第10話 脱出計画始動

チュンッ、チュンッ。

明るい朝を迎える。


キュッ、キュッ。

緊急会議のあった次の日の朝も、アーシェはいつも通り身支度をしてメイドの役割を全うしていた。



しかし、今日の彼女は目的が違う。




そう、イアの町からの脱出計画を始動しようとしていたのだ。


前々から構想はしていた。

どうすれば怪しまれずに、尚且つ安全に国を出られるか。


導き出した答えはこれ。


①メイド達にイアから離れた町への買い物を請け負ってると話す。

②行商人の馬車に同行中、最近活発になってきているモンスター達の襲撃があったことにする。

③そのままアテナイの国まで抜ける。


以上が作戦だ。



決行するのは、今。


スタタタタッ。

いつもよりさらに速さを増してメイドの仕事をこなしていく。


「ア、アーシェさんすごいやる気、どうしたのかしら?」

「分からないけど、あまり関わらないでおきましょう。何があるか分からないし。」

「そうですね、私達は私達のことをすればいいですね。」


数時間後、まだ日が高い位置にある時間にアーシェは仕事を全て終える。


「寮長さん、今日の仕事はこれだけよね?」

「え、あ、そうね。かなり早かったのね。」

「この後、城から少し離れた町まで買い物を頼まれてるの、だから早く終わらせたのよ。」

「え?そうなの?なら私たちにも言ってくれればよかったのに。」


クルッ。

アーシェは他のメイドを見つめる。

誰も視線を合わせようとはしない。


「いいや、彼女達は私と関わりたくないでしょ、私は平気だから外に出る許可をもらえる?」

「ええ、分かったわ。遅くなりすぎないように、気をつけてね、最近は物騒だから。」

「そうね、気をつけるわ。」


カチャカチャカチャ。

メイド服から私服に着替え、ツバ付き帽子を被る。



(よしっ、ここまでは順調ね。後は、イアから出る行商人について行かせてもらうだけ。)


スタッ、スタッ、スタッ。

アーシェは城下にまで向かう。



ザワザワザワッ。

いつも通りの賑わい。


その中をアーシェは1人、人混みを避けながら進む。


「こんなに人多かったかしら?誰か来てるのかしら?」

「今日は店じまいだよ!またたくさん持って来るから、次回に頼むよ!」


アーシェの進む先に、行商人が見える。

何かを売り終え、帰る直前のようだ。



「さてと、アテナイに帰るか。」

「あのっ。」

「ん?どうした?……あんた、人族か?」


行商人の男の目には、帽子を深く被ったアーシェの姿が。


「ええ、そうなの。訳あってここにいたんだけど、帰らなくちゃいけなくて同行してもいいかしら?」

「うん?アテナイにかい?まあ構わないが、半日はかかるぞ。」

「それで構わないわ、もし料金が必要なら少しは払えるわ。」

「そんなものはいらないよ、まあ、自分の食事は自分持ちで頼む。」


スタッ。

行商人が乗ってきた馬車にアーシェも乗り込む。


ガタガタガタッ。

馬車はゆっくりとアテナイへ向かい始める。



(良かった、町から離れることもなんとかクリアね。後は、どこかのタイミングでアテナイに1人で入り込めれば。)


「なあ、お嬢ちゃん。」

「はい?」

「少し聞きたいんだ。……今の魔族の国スパルタはどうだった?良いところだったのか?」

「……正直、良いものではなかったわ。魔王ハデスに変わってからは、より下剋上や争い事が増えていった、そんなことしても何も変わらないというのに。」


ギリッ。

アーシェの拳に力が入る。


「そうか、どの国も大変だな、アテナイも国王ラスト様の行動や言動がいきなり変わられてしまったせいで、争いが増えた。争いのない世界、なんてのは理想かも知んねえけど、やっぱり命が失われるのは辛いな。」

「そうね、けど、今の世界はその命を自分の思うように使えないものになってしまってるわね。」

「きみも、いろいろ経験してきたみたいだね。」

「……それなりにね。」



2人は落ち着いた道を進んでいる。

この世界のあり方を考えながら。




けれど、平穏は長くは続かなかった。


ガゴーンッ!ガゴーンッ!

少し離れたところから、爆発音のようなものがする。


「な、なんだ!?」

「この匂い、魔族の魔法ね、こっちに来るわ!」


ドダダダダッ!!

離れたところから、複数名の魔族が襲ってくる。



狙いは、この馬車のようだ。


「くそっ、なんで!しっかり捕まっててくれよ!」

「分かったわ。」


ピシッ!

ダダダダダッ!

馬車もスピードを上げて地面を強く蹴り、突き進んでいく。



「あれだ!あの馬車が町に来てたやつだ!狙え!」


ヒューンッ!!ヒューンッ!!

魔族達は火の魔法で進行を止めようとしてくる。



「くっ、今までなんともなかったのに、なんで今日に限って!」

「……私が追い払うわ、あなたは馬車に集中して!」

「君、なにを!」

「魔族は、私が止めないといけないの!」


ズザッ!

スタッ。

アーシェは馬車の上に乗る。


「うん?なんだあいつは?1人じゃなかったのか?」

「あなた達!なぜこんなことをするの!この馬車は、町に多くの繁栄をもたらしてくれているわ!」

「だから狙うんだよ!そいつは、たくさんの金を持ってる!それさえあれば、俺たちは遊び放題だ!」

「くっ、私利私欲に塗れて人を襲うなんて……同じ魔族として恥ずかしいわ。」


ヒュイーンッ!!

アーシェの手のひらに魔力が溜まっていく。



「あなたたちの愚かさを、その身で知りなさい!」


アーシェと魔族達の戦いは突如始まってしまった。

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