第76話 力を得るには
スサーッ。
寒くすら感じられる夜風が、2人を優しく包む。
「本気で言ってるのか、リィン。」
「はい、私は決めたんです。」
2人はまっすぐ見つめ合ったまま。
「……俺の正直な感想を言わせてもらうな、やめたほうがいい。」
「やっぱり、クロウさんもお父さんと同じこと言うんですね。」
「ダイカンは気付いてるのか?俺の体のこと。」
「クロウさんの体つきから、ある程度予想できたみたいです。オールドタイプの体は、ニューマンと作りが違う。」
「そうか、ならそれを理解してるリィンがなんでそんな危険なことをーー。」
ブワッ!
強い風がリィンの髪をかきあげる。
その目は、本気の眼差しだった。
「言ったじゃないですか、守られるだけの存在になりたくないって。それに、あたしはオールドタイプであるクロウさんのことをもっと知りたいと思ってます。それがたとえ、どんなに辛いことの先にあるとしても。」
「確かに、リィンは冒険者としてかなり強いとは思う。けど、俺が言うのもなんだが騎士団の秘伝書を学ぶのは、しんどいなんてレベルじゃない、最悪命を落とすかもしれない。」
「クロウさんは見てきたんですよね、あたしのように挑戦して失敗していく人たちを。」
「……ああ、そうだ。ガキの頃の俺は、ニューマンと体の作りが違うなんて思ってなかった。修行の中で、それを実感した。」
クロウの表情がだんだん暗くなってくる。
「騎士団の皆さんが残した秘伝書には、初-10までの技が記されている。ただし、それを使いこなすには体の強化と心の強化が必要になる。その途中で折れてしまった人は、数えきれない……ギルドにあった日記からあたしは知りました。」
「そうだ、血のホワイトデイが起きる前ならその秘伝書は重宝したかもしれない。……けど、今のニューマンが同じことをしたら取り返しのつかないことにすらなり得る。俺は、リィンにそんなことをさせたくない。」
「ありがとうございます。でも、あたしも譲れない思いがあるんです。目の前であと一歩、その一歩が踏み出せなかったから失ってしまったものがたくさんあります。だから、もう同じ過ちは繰り返したくない。」
「だとしても、他の方法があるんじゃないか?リィンは頭もいい、俺たちの軍師になってくれるほどに。それじゃあダメなのか?」
スタッ、スタッ、スタッ。
リィンはゆっくりとクロウに近付き、右手を優しく掴む。
「クロウさんは、あたしが怖いから一生手を繋いで守ってほしいと言ったら、頷いてくれますか?」
「そ、それは……。」
クロウは頷くことが出来ない。
アーシェとサリアとの約束、そして、父親と兄に誓ったこの世界になにが起きたのかを知る旅ができなくなるからだ。
「ふふっ、意地悪な質問でしたね。けど、現実はそうなんです。力のない守られるだけの存在では、自分の大切なものをなに一つ手にできない。だから、あたしに挑戦させてほしいんです、アテナ家の槍術会得を。」
「リィン……。」
クロウは悩む。
自分と同じ苦しみを、リィンに合わせていいものなのかと。
それと同時に、父親のフェルナンドから言われたことを思い出す。
「クロウ、お前が誰かを導ける存在になれなんて言わない、ただ、お前がついて行きたいと思える存在が現れたら、そいつに全力で着いていけ。置いていかれるのは、とても辛いぞ。」
父の言葉の意味を、クロウは知らない。
ただ少し、リィンと話したことでフェルナンドが言ったことが分かった気もした。
「分かった、俺はリィンを支える。だから、無茶しない程度に挑戦してみろ、アドバイスはいくらでもするから。」
「ありがとうございます、クロウさん。やっぱり、優しいですね。」
「優しいのか、それとも怖いのか。正直分からねえけど、リィンには今のリィンでいてほしい、だから俺が無茶だと判断したらお前に嫌われたとしても止めるのが条件だ。」
「はい、分かりました。あたしも、出来る限りクロウさんに近付きます。」
ニコッ。
リィンはクロウの手を握りながら、優しく微笑んだ。
そして、クロウがリィンを送りその日を終えた。
3日後、レイヴァーの3人はギルドに向かっていた。
「さあて、怪我も治ったことだしノエルランスと調査しにいくか。」
「いいけど、私は常に警戒するからね。変な動きを見せたら容赦しないわ。」
「分かってるよ、あいつにもしっかり言っておく。」
「あ!噂をすればノエルランスくんいるよ!」
スタッ、スタッ。
3人はギルドの前にいるノエルランスの元に歩み寄る。
「おっ、レイヴァー、来てくれたのか。」
「ああ、そっちは何か調べてたのか?」
「少しね。けれど、それ以上の情報は手に入らなかったよ。」
「じゃあ、見にいくのが早いわね、案内お願いしていいかしら。」
「ああ、こっちだよ。」
スタッ、スタッ。
4人となり、魔族が壊したという町へ向かう。
「そうだ、ノエルランスは何かあだ名とかあるのか?」
「あだ名かい?僕は……ああ、ノエルって周りから呼ばれてはいるよ。」
「ノエルか、分かったぜ。とりあえず今回の調査はお互い背中を守り合う仲間だ、よろしくな。」
「こちらこそ、よろしく。」
ガシッ。
クロウとノエルが握手を交わす。
スタッ、スタッ、スタッ。
彼らは被害のあった町へ向かう途中、辺りにはモンスターが1体もいなかった。
それに気付いたのは、町に向かってから少し経ってからの話。
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