第62話 蠢く噂

スタッ、スタッ、スタッ。

3人は宿の朝食を摂るところで合流する。


最初に来ていたのはサリア。


「おはよう、サリア。」

「あ、おはよう!クロくん!」


クロウが席につくとアーシェも続けてやってくる。


「おはよう、2人とも。」

「おう、アーシェ。」

「アーちゃん!おはよう!」


ズザッ。

3人はいつも通り朝食を摂る。


相変わらず、アーシェの分は5人前くらいある。


今日のメニューは、トーストにゆで卵と緑の野菜を使ったサラダ、ミルクであった。



「もう2人とも体は万全?」

「あぁ、俺は問題ないぜ。アーシェは?」

「私も問題ないわ。休みも終わったことだし、レイのところに行きましょうか。」

「そうだな!早く武器を見たいぜ!」


スノウの目が月のように眩しく光る。


「本当、クロくんって男の子だよね、武器でそんなにテンション上がるなんて。」

「当たり前だろ!俺たちの命を守ってくれると同時にあの見た目!レイの一品は相当なものだ!」

「確かに、ぱっと見でも今の2人の武器より扱いやすそうなのはわかったわ。じゃあ、食べ終えたら行きましょうか。」

「おう!」


3人は朝食を終え、身支度を終え外に出る。




「レイさん、無理してないかな?」

「多分本人は無理してないと言うだろうけど、疲れは溜まってるはずだわ。何か差し入れしましょうか。」

「そうだな、あ、じゃあ近くに売ってる甘い匂いがしたお菓子がいいんじゃねえか?」


3人はとあるお店の前に向かう。



「ここは、パン屋さん?」

「ああ、ただ人気メニューは甘いクリームの中に柑橘系を入れたデザート感覚のパンらしいぜ!昨日買ってる人を何人も見た!」

「いいね!じゃあ、何個買う?」

「そうね、差し入れ用に3個と、私たち用で7個かしら。」

「あ、アーシェは5個食べるんだな、了解。」


スタッ、スタッ、スタッ。

3人はレイの元へ向かう。



ここで、クロウは1つ学んでいた。

アーシェの食に対して、余計なことを言わなければウェルダンにされないと。


そして、実行もできた。



小さな拍手が起きた気がした。




キィーッ。

鍛冶屋の扉を開くと、



「おう、来たか。」

「3日ぶりだな、レイ。これ差し入れだ、好きな時に食べてくれ。」

「すんっ、すんっ。良い香りだな、後でもらうよ。お前たちも食べたのか?」

「うん、美味しかったからレイさんの口にも合うといいな!」


アーシェは心なしか味に満足しており、頬が緩んでるように見えた。



「ありがとうな、それじゃあこれは俺からだ。」


ズザッ。

3人の武器を取り出す。



まずはクロウ。


グローブ……全体が眩しいほど光る銀色で、余計な装飾はされていないシンプル設計。手の甲には、黒いカラスのマーク、扱いやすいように軽さと強度を兼ね揃えた逸品。


2刀……刀身が1.0mほどある青色、持ち手には使いやすいように滑り落ちにくい加工がされている。柄でも、ダメージを与えられるほどの頑丈さ。


隠し剣……折りたたみ式剣は0.8mほどの刀身で、すぐに起動できるように茶色いガントレットに細工がされている。切れ味ももちろん、軽さもお墨付き。




次はアーシェ。


指輪……特殊な紫色の鉱石を嵌めてあり、右手中指サイズ。魔力を一点に練りやすくするとともに、無駄な魔力を消費しにくくしている。



最後はサリア。


ダガー……持ち手が輪っかになっており、刀身は0.4mほどの濃い緑色でブーメランのように投げやすく設計されている。切れ味ももちろん、どの武器よりも軽い。


ブレスレット……魔力を消費しにくくしつつ、周りの魔力を感知しやすくなっている。




これで、3人の装備が揃った。



「どうだ、気に入ってもらえそうか?」

「おう!!最高だぜ、断然軽いし見た目も良い!やる気がみなぎってくるぜ!」

「ええ、戦いが楽しみになってきたわ。ありがとう、レイ。」

「気にすんな、俺たちはお前らの力がないと生きられない。少しでも力を貸させてもらうさ。そうだ、もしどこかでがあったら持ってきてもらえないか?」

「ケラウノスって、確か伝説上の生き物だよね?」


サリアは頭にハテナを浮かべる。


「ああ、この世界において最強の素材だ、それがあればもっと良いものを作ってやれる気がする。必要にならないことが1番良いが、一応な。」

「分かったぜ、何か情報あったら知らせる。ありがとうな、レイ、そんじゃあ行ってくる!」

「おう、お前達の活躍を期待しているぞ、レイヴァー。」



スタッ、スタッ、スタッ。

3人は装備をもらい、ギルドに向かう。




すると、そこには、



「あ、レイヴァーの人たちだね?」

「お前は、アリゲイルのことを知らせてくれた。」

「ああ、この前はありがとう。改めて、僕はノエルランス・アイアコス、冒険者だ。」


スッ。

ノエルランスと名乗る男が手を伸ばす。


「おう、クロウガルトだ。」


ガシッ。

2人は握手をする。


(こいつ、かなり鍛えられた手をしてるな、拳闘士か?)


ギリッ。

心なしか、アーシェの目が鋭くなった気がする。


そんなアーシェが問いかける。


「私たちに何の用?ただお礼を言いにきたってだけじゃないわよね。」

「……そうだよ、アーシェリーゼ。もう一度、君たちに頼みがあるんだ。」

「頼み?サリア達に?」

「ああ、この手紙を見てほしい。」


バッ。

ノエルランスは1枚の白い手紙を開く。



そこには、



実験体の投入を開始する、本日13時、ナウサの森近く。

各担当者はすぐに向かうべし。

O



不穏な言葉が書かれていた。

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