第73話 宴の準備と誓い

レイヴァーの3人は、体の調子を整えるために紫ニンジンを5本採取する採取クエストに臨んでいた。


スタッ、スタッ、スタッ。

近くの平原に3人はたどり着く。


「サリア、紫ニンジンってどんな特徴があるかわかるか?」

「紫ニンジンはね、地面に生えてるんだけど少し見辛いんだよね。」


紫ニンジン……本来は赤い色をしている食べ物が、成長環境の変化で栄養を本来の3倍含んでいることにより、色が変わったとされている健康食材。栄養価は抜群に高く、癖のない味なのも特徴。しかし、地面には、葉の部分が数センチしか出ておらず、1本を傷つけずに採取するのが困難とされている。



「てところかな!まあ、今回はサリアが植物魔法でおおよその位置は導き出せるから、あとは地道に探せばいけるよ!」

「あ、大体の位置教えてもらえるなら俺の鼻でさらに限定できると思うぜ。野菜からは、どんなものでも多少の匂いが漏れるからな。」

「そこまでできるなら、あとは私の土魔法で地面ごと掘り上げれば傷つけずに採取できるわね。」


3人の役割分担が完璧すぎることに、本人たちが驚く。


「なあ、もしかして俺たち採取クエストにうってつけのパーティなんじゃないか?」

「そうかもしれないわね、将来戦えないくらい老いたら採取専門の冒険者になってもいいかもね。」

「サリアはまだまだ生きられるから、そっち側にはしばらくいけないな……。」

「そういや、サリアって今何歳なんだ?」


ガゴンッ!

アーシェがクロウの頭を思い切り叩く。


「痛っ!」

「あなた前に言ったわよね、そういう事は面と向かって聞くんじゃないって!」

「いいよ、2人になら教えても。」


スタッ。

サリアは立ち止まり、2人の方を振り返る。


「い、いいのよ、無理はしないで。」

「違うの、サリアが知っていて欲しいの。こうやって共有できる人は、正直欲しかったから。」

「そうか、なら頼む。」

「うん、サリアは今、111歳だよ。」


ヒューッ。

静かな風が、3人の髪を揺らす。

クロウとアーシェもある程度ば想像していたが、過去のこともあり長すぎる時間を苦しんできたサリアのことを思うと、胸がキリキリと痛んだ。



「あははっ、怖いよねエルフって。2人とあまり変わらない見た目でも、5-6倍は普通に生きてるんだもん。」

「怖くなんかねえよ、1ミリも。」

「ええ、むしろ尊敬するわ。」

「え?」


スサッ。

サリアの頭にクロウとアーシェの掌が乗せられる。



「何を怖がる必要があるんだ、サリアの長い経験のおかげで俺たちは何度も助けられてる。それに、サリアが経験してきた人生が、俺じゃあ理解出来ないほどに深く大変なものだったってことも予想がつく。」

「そうね、長く生きるということは、それだけ楽しいことも辛いこともたくさん経験するということ。それを踏み越えて、今を生きてるサリアを尊敬できないほど私たちは愚かじゃないわ。」

「2人とも……あはは、本当に変わってるね。でも、そんな2人がサリアは大好き。」


ニコッ。

サリアは笑顔で微笑みかける。


すると、サリアの中で何かが動き出すのが分かる。




(なあ、サリアリット。少しうちと変われや、兄さんと姉さんと話をしたいことがあるんや。)

(え、いいけど、今でいいの?エリカリットが試したい事は、ここじゃできないと思うよ?)

(今回は実験をパスや、これまでの3回分を今に集約してええからその体を貸してくれへんか。)

(うーん、分かった。2人に変なことしないでよ。)


シュイーンッ!

サリアの周りに力が溜まり、


「2人とも、少し話聞いてあげて。 憑依セカンド交代チェンジ。」


シューンッ!

サリアは力を解放し、エリカリットと交代する。



「よお、こうやってゆっくり喋るのは初めてやな、クロの兄さん、アーの姉さん。」

「エリカリット、どうしたんだ?戦いでもない時に俺たちの前に出てくるなんて。」

「別に、うちは戦い専門ちゃうねん。サリアリットより戦闘力は高いから、戦闘をメインにしてるだけや。それに、2人に聞いときたいことがある。」

「何かしら?あなたが直接出てくるなんて、大事なことなんでしょ?」


2人は、エリカリットの前にどっしりと構える。



「まあ、なんや。伝えたいことは2つ。1つは、サリアとともに行動してくれてありがとうってところ、もう1つは2人に覚悟があるか確認しときたいんや。」

「俺たちに覚悟?」

「そうや、2人もなんとなく予想できてるかもしれへんが、サリアリットの背負っているものはとても大きい、それも国1つを動かしてしまうかもしれないほどにな。」

「なるほど、そんなサリアとこれから先も一緒に行動できるか確認しにきたってところかしら。」


3人は静かに話していく。


「そうや、サリアリットと一緒にいることは兄さんと姉さんにプラスになることもマイナスになることも多い。もし、サリアリットが過去と同じことを経験することになったら、もう今の自分に戻ってこれないかもしれへん、そうさせないと誓えるか?」

「……ははっ、なに当たり前なこと聞いてるんだ、誓えるに決まってんだろ。俺たちはレイヴァー、そいつが背負ってるものは俺たちで分け合えば負担は減る、そうやって生きていけばいいだろ?」

「そうね、それに私とクロウも背負ってるものはとても大きいと思うわよ、似たもの同士仲良くやってけるんじゃないかしら?」

「……その目、その声、嘘はついてないな。分かった、うちも2人を信じたる、せやから裏切るようなことはしないと、


シュイーンッ。

エリカリットがサリアに戻る。


「えほっ、えほっ。はあ、戦わなくても少し疲れるな。病み上がりなの忘れてた。」

「サリア、行こうぜ!」


スッ。

クロウが手を伸ばす。


「ほら、早く!サリーがいないと、レイヴァーがつまらなくなっちゃうわ!」


スッ。

アーシェも手を差し伸べる。



「う、うん!早くクエスト終わらせて帰ろ!」


スサッ。

2人の手を取り、クエストの場所へ向かう。


サリアの顔が、少し安心に満ちていた。

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