第39話 人の声、奪還作戦
カンカンカンッ!
ナウサの町を襲撃とは違う、フライパンをお玉で叩くような低い音の鐘がなる。
「え?緊急会議?」
「しかも町全体のだ、ダイカンさん何を?」
そう、この低い音は町の人たちを集める鐘の音だ。
ザワザワザワッ。
ギルドの外に、町に住んでいる数百人が集まる。
何事かと皆不安な様子。
スタッ、スタッ、スタッ。
ダイカンがギルドから出てくる。
その後ろには、縄で手を縛られたクロウとサリアの姿が。
武器を全て外し、丸腰の状態だ。
「なになに?」
「あの人達って、さっきの魔族と仲間だった人じゃない?」
町の人は徐々に騒がしくなる。
ダイカンを先頭に、2人は町の人たちの前に立つ。
「集まってくれてありがとう、町の仲間達よ!今日は、先ほど起きた魔族がこの町に来たことに関して話しがある。」
「ダイカンさん、何か知ってるんですか?」
1人の女性の声が。
「ああ、簡潔に言おう。この2人は、先ほど連れて行かれた魔族の仲間だ!」
「やっぱりそうか、お前達のせいで。」
「このギルドに所属してるんだよね?なら、隠してきたってこと!?」
ザワザワザワッ。
さらに騒がしくなる。
「そして、この2人にもある秘密があった!」
「秘密?なんですか?」
「この男は、オールドタイプの生き残り!このエルフは、
「えぇ!?」
ガヤガヤガヤッ。
どんどんと、ざわめきの度合いが高くなる。
中には、非難する声も。
「そんな危険な奴らが、なんでこの町に!」
「この町に入れてしまったのは、俺のミスだ。すまない。」
「ダイカンさんが謝ることではーー。」
「そこで、正体を知った上でみんなに決めてもらいたいことがある!」
ズザッ!
ダイカンは胸を張り町の人たちの前に立つ。
「この2人、そして連れ去られた魔族の命は俺が預かった。つまり、こいつらをどうするかは俺次第だ。」
「おおっ!なら安心だ!」
「だが、俺はこのギルドを運営していく上で3人は貴重な戦力になっていた。だから、こいつらの処断は皆に相談した上で決めたい。」
ザワザワザワッ。
人々の中に戸惑いの声が。
「俺は、クロウガルト、アーシア、サリアリットの3人を追放するのも継続するのもどちらの準備もしている。こいつらの命は、ギルド長の俺の手にあるからな。」
「まさか!そんな危険な存在を手元に置いておくつもりですか!」
「本当に危険な存在なのだろうか?」
「え?」
シーンッ。
辺りは急に静かになる。
「確かに、オールドタイプは人族の天敵、魔族とは因縁が、
「どういうことですか!その3人は、私たちが危険と教えられて来た人たちです!」
「その通りだ!……だが、この町は何度こいつらに救ってもらったか数えきれない!」
「ダイカンさん!何を!?」
ダイカンの話に皆があたふたし始める。
「蓮草の確保、ナウサの森の平和の確保、商人達の救出、サリアリットに何度も助けられた奴も多いだろう。だが、確かにこいつらは危険な存在と言われている。だから、皆に決めてほしいのだ!」
「私たちが、追放するか、留まらせるか決めると?」
「そうだ!皆の意見が欲しい!これまでのこと、これからのことを考えてこいつらにどうして欲しいか!この町の総意として、俺は全てを受け止める覚悟はできてる!皆の意見を聞かせてくれ!」
「そ、それは……。」
コソコソコソッ。
ヒソヒソ話が辺りから聞こえる。
良くない言葉も、迷う言葉も。
「では、どちらかに拍手をして欲しい!皆の意見を、皆の心の声を聞かせてくれ!追放するか、この町に残すか!」
「ど、どうすれば……。」
「ではいくぞ!この町に残したい者は、拍手を!!」
シラーッ。
空間が静寂に包まれる。
(くそっ、やっぱり無理か……。)
(サリア達は、やっぱり恐れられてる。これじゃあ、アーシェちゃんを救えない……。)
クロウとサリアの顔色が悪くなる。
さらに、静寂は続く。
「分かった、では追放ーー。」
パチパチパチッ。
数人分の拍手が聞こえる。
「いやぁ、すまない、ダイカンさん。反応が遅れてしまった。」
「あんたは、商人の。」
拍手をしていたのは、つい先日クロウ達が助けた商人であった。
「確かに、私たちは危険な存在と教えられて来た。だが、目の前にいる彼らから、助けてもらった時の彼らには恐怖など1ミリも感じなかった。だから、私は残って欲しい!」
「あんた、いいのかーー。」
「私も残って欲しいね!」
パチパチパチッ。
クロウの声を遮り、さらに1人の拍手が。
「あなたはーー。」
「あなた達がいないと、うちの宿が寂しいよ!」
そう、もう1人拍手をしていたのはクロウ達が住んでいる宿のオーナー。
「ほおら!みんなも、助けてもらったことあるだろ?噂話と実体験、どっちを信じるんだい?」
宿のオーナーの声で、皆は思い出す。
怪我を治されたこと、モンスターから助けられたこと、町の手伝いをしている姿を。
パチパチパチッ。
さらに拍手が増える。
「そうだな、俺も助けられた!」
「私もね、あなた達にはいて欲しいわ!」
「ええ、それにダイカンさんが管轄ならそれも安心ね!」
パチパチパチッ!!
町中に拍手が鳴り響く。
半数以上、いや、8割以上は拍手をしていそうだ。
「よし、分かった!皆の総意として、この3人はギルド長ダイカンの管理下で、継続して正式な冒険者としてギルドに登録する!緊急会議は以上だ、協力ありがとう!!」
スサッ。
クロウとサリアは深々とお辞儀をする。
スタッ、スタッ、スタッ。
町の人たちは各々の場所に戻る。
「ありがとう、ダイカン。」
2人は縄を解かれ、ダイカンに礼を言う。
「いいや、これは俺だけじゃない、町のみんなの総意だ。お前達は、この町に必要な存在なんだ。」
「嬉しいよ、それじゃあ次やることは。」
「ああ、俺たち冒険者の3人目、アーシアの奪還だ!!」
クロウ達はアーシェを連れ戻す作戦を立て始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます