!」

「わぁ!」


考え事しているアーシェの顔を覗き込んで、クロウが声をかける。


「な、なに!?」

「いや、話したいことがあったんだけど何かブツブツ言いながら考えてたみたいだから、声をかけ続けてた。」

「え、どのくらい?」

「うーん、3分くらいかな。」

「っ!?」


アーシェは驚きで、目をギョロッと大きくする。


「もう少し警戒した方がいいぜ、俺みたいに魔力が0のやつが他にいたらアーシェには天敵だ、魔力で位置が分からないんだからよ。」

「そ、そうね、気をつけるわ。それで、どうだった?」

「ん?すごいアホそうな顔してたよ。」


スパーンッ。

アーシェの鋭い叩きが、クロウの頭に入る。


「うぐっ、脳震盪起きそう。」

「誰がボーッとしてる時の顔の感想を言えと言った!そうじゃなくて、さっき食事してる時に話したことについてよ!」

「ああ、そっちか。


スタッ。

アーシェは落ち着きを取り戻そうと、息を整える。


顔を赤く染めながら。


「そんなに焦らなくていいじゃんか。今の流れはアーシェの顔の感想を言えと言ってるように思えたーー。」

「まだ掘り返すなら、次は鈍器でいくわよ。」

「え!?俺が悪いの!?」

「どこにあるかしら。ド、ド、ド、鈍器。」

「やめてくれ!そんな軽快なリズムで鈍器を探すのは!」


怒りを鎮めようとクロウはしっかり謝り、本題に入った。




「これまでの2体のゴーレム、共通してたことはあった?」

「ああ、微かにだけどいろんな血の匂いがした、あいつは1つの生命体ではないと思う。」

「やっぱりそうよね、私も魔力を何種類も感じたわ、一般的なモンスターにはない特徴ね。」

「じゃあ、本当にゴーレムはなのか。」


ギロッ。

クロウの目がカラスのように鋭くなる。



「その可能性は大きいわ、なんてったってこれまで見たことも聞いたこともない特徴、さらに桁違いの力。昔からゴーレムが存在してたら、流石に対策がされるはずよ。」

「てことは、俺が感じた血の匂いは……。」

「おそらく、モンスターの血と、あのゴーレムが人族を襲った時に口にしたものでしょうね。」

「……。」


クロウは途端に黙る。



感情が間欠泉のように湧いてくる。


クロウの中は、ドス黒い感情で溢れかえっていた。



その違和感を、アーシェは感じ取っていた。



「落ち着いて、クロウ。」

「落ち着いていられるか!このままあいつらがのさばってたら、何人の被害者が出るか分かったもんじゃーー。」

「そう言って、この前の姿にクロウが逆戻りしてしまったらどうするつもり?」

「っ……それは。」



クロウの頭に蘇る、殺意の塊。


あの姿は、決して2度となりたくないものであった。



「まあ、負の感情に呑まれそうになるのも仕方ないと思うわ。私は、少しそういう感情に慣れすぎてしまってるから。」

「アーシェ……。」

「けど、安心して。もう2度とクロウをあんな姿にしない。あなたにできないことは、私がするわ。」

「っ!?それはダメだ!そんなことしたら、お前までーー。」

「忘れたの?私は、魔王ハデスに復讐しようとしてるのよ。覚悟はできてるわ。」


スッ。

アーシェの決意した顔に、クロウは戸惑う。



だが、彼の答えは変わらなかった。



「分かった、正直お前が復讐することを俺は望んでない。けど、それが目標だって言うなら止めない。」

「分かってもらえるなら嬉しいわ。」

「ただ、お前に誓った通り俺もアーシェから離れるつもりはない。だから、負の感情に支配されそうになってるアーシェを目にしたら、たとえお前に嫌われようが全力で止める。」

「それは、どう言う意味ーー。」

「言ったよな、俺に人生を勝手に変えられたって。だから、何度も変えてやる。アーシェを失うくらいなら、復讐を止めさせて俺と勝手に生きさせる。俺の意思で。」


スッ。

アーシェは立ち上がり、クロウを見下ろす。


頬は緩み、怒ると言うより少し呆れているように見えた。


「生意気な年下の男の子ね、私の命は多くの敵から狙われてる厄介な代物よ?」

「今更気づいたか?俺の邪魔をするなら、どんな奴でもぶっ飛ばす。アーシェに手を出したことが、自分が楽に殺されるより辛いことだったんだって後悔するくらいにな。」


2人の意思は固かった。



その後解散し、部屋に戻り次の日を迎えた。

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