第40話 アーシェの声

サッ、サッ。

ペラッ。

ギルドのテーブルの上に1枚の紙が。


「ここが、さっきの魔族達が住んでいる建物だ。」

「かなり大きいな、この地図で見た感じ3階建で部屋数も多い。魔族もその分たくさんいるってことか。」

「ああ、もちろん真正面からの敵対行動は無しだ。俺たちは魔族と真っ向からやり合うつもりはない。」

「分かってます。サリア達は、どうにか忍び込んでアーシアちゃんだけを奪還すればいいんだよね。」


ザワザワッ。

3人は作戦会議をする。


スタッ、スタッ。

そこにリィンがお茶を配りにくる。


「どうぞ、あたしも少しでもお役に立てれば。」

「ありがとう、リィン。その気遣いだけで、俺たちはとても助かってるよ。」

「それで、どうする?作戦はサリアとクロくんで行くとして、どこから行こうか。」

「……そうだ!あたしに1つ考えがあります!」


リィンが何か思いついたらしい。

その話をクロウ、サリア、ダイカンは聞いた上で決断する。


「いいね、確かに確実そうだ。」

「でもいいの?リィンちゃんにまで協力してもらって。」

「あたしだって、アルタの町でクロウさんとアーシアさんと共に戦った戦士ですよ!仲間外れにしないでください!」

「頼りになるぜ、そんじゃあ今晩決行だな!」


コクッ。

4人は頷き、準備に取り掛かる。



そして日が沈み、辺りは暗闇に呑まれる。




ところ変わり、ここは建物のある1室。


スッ。

1人の少女が椅子に座り、両足を抱えて座っていた。


体には複数の切り傷、右頬も腫れ、傷だらけだ。



そう、アーシェの姿だ。


「はぁ、私って弱いわね。」


アーシェには、いつも通りの気の強さがなく目に光が宿っていなかった。


ギルに連れられ、この館に入り質問という名の拷問が始まった。


なぜアテナイにいるのか、アーシアという名前に聞き覚えのないギルは手下に吐かせようとした。



しかし、固い意志を持っているアーシェは何1つ喋らずこの部屋に連れてこられた。


置いてあるのは椅子のみ、殺風景で数分で孤独に包まれそうだ。



「なんで、あんなこと言ってしまったのかしら。私のことを追求せずに、一緒に戦ってくれた仲間だったのに。」


自分が発した言葉を後悔し、頭を三角座りしている足に乗せる。


心底後悔しているようだ。



「このまま私は、スパルタに連れ戻されるか、ギルによって殺される。こんなところで死ねないのに、何してるの私は。」





ところ変わり、アーシェが捕えられている館の外。


そこに、クロウ、サリア、リィンが音を立てずに近づいていた。


入り口までは残り30m。



「よしっ、ナウサの町から30分でこんな所に着くんだな。いかにも、って感じの建物だ。」


3人の目に入る館は、大きい作りで外壁は赤レンガ。

高級さが尋常ではない。



「ここからは作戦通り。あたしが建物の前で、モンスターが襲ってくると叫んで走っていく。その間に、サリアさんにアーシアさんの魔力を探知してもらって、2人で突入。奪還した後は、ナウサの町で合流、これでいいよね?」

「うん、リィンちゃん気をつけてね。」

「はい、お2人もお気をつけて。」

「ありがとうな、手伝ってくれて。さあて、作戦開始だ!」


タタタタタッ。

リィンが館の入り口近くに走り、数人の魔族の目に入る。



そして、


「誰か!助けて!外でモンスターが暴れているの!」

「うん?人族?なぜここに?」

「お願いします!あたしの友達が死んじゃいそうなの!魔族のお強い皆様なら、なんとか出来ますよね!」

「はぁ、仕方ない。人族に借りを作りに行くか。」


タッタッタッ。

入り口近くの魔族が、リィンの後をついていく。




スサーッ。

館の周りには警戒兵がいなくなり、風が静かに流れる。



タタタタタッ。

2人は館の窓近くに近寄る。



「頼むぜサリア!」

「うん、集中するから少し待ってて。」


シュイーンッ。

サリアは魔力を探知するため、神経を集中させる。



(建物の中にいくつもの魔族の魔力がある。確かにこの数は戦いたくないね、アーシアちゃん、どこ?)


さらに神経を尖らせ、探知範囲を広くしていく。




そして、


「ここだ!」

「見つけたか!?」

「うん、後はどうやって入るか。」


2人は館の上の方を見上げる。




ザワザワザワッ。

館の中は少し騒がしくなっている。



「モンスターが暴れてる?」

「そうみたいだ、人族の女が助けを求めに来た。」

「なら、少し警戒を強めよう。さらに戦力を外へ!」



ダダダダダッ!

魔族の走る音が鳴り響く。



「なに?外で何が起きてるの?」


スサッ。

アーシェは立ち上がり、窓から外を見る。




すると、



ゴゴゴゴゴッ。

大きな地響きが。



(何か来る!?)


ザッ。

途端に窓から離れる。



パリーンッ!

窓が破られ、そこに人影が。



「あなた達、何をしてーー。」

「よお、お迎えにあがったぜ、お嬢さん。」

「窓からのお迎えなのは、許してね!」


スタッ。

2人は部屋へ。


植物魔法で足場を作り、直接部屋に入ったのだ。


「な、なんで来たの!あなた達、バカじゃないの!」

「バカはどっちだ!アーシア!お前、俺は許した覚えねえぞ!」

「な、なんの話よ。」


スタッ、スタッ、スタッ。

バタンッ!

アーシェはクロウに壁まで追いやられ、壁ドンのような姿勢に。


「どうするかなんて、私の勝手でしょ。あなた達は、利用する価値があっただけなんだから。」

「本当にそうなの、アーシアちゃん。だったら、なんでナウサの町でサリア達を命をかけて守ってくれたの?」

「そ、それは。」

「なあ、アーシア。まだ俺たちを信じられないかもしれねえ、けれど、俺はもっとお前を知りたい。」



スサーッ。

寒い風が、部屋の中に流れ込む。



「ふふっ、いいわ。なら、教えてあげるわよ。」

「え?」

「私は今まで嘘をつき続けてたのよ、クロウ。私はアーシアなんて名前じゃない、アーシェリーゼ・ヴァン・アフロディテ。それが私の名前よ。」

「っ!?アフロディテ……前魔王の娘ってことか。」


クロウの目は衝撃で、大きくかっぴらかれていた

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