第43話 アーシェの過去
アーシェが連れ去られた日の夜、静かに町に戻ったクロウ、アーシェ、サリア、リィンはダイカンに帰還を報告し、まずは休むように言われ宿に向かった。
宿のオーナーからも温かく迎え入れられ、応急手当をした後食事をし、3人はクロウの部屋に集まっていた。
「改めて、助けてくれてありがとう、クロウ、サリア。」
「気にするな、これから一緒にまた生きていけるんだ、それで十分。」
「そうだね、サリアも離れたくないから、来ないって言われたらグルグルに縛ってでも連れてくるつもりだったけど!」
「私思うんだけど、サリアって意外と粘着質??」
「なにそれ?粘着質って?」
コクッ。
首を傾げサリアは考え込む。
「まあいいんじゃねえか、それが助けになることもある。」
「そうね。……あと、サリアには1つお願いがあるの。」
「なになに?」
「私のことを、1発叩いてほしいの。」
シラーッ。
その場が少し静寂に包まれる。
「え、どういうこと?」
「アーシェ、Mに目覚めたのか?」
「違うわよ!ナウサの森で私は、サリアのことを叩いた。けど、私も同じくらい大きな間違いを犯した、だからその罪を償いたいの。」
「そういうことね……分かった。」
スタッ。
サリアはアーシェの前に立ち、顔の前に右手を出す。
ギュッ。
アーシェは目を強く瞑る。
パンッ。
乾いた音が部屋に響く。
それは、頬を叩いたのではなくデコピンをした音だった。
「え、なんで?」
「サリアは、アーシェちゃんにあの時大切なことを教わった。おかげで、これから先また間違えそうになったら踏みとどまれると思う。だから、これが思い出してもらえるようにするサリアなりの記憶のさせ方。」
「……ありがとう、サリア。」
「そうだ!アーシェちゃんって何かあだ名ないの?」
サリアが急に話を変える。
「あだ名?」
「そう!クロくんはクロくんでいいと思うんだけど、アーシェちゃんは違う呼び方がいいなって思うの!何かない?」
「おい、なんで俺はいいんだ、俺は。」
「そ、そうね……特に思い出せないわ。そんなものをつけてもらった記憶もないし。」
「そっか……じゃあ、アーちゃんで!」
ニコッ。
サリアがアーシェにあだ名を提案する。
「え、アーちゃん!?」
「うん!その方が可愛いし呼びやすい!」
「ま、まあ、サリアが呼びやすいなら、それで構わないけど。逆に、あなたはあだ名はあるの?」
「サリアはね、昔サリーって呼ばれてたよ!」
「サリー、分かったわ。私もこれからそう呼ぶわね、サ、サリー。」
モゾモゾッ。
恥ずかしいのだろうか、アーシェは身体をくねらす。
「っ!?うん!!よろしくね、アーちゃん!」
「ええ、こちらこそ、サリー。」
「じゃあ、俺もアーちゃんって呼んでいいのか?」
「ウェルダンにするわよ?」
「はい、すみません。」
いつもの3人が戻ってきた。
その空間は、とても賑やかで外は夜だがとても明るかった。
「ねえ、クロウ、サリー。少し、私の話を聞いてもらえるかしら。」
「ああ、もちろんだ。」
「サリアも聞くよ!1人で背負うなんてずるいよ!」
「ありがとう、2人とも。あまりいい話ではないのだけど……。」
ここからは、アーシェの過去の話。
前魔王ザインの娘として生まれ、小さい頃から礼儀作法を学び育ってきた。
指導する人はとても厳しかったが、父ザインと母エウレアの優しさの中で育ったアーシェには乗り越えられないほどのものではなかった。
もちろん、弊害もあった。
魔王の娘というだけで、周りの魔族達はあまり近づきたがらなかった。
理由は1つ。
いつその魔王が下剋上に合い、命を落とすか分からないからだ。
スパルタの歴史として、強いものが魔王となる。
それが何年も続けられてきた。
故に、魔王に近い存在も邪魔となれば消される可能性も高い。
その結果、アーシェは孤独に育った。
子供の時にするような遊びや、お話はもっぱら。
執事から教えられる町の情報以外に、手に入るものは何もなかった。
そんな中、血のホワイトデイが起きてしまった。
両親は現魔王ハデスに失墜させられ、信頼できる魔族として接してきた者は裏切り、多くの配下を失った。
アーシェに数少ない町の情報を与えてくれていた執事も、何者かにより消された。
クローゼットに隠れるよう言われ、なんとか生き残った彼女だが、心にできた大きな穴はそう簡単に塞がるものではなかった。
そして、彼女が誓ったこと。
復讐。
そのためなら、自分を鍛え続け、孤独の中誰も信用せず生きることもできた。
地道にチャンスを伺い、手に入れた両親が生きているという情報。
死に物狂いで自分の作戦を実行するため、復讐を遂げるためにアテナイに逃げ延び、今に至る。
「これが、私の過去よ。ごめんなさい、やっぱり楽しくないわよね。」
「まあ、あまり楽しくはないな。」
「ちょっとクロくん!」
スタッ。
クロウが座っているアーシェの前に立つ。
「そうよね、ごめんなさーー。」
ボフッ。
アーシェの頭に、おもむろにクロウの手が乗せられる。
「な、なに?」
「お前はやっぱり、不器用だな。」
「っ?喧嘩売ってるの。」
「違うよ、アーシェはもっと俺たちを頼るべきだ。いや、頼れ、俺たち仲間を。それが、少しでもお前を軽くできる方法だ。」
ニコッ。
クロウは微笑みかける。
ドクンッ!
アーシェの心臓が大きく響く。
「そうだね!」
スタッ!
サリアもクロウの隣に立つ。
「せっかく大切な仲間になれたんだから、これからはどんな時も一緒にいよ!楽しい時も、辛い時も、泣きたい時も、笑いたい時もこの3人で乗り越える!それが、サリア達が目指す姿!」
「2人とも。」
「いいね、そのアイデア!俺も乗るぜ、お前はどうだ?アーシェ?」
「……ええ、悪くないわ。私も、同じ姿を目指す。」
3人はこれからも一緒に生きることを誓い合った。
お開きになり、各部屋で休憩をとった次の日、彼らにダイカンから1つのことが告げられた。
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