第44話 レイヴァー

次の日、外は快晴。

3人の帰還を喜んでいるかのように。


ガチャッ。

部屋のドアが静かに開かれる。


そこには、まだ眠りについているクロウの姿が。



「これが、サリーのしてることなのね。いけないことをしてる気がとてもするわ。」


スタッ、スタッ。

足音を立てず、気配を殺しながら入ってくるのはアーシェ。


サリーが早朝にクロウの部屋に侵入していたことを見たため、自分も試していた。



「すぅー、すぅー。」

「案外バレないものね、普段バカな戦士としか思えないけど、寝顔は案外可愛いのね。」


スッ。

おもむろに、アーシェはクロウの手を握る。


「ゴツゴツして、たくさんの古傷が残る手ね。この手で、あなたは何人の人を救ってきたのかしら。……私を含めて。」


アーシェは監獄で差し伸べられたクロウの手を、その姿を思い出す。

そして、昨日頭に乗せられた優しい手。

とても温かく、頼りになるその姿は頭に焼き付いていた。


「あなたは、多分他の誰にもない力が備わっている。それがなんなのか私にも分からないけど、クロウとなら、私は


ギュッ。

握る手に力がこもる。


「必ず私はやるべきことを成し遂げる、もちろんあなたの役にも立つ、この命を何度も助けてくれた恩返しとして。これからもよろしくね、クロウ。」


ピキーンッ!

アーシェは背中に嫌な気配を感じとる。


バッ!

ドアの方を振り返ると。


「そぉー。」

サリアがドアから覗き見ていた。


「っ!?サリー!?」

「ふふふっ、抜け駆けはずるいな〜アーちゃんもクロくんのこと知りたいならそう言ってくれればいいのに!」

「ち、ちが、これはーー。」

「朝から騒々しいな。」


パチッ。

2人の騒がしい声でクロウは目を開ける。


ぼやけた視界に、アーシェとサリアが入る。

なぜか自分の右手がアーシェに握られていることにも疑問を持つ。


「おはよう!クロくん!」

「え、あ、お、おはよう。」

「おはよう、何慌ててんだアーシェ?」

「な、何でもない!」


タッ、タッ、タッ。

クロウの手を離し、足早に部屋から出て行こうとする。


「おっとっと!」

「サリー、余計なこと言わないでよね!」

「えー、どうしようかな?」

「後で、あなたが食べたがってたクロウのお菓子作るように頼んでおくから!」

「あ、ならOK!」


サッ。

アーシェはクロウの部屋を後にする。


「な、何だったんだ?なあ、サリア、アーシェは何してたんだ?」

「うーんとね、内緒!」

「え?あ、おい!サリア!」


スタッ、スタッ、スタッ。

サリアも部屋を出る。



「うーん、分からん。」


ズザッ。

クロウは頭にハテナを浮かべながら起き上がり、身支度を済ませ食堂に向かう。


「おはよう!クロくん!」

「お、おはよう。」

「おう、アーシェ、サリア。」


3人はテーブルにつき、朝食をとる。



その間、アーシェは気まずい顔をしていたがクロウは気にも留めなかった。



準備を終えた3人は、ギルドへと向かう。



キィーッ。

ドアを開くと、リィンが迎え入れる。


「あ、おはようございます!みなさん!」

「おはよう!リィンちゃん!」

「アーシアさんも無事で良かったです!」

「ありがとう。あ、あのね、私本当はーー。」

「リィンとダイカンに話しときたいことがある。呼んでもらってもいいか?」


アーシェが皆の前で真実を話そうとするのをクロウが止め、5人のみで話しをさせようとする。


スタッ、スタッ、スタッ。

タイミングを測ったかのように、ダイカンが歩いてくる。


「おう、お疲れさん。なんだ、俺に用ってのは?」

「ダイカン、リィン、今までごめんなさい。私のこと、全て話すわ。」


数分でアーシェは自分のことを話し、今まで騙してきたことを謝罪した。


話を聞いた2人は、



「なるほどな、まあ、アーシェにこの町は何度も助けられている。俺は気にしていない。」

「あたしもです!逆に、嬉しくすら感じます。命をかけて守ってくれたアーシェさんのことを知ることができて。」

「2人とも、ありがとう。」

「そんじゃあ、これは俺からの提案だ。クロウ、アーシェ、サリア、これを見てくれ。」


バッ。

テーブルの上に1枚の紙が置かれる。


そこに書いてある言葉、




ナウサ所属、解放特殊部隊




「なにこれ?」

「お前達の部隊名だ。正式に、お前達3人を俺の管轄に置こうと思う。」

「レイヴァーってのは何だ?レイヴンズに似てるけど。」

「まあそうだな、俺はレイヴンズが好きなんだ。」


ダイカンが予想外なことを言い出す。



「は?だって、あれは俺を含めたオールドタイプの集団だぜ?」

「そんなことは分かってる。けど、あの人たちに俺は1度命を救われた。目の前に見たこともないモンスターが出てきて、何もできなかった俺は食われる直前にレイヴンズの人に助けてもらったんだ。」

「そんなことがあったんだね。」

「ああ、けどこの時代でレイヴンズって名乗るのは危険だろ。だから、レイヴンズよりもその先にいって欲しいってことでレイヴァーにしておいた。意味は、だ。」

「いいわね、私は気に入ったわ。」

「クロウとサリアも問題なかったら、これにサインしてくれ。」


サッ、サッ。

目の前の契約書に名前を書いていく。


「そんじゃあ、クロウガルト・シン・アレス、アーシェリーゼ・ヴァン・アフロディテ、サリアリット・アルテミス、3名をこれからレイヴァーのメンバーとして正式登録する!」



ここから、レイヴァーとしての彼らの物語が紡がれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る