第41話 本音
アーシェの声が、部屋に響く。
衝撃の告白は、クロウの脳に直撃していた。
「私は、失墜した魔王ザインの娘、もちろん私の目的は復讐よ。ハデスを倒すために、まずは力が必要だった。だから、アテナイに逃げて、使える人を探す途中であなた達を見つけた。」
「アーシアちゃん……いや、アーシェちゃんはスパルタで身を隠して生きていた。けど、何かきっかけがあって外に出た。」
「そうね、その先であなた達は運よく強い人だった。だから、私の復讐のために利用としようとしたのよ。」
「マジかよ、アーシア……。」
カクッ。
クロウは顔を俯かせる。
(これが、私の選ぶ道。これが、運命。)
ギリッ。
アーシェは我慢するかのように固く拳を握る。
「ほら、早く戻りなさい。ここにいたら、あなた達まで死ぬことになるわよ。」
「けど、アーシェちゃん!」
「いいから!行きなさい!」
「ははっ、なんだよ。最高じゃねえか。」
ニヤリッ。
奇妙な笑みを浮かべ、クロウはアーシェを見つめる。
まるで、楽しんでいる様子。
「あなた、何言ってるの?」
「考えてみろよ。オールドタイプでレイヴンズの生き残りの俺、失墜した前魔王の娘、
「はぁ?あなた、とうとう本当に狂ったの?世界の敵が1箇所に集められてる!私たち3人は、世界から排除されるべき存在なのよ!」
「だからいいんだよ!こんなやばいやつら3人が組んだら、誰に負ける?」
ドクンッ、ドクンッ。
クロウの言葉を全く理解できないアーシェの心臓が高鳴る。
「ふざけるのも大概にしなさい、私は一緒に行くつもりはないわ!」
「それじゃあ、復讐を諦めるの?」
「そ、それはーー。」
「その程度の覚悟だったの?命を失う危険を犯してまで、アテナイに逃げたアーシェちゃんの意思はそんな弱いものなの?」
ギリッ。
アーシェは口から飛び出しそうな感情を押し殺し、サリアを睨みつける。
「確かに、復讐をできないのは心底残念だわ。けど、これが私の運命なのよ、受け入れるしかないわ。」
「嫌だよ!サリアは、アーシェちゃんと一緒にいたい、まだそこに命があるんだよ!命を無駄にすることは、親に対する冒涜じゃなかったの!」
「サリア……。」
「アーシェちゃん言ったよね、どんな運命とも向き合って生きなさいって。だったら、今のアーシェちゃんは何?運命だからって諦めて、その先にある希望を手にしようとすらしない!」
ザッ!
前屈みになり、サリアの感情が昂っていく。
「仕方ないのよ、私はここでーー。」
「そんなのサリアには関係ない!死ななくちゃいけない運命って何?やりたいことを我慢して、自分は頑張ったって、そう言い聞かせて希望を捨てるなんて、そんなのただの自己満足だよ!」
「あなたに、あなたに何がわかるの!」
「分からないよ!サリアはアーシェちゃんになれない、だから、少しでも分かるために一緒にいたいの!他の誰でもない、アーシェちゃんと一緒に生きたいの!頭に刻み込んでよね。」
サァーッ。
2人の熱量とは反対に、冷たい静かな風が部屋に差し込む。
「はぁ、あなたでは話にならないわ。クロウ、早くサリアを連れてーー。」
「俺だと話が通じると思ってるのか、バカアーシェ。」
「あっ??」
サリアの眉間にシワが寄る。
「サリア以上に俺に話が通じると思ってるのかって聞いてんだ、この大バカが!」
クロウの大きな声が部屋に響き渡る。
「なに、あなたにバカって言われるのは許せないわ!」
「何度だって言ってやるよ、石頭バカ!お前は、俺と同じだ。俺は追求、お前は復讐に取り憑かれその人生を捧げている。けど、気付いてるだろ、1人じゃ限界があるって!」
「そんなこと分かってるわ!だから、スパルタから外に逃げ出したのよ!」
「じゃあなんで、目の前にある仲間の手を取らねえ!」
「傷つけたくないのよ!」
ジーンッ。
アーシェの心の叫びが、2人の胸に届く。
「初めは、道具のように使い捨ての戦力が欲しいって思ってた。……けど、現実はそんな甘くなかった。一緒に過ごしてたら、失ってしまうかもしれない場所にあなた達を連れて行きたくなくなったの。」
「ふっ、やっと本音を話してくれたな。」
「あっ、今のはーー。」
「それでいい!俺に、俺たちに話せ!建前じゃねえ、お前の本音を聞きたいんだ!」
グイッ。
さらにクロウは近づく。
ウルッ。
アーシェの顔には、自然と涙が浮かぶ。
「本当に、なに、なんなの。……そうよ、怖いのよ。私は、2人を失いたくない、目を閉じると浮かんでくる存在の2人を。だから、お願い。私を、1人にして。」
スサーッ。
部屋に静寂が訪れる。
「はっ、俺の答えは……いやだね!」
「え??」
「決めたぜ!俺は、アーシェから絶対離れねえ。」
「ちょっと、私の話聞いてたのーー。」
「ああっ、その上での決断だ!俺たちを失うのが怖いっていうなら、もっと強くなってやるよ!どこまででもいい、お前が世界を壊せるほど強くなれっていうなら、死ぬ気でなってやる!!」
コクッ。
クロウの言葉にサリアも頷く。
悔しさ、辛さ、悲しさなどいろんな感情を含んだ言葉がアーシェの口から溢れる。
「なんで、なんでそこまでするの!私には分からない、そこまで私にしてくれる理由が!」
「仲間だからに決まってんだろ!それ以上、なんか理由がいるか?」
「死ぬかもしれないのよ!命を賭けて、仲間に尽くすなんてーー。」
「それが俺たちなんだよ、アーシェ。俺たちはこの先も一緒に生きたい、大切な仲間として、アーシェリーゼ・ヴァン・アフロディテと。」
「それでも、私はーー。」
バンッ!
両手を壁に勢いよくつき、アーシェの目の前まで顔を寄せる。
「俺を、俺たちを選べ!アーシェ!もう決めたんだ、お前とどこまでも生きていくって!お前はどうだ、アーシェ!」
「私は、私は……。」
「お前の気持ちを言え!!先のことなんてどうでもいい、お前の本音を!!」
グスッ。
アーシェは鼻を啜り、喉の奥に詰まる叫びをなんとか声にしようと頑張る。
そして、
「私は……私も、2人と生きたい!1人はいや、もっと、あなた達と一緒に過ごしたい!」
アーシェの気持ちが部屋全体に響き渡る。
その顔は涙で崩れ、助けを求める顔をしていた。
「アーシェちゃん。」
「はっ、最高だぜアーシェ。そんじゃあ、これから俺たちは本当の仲間だ。辛い時は甘えろ、迷わず頼れ、もうお前は1人じゃない。ここ、重要、上書きしたか?」
「ずっ、……ええ、ありがとう。クロウ、サリア。」
「困ったときはお互い様だよ!」
「そうだな、そんじゃあ、帰ろうぜ!」
スサッ。
アーシェは差し伸べられたクロウの手を取り、3人は窓から外に出ていった。
アーシェの足取りは、心なしかとても軽やかな気がした。
「おい!女!いるか!」
ガゴーンッ!
扉を蹴破り、ギルが入ってくる。
そこに、アーシェの姿はない。
「あの女!」
ダダダダダッ!
ギルは全速力で外に向かった。
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