第33話 不幸の姫、怒りの力

「うん、それはね、サリアのせいで1つの町が地図から消え去ったの。」

「何だそれ?そんなことできるのか?」



ここからは、サリアの過去の話。



サリアはアルテミス家の長女として生まれた。


エルフ族の国、テーベで王女の側近として活躍するアルテミス家。



サリアの母、リューネは王女アンジュに尽くしていた。

国をより豊かにするために、作物の育て方から商いの仕方まで国中に広めていった。


しかし、とある事件がテーベを襲う。



そう、テーベの町が一夜にして燃え尽き地図上から消えることになったのだ。


そこにいたのが、サリアであった。



サリア以外の生存者はそこにはおらず、周りの者からの判断でサリアが放火をして町全体を燃やしたという結論に至った。



もちろん、死んでいったエルフは数知れない。



サリアは常に言っていた。






しかし、死人に口なし。


母リューネも、サリアがそんなことをするわけがないと抗議するも、周りには聞き入れてもらえずサリアは牢屋に監禁される。



そして、何年経過した時だろうか。



サリアに宣告された処罰。






当時何も信じられなくなっていたサリアは、その死を受け入れようとしていた。



しかし、王国側の隙をついた母リューネが牢屋を破壊。


本当のことを突き詰めるために、外に出るように言った。


爆発音に反応した兵士が続々と集まってくる。



リューネからサリアにかけられた1つの言葉。


「私はあなたを信じてる。世界が敵になろうとも、私はあなたの味方よ。だから、身の潔白を証明しなさい!」


ザッ!

生力がなくなっていたサリアに小さい光が差し、リューネの植物魔法で遠くまで運ばれた。




それからというもの、サリアはどうすればいいのか分からずにいた。


母は呪われたエルフ、不幸の姫アンラックプリンセスを匿った罪で牢屋行き。


テーベから抜け出そうと必死に走り、何とかアテナイまでたどり着いた。


そして、ついに辿り着いた地がナウサの町であった。



初めは受け入れてもらえず、周りからは冷たい視線。


その中で信頼を勝ち取る方法を見つけた。



実績を残し、周りから評価を受ける。




固い決意をしたサリアは、ギルドでクエストに励んだ。


何個も何個も達成することで、ギルド長のダイカンから信頼され周りの目も優しくなった。



少しずつこの地に馴染み始めたところで、クロウとアーシェと出会ったのだ。



「これが、サリアがここにきた理由だよ。」

「そうなのか、サリア。」


ファサッ。

優しくそして温かい手が頭の上に乗せられる。


「よく頑張ったな、お前はすごいぜ。」

「そうね、それにあなたはその事件には何も関係していないわよね。エルフが火の魔法を使うにしても、無傷で1つの町を消し去れるほどあなたの魔力は大きくない。他の何かが関わってるわね。」

「2人とも、信じてくれるの?」

「当たり前だろ、お前のその顔は嘘をつく顔じゃない。俺の経験が、そう言ってる。」


ドクンッ!

サリアの心臓が大きく響く。


今まで自分の過去を誰にも話してこなかった。

話したくても、話せる存在がいなかった。



1人で背負い込んでいた彼女に、2人の仲間が手を差し伸べてくれた。


その暖かさは、何年振りに感じたのだろうか。


ポトッ、ポトッ。

意図せず目から雫が滴り落ちる。


「サリア、これからも俺たちと来い。

「ええ、あなたは頑張りすぎている。少し、頼ってもいいと思うわ。」

「……あ、ありがとう。2人とも。」


ズッ、ズッ。

鼻をすすり、涙を堪える。


「そうだ、1つ俺からアドバイスだ。


バサッ。

クロウはサリアを抱き寄せる。


「クロくん……。」

「俺には何も聞こえない、何も見えない。俺の目には今、アーシアしか映ってないからな。」

「ありがとう、クロくん。」


グスッ、グスッ。

サリアは外に出て初めて自分の感情を外に出すことができた。


彼女は解放された気がした。



数分後、



「ありがとう、2人とも。サリアはもう大丈夫。」

「良かったわ、それじゃあサリアはこれからどうするの?」

「うん、これはサリアからのお願いなんだけどさ、2人の仲間になってもいいかな?」


真剣な表情で2人を見つめる。


「当たり前だ、大歓迎だぜ。」

「……私もよ、あなたはとても強いわ、ぜひ力を貸してほしい。」



少しアーシェは躊躇ってしまった。

サリアは貴重な戦力。



しかし、自分の正体をバラされる可能性もあるのだから。




「アーシアちゃん、サリアも何か力になりたい。だから、何かあったら相談してね。」

「っ!?あ、ありがとう。」


その心配は、不要だったようだ。


「あと、さっき見つけたものはこの紙の切れ端だったの。多分、4枚くらいに破かれてそうだからまた見つけられそうだったら集めたいから覚えておいて!」

「分かったぜ、何か理由があるんだな。」


スッ。

サリアは懐に紙をしまう。


「それと、クロウ。あなたにも1つ聞きたいことがあるわ。」

「俺の力についてか?」

「そうよ、あの力は何?魔力とは違う、けどあなたの力が一時的に膨れ上がったのは分かったわ。それに、体の傷も増えていた。あれは何?」

「正直、俺も詳しく分からないんだ。分かってることは、1つだけ。それが、らしいんだ。」


クロウの秘密も、少しずつ明かされていく。

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