第75話 宴の始まり
「乾杯!」
カチャンッ。
3人はタンカードで宴会を始める。
「残念だね、クロくんだけお酒飲めないなんて。」
「流石に国のルールは犯せねえよ、20歳を越えないとって制限なんであるんだ?」
「まあ、体に良くないんじゃないかしら?大量に飲んで、意識不明の魔族も見たことあるわ。」
「てか、アーシェも酒飲めたのかよ、初めて知ったぜ20歳だったなんて。」
「聞かれなかったからね、最年少さん。」
ピキッ。
クロウの中でアーシェに対する対抗心が生まれる。
「そうだな、お姉様方もっと俺が大人になれるようたくさん教えてください、大人の嗜みってやつを。」
「いいけど、サリアとアーちゃんの指導は高いよ?」
「金取るのかよ!」
「当然よ、タダでクロウに教えるなんて勿体無いわ。」
「この悪魔ども。」
ガヤガヤガヤッ。
3人は賑やかな食卓を囲み、宿屋のオーナーさんが作った料理を綺麗に平らげていく。
主に、アーシェが。
「そろそろ、リィンも来るんじゃねえか?出迎えに行ってくる。」
「クロくん優しいね、リィンちゃんには。」
「え?2人と同じだろ?」
「そうは見えないんだよね、サリア的には。」
チラッ。
サリアはアーシェを横目で見ると、少し寂しそうにしている顔が映る。
「アーちゃん!」
「な、なに!?」
「どうしたの?あまり見たことない顔してたけど?」
「あ、いや、なんでもないわ。少しボーッとしてただけ。」
「ふーん、本当に?」
クイッ。
サリアは顔を近寄らせ、アーシェに探りを入れてくる。
「ほ、本当よ!何を疑っているの?」
「ううん、疑ってるわけじゃないんだけどさ。……アーちゃん、恋ってなんだか分かる?」
「なに?いきなり。哲学的な話かしら?」
「サリアさ、分からないんだよね。誰かに恋するって感覚が。」
スタッ、スタッ。
クロウは2人をよそに、外へ出る。
その場には、アーシェとサリアが2人きり。
「もう100年以上生きてるのに、1度も恋をしたことないの。いや、もしかしたら気付いてないだけかもしれないんだけどさ、どんな感情なのか知りたいけど知ることができないんだ。」
「……私もちゃんと分かるわけじゃないわ。けど、両親から聞いたことがあるの。男の人は、命を賭けてでも守りたい人のことを、女の人は、自分の全てを捧げたい人のことを愛する人と言うんだって。」
「へえ、すごいねそんな気持ちになれるなんて。アーちゃんはなったことある?」
「ないわね。私には、正直無関係じゃないのかとすら感じてるわ。」
グイッ。
サリアが両手でアーシェの顔を自分の方に向ける。
「相手が、クロくんだとしても?」
「はあ!?いきなり何言って。」
「クロくんは、これまで命を張ってサリアのこともアーちゃんのことも救ってくれてる。実際、クロくんのは善意で動いてる気しかしないけど、アーちゃんの両親の言葉が正しいなら愛に当てはまるんじゃないかな?」
「……。」
アーシェは、クロウが暴走した時のことを思い出す。
体が恐怖に支配され、目の前の仮面をつけたクロウに敵うとは思えなかった。
しかし、自分のことを考える前にクロウのことを考えていた。
不殺の掟。
その掟を守るために、クロウは常に強くあろうとし、自分以外の者にチャンスを与え人権を尊重していた。
その掟を破ってしまった場合、クロウはどうなってしまうのか。
その先に、いつものクロウは存在するのか。
いや、真っ直ぐで優しいクロウは壊れてしまうと感じた。
その姿を予想できたアーシェは、自分がどうなってもいいからクロウを助けたいと感じ、気付いたら目の前に立ちはだかっていた。
(恋、か。私には無関係なものだと思ってるけど、もしかしたらそうでもないのかしら。)
「まあ、確かに愛という言葉に当てはまる気もするけど、クロウはただバカだからそんな深くは考えてないと思うわ。私も、クロウを愛してるとは思えないし、思いたくないわ。」
「素直じゃないな、アーちゃんは。」
「そう?サリーの方こそクロウに何か思わないの?」
スッ。
サリアは天井を向く。
「うーん、まあクロくんのことは好きだよ。」
「え!?」
ガタッ。
アーシェは予想外の言葉に驚き、その場に立ち上がる。
「まあ、仲間としてだけどね。クロくんには何度も助けられてるし、感謝しきれないよ。だから、これからもついていく。……それより、何か勘違いした?」
ニヤリッ。
サリアがイタズラな顔をして、アーシェを見る。
「な、なんでもないわ!ほら、飲み物無くなってるから注いであげるわね。」
「あははっ、慌てたアーちゃんかわいい!」
「んぐっ、サリーだからってウェルダンにしてもいいのよ!」
「わぁー怖い!」
アーシェは顔を赤くしながらサリアと戯れ合う。
すると、
「お邪魔します!」
「リィンを連れてきたぞ。酒を飲めない仲間だから、間違えないでくれよ、2人とも。」
「任せてよ、リィンちゃん!こっち来て!」
「はい!」
ガヤガヤガヤッ。
さらに人数も増え、賑やかさを増していった。
それから数時間、
宴会がお開きとなり、酒に酔ったのであろう、アーシェとサリアは各々の部屋にクロウが連れていき寝かしつけた。
そして、リィンを家に送るために宿屋の外に出た。
「ありがとうございます、クロウさん。こんな夜遅くなのに。」
「夜遅くだからだよ、リィンにはいつも世話になってるからな、これくらいはさせてくれ。」
スタッ、スタッ、スタッ。
2人は夜道を静かに歩く。
「ふぅ、楽しかったです!皆さんあんなに賑やかに話してるとは思ってませんでした!」
「まあ、酒が入ってより賑やかでは合ったけどな。リィンも、レイヴァーに入りたくなってくれたか?」
「それは、元々入りたいと思ってますよ!いろいろ準備できたら、再度私を判定してください。」
「分かった、やっぱり努力家だな。」
スタッ。
リィンが急に立ち止まる。
クロウもそれに気付き、振り返ると、
「クロウさん、アテナ家の槍術って知ってますか?」
「アテナ家……俺のアレス家と同じく騎士団の家系だな。それがどうした?」
「あたし、アテナ家の力を学ぼうと思うんです。」
リィンが発した言葉の意味とは。
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