第38話 訪問者、クロウの提案

「俺の邪魔をするか、人族ごときが!」

「ここは人族の町だ、スパルタの町はどうか知らねえが町中で武器を振るうのは御法度だぜ。ワニ野郎!」


ギリリリリッ!

少しずつ斧を押し返す。


(ん?こいつ、俺と同等の力を持つのか。)


ガギーンッ!

大剣が斧を弾く。


「クロウさん!」

「リィン、なんだこいつは?こんなやつナウサにはいないよな。」

「はい、この人はアテナイに置かれている魔族大使館の特別大使、ギルさんです。」

「特別大使?なんでそんな奴がここに?」


特別大使……各地域には他の種族との関係を断たせないため、大使館を築いている。特別大使は、その地に住む種族と同じ扱いを受け、自分たちの種族が問題を起こさないか日々目を光らせている。



「簡単だ、バカ力の男。ここには、魔王クラスの魔力の塵が残っていた、そんな危険な存在を放置するのは、俺たちのメンツに関わるからな。捕まえにきてやったのさ。」

「そんな奴どこにいるんだ?」


ギッ。

クロウとギルは睨み合う。




「ねえ、アーシアちゃん、あれってーー。」

「10将軍の1人、ギル……私を捕まえにきたんだわ……。」


ギル……ワニの顔を持つ全身黒色の大柄な魔族。

背中には巨大な両刃斧を背負い、トゲトゲのついた太い尻尾、ボウリング玉のような肩の厚みをしており、肉弾戦は仕掛けていけないとぱっと見で判断できる。



「え!?で、でもまだ気づかれてないよ。ここに隠れてれば安全にーー。」

「早く出しな!でなければ、この町がどうなるか分かってるな!!」


ズザッ!

周りの魔族が辺りの町民を人質にとる。


「ひぃ!」

「や、やめて!」


人質にされた人の恐怖に怯えた声が響く。


「てめえ、ふざけんのも大概にしろよ!」

「お前は確かに強そうだ、だが、1人では何もできない。それが、人族の弱いが所以だ。」

「いいのか、早くそいつらを引っ込めねえと、身の安全は保証できねえぞ。」


チャキンッ。

クロウは大剣を構え、今にも飛びかかろうとする。



スサーッ。

風がクロウの髪とギルの服を揺らす。


「目障りだな、お前!」

「それはこっちのセリフだ、ワニ野郎!」

「ここにいるわ!」



スタッ、スタッ、スタッ。

大きな声を発すると共に、アーシェが歩いてくる。



「アーシア!?何してーー。」

「ほぉ、確かにお前からは魔族独特の強大な力を感じる。なるほど、魔力を隠せるあたり、相当の手慣れだな。」

「私は大人しく着いて行くわ。だから、人質を解放しなさい。」

「ふんっ、いいだろう、おいっ。」


ザッ。

他の魔族がアーシェの手を縛り、引っ張る。


それと同時に、人質が解放される。



「アーシアちゃん!」

「アーシア!」

「来ないで!」


ザッ。

動き出そうとしたクロウとサリアを一声で止める。



「何してんだよ、戻ってこいよ!アーシア!」

「戻る?ふざけたこと言わないで。」


サッ。

アーシェはクロウたちに振り返る。


その眼は、平静を装った辛い感情を物語るものであった。



「あなた達は、私に利用されてたのよ。そんなこともわからないの?」

「アーシアちゃん、何言ってーー。」

「サリア、クロウ。私の手足となってよく動いてくれたわ、けど、もう必要ないわ。ここでお別れよ。」

「おい、アーシア!」


バッ!

アーシェは手を上げ、魔力を溜める。


「動かないで、一歩でも動いたらあなたを焼くわ。」

「ちっ、アーシア……。」


カタカタカタッ。

大剣を持つその手は震えていた。


怒りでもなく、恐怖でもなく、己の非力さに。



「死にたくなければ、大人しくすることね。さようなら、バカなお2人さん。」


スタッ、スタッ、スタッ。

アーシェ、ダイルを含む魔族は町から出ていく。



ズザッ!

クロウは本能のままに足が前に出る。


ガシッ!

それを察したサリアがクロウを押さえ込む。


「ダメだよ、クロくん。」

「ふざ、けるな。アーシア。ふざけるな。」

「耐えて、クロくん。じゃないと、アーシアちゃんをさらに傷つけちゃう。」

「くっ……。」


さらに距離が開き、魔族達の姿は見えなくなった。



その場には、魔族に怯える人々とクロウ達のみが残る。




そして、1つの言葉がこだまする。



「くそぉぉ!!」


ガゴーンッ!

自分の非力さに耐えきれず、鋭い拳が地面を打ち抜く。



突如として、アーシェとの別れが来てしまった。



「クロウさん、ギルドに来てくれませんか?お父さんから、お話があるみたいです。」

「……分かった。」


スタッ、スタッ、スタッ。

クロウ、サリア、リィンの3人はギルドに向かう。



キィーッ。

中に入ると、ダイカンが椅子に座りテーブル越しにこちらを見つめる。


「来たか。」

「ダイカン、俺はーー。」

「分かってる、みなまで言うな。」

「え??」


トントンッ。

テーブルを爪で叩き、座るように促す。



「単刀直入に聞く。アーシアは、何者だ?」

「俺にも分からねえ。ただ、魔族ってのは間違いじゃない、それと、自分の正体を隠してるのも。」

「サリアは何か分かるか?」

「なんとなくは分かるよ。……けど、これはサリアの口から言っちゃいけない気がするの。アーシアちゃんの口から直接聞かないと、サリア達は本当にバラバラになっちゃうと思うから。」


ズザッ。

ダイカンはおもむろに立ち上がる。


「初めに言っておく、俺はアーシアを連れ戻しても構わない。うちの大事な稼ぎ頭だからな。」

「お父さん!いいの!?」

「だが、俺だけで決められることじゃない。この町の人達がどう思うか、賛成をもらえないと連れ戻すことはできない。」

「そんな……。」


シュンッ。

リィンは暗い顔をする。


それもそのはず。先ほどの事件を起こした魔族を連れ戻したいと思う人族が多いとは思えない。




だが、張り詰めた空気をクロウが破壊する。


「なら、1つ賭けをしないか?」

「賭け?どんなのだ?」


ジッ。

3人がクロウを見つめる。



「簡単だ。

「っ!?」


3人の目がギョロっと大きくなる。



クロウの作戦の真意は、いったい。

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