第9話 城で聞いてしまったこと
「あ、アーシアさん、かなり早かったのね。」
「これくらいならそんなに時間もかからないわ。それと、今日行われる会議って。」
「そう、それなのよ!なんでも、重役全員集まるらしくて、これから料理の準備しなきゃなのよ。はぁ、なんで今日なのかしら。」
「何か理由があるんでしょうね、私も手伝うから先行ってて。」
スタッ、スタッ、スタッ。
買ってきたものを別のメイドに渡し、アーシェは着替えに寮に戻る。
(全員が揃う会議、何かを始めようとしてるのは間違いないわね、こんな大きいチャンスは逃せない、早く行かないと。)
スチャッ。
ガサッ、ガサッ。
メイド服に着替え、アーシェは城に向かう。
ドダッ、ドダッ、ドダッ。
城の中では、多くのメイド達が会場の準備をして、料理を作り、ドタバタしている。
アーシェも王座の間までの道をきれいにする。
ピキーンッ!
すると、遠くから魔力を感じ取った。
(この感じ、かなり強い魔力。姿が見えてないのに、これってことはもしかしてーー。)
スサッ。
魔力を感じ取った方向を向く。
スタッ、スタッ。
少し先から歩いてくる2体の魔族。
(あれって!?)
先に歩いてくるのは、魔王ハデスの側近、エレボス。
血のバレンタインで、ザインを襲った張本人。
エレボス……白い羊頭の魔族。黒のタキシードを着て、口にはキセルを咥え、腰にナイフを2本携えている。
スマートな体からは予想できない筋力もあり、魔力、武力共に魔族の中でトップ争いをできる存在。
そして、その後ろを歩く魔族。
そう、ハデスである。
血のホワイトデイの実行犯。
アーシェの復讐対象。
ズーンッ!
ただ歩いてくるだけなのに、アーシェには圧力をかけられてるようにすら感じられた。
(これが魔王とその側近、いくら私でもこの状況じゃ部が悪い。)
スサッ。
アーシェは頭を下げ、2人を見送る。
ザワザワザワッ。
2人が何か話しているようだが、内容までは聞き取れない。
(くっ、まだチャンスは作れるはず。焦ったら負けね。)
スタタタタッ。
次の準備のためにキッチンに戻る。
「アーシアさん!そろそろコースを始めるから、サラダから持って行ってもらっていい?」
「ええ、わかったわ。」
ガタガタガタッ。
皿に乗ったサラダを台車に乗せ、王の間に向かう。
今日のサラダは、緑の野菜をメインに赤い野菜と黄色い木の実、オレンジ色のドレッシングがかかった甘い香りの中にスパイスを感じられるサラダ。
(料理を届けるだけじゃダメ、何か少しでも情報を集めないと。)
コンッコンッコンッ。
アーシェが王の間のドアをノックする。
「失礼します。」
スタッ、スタッ、スタッ。
アーシェが中に入る。
そこには、ハデスが奥に見え、ハデス以外に12人の魔族が顔を揃えている。
どの魔族からも、とてつもない魔力を感じられる。
会議ということもあり、緊張感も半端ない。
「お食事の準備ができました、これより始めさせて頂きます。」
「うむっ。」
スタッ。
カチャッ。
1つずつサラダを置いていく。
そして、最後のサラダを置く瞬間。
「のお、お嬢さん。」
「っ!?な、なんでございますか?」
ドクンッ!
アーシェの心臓が大きく響く。
(何かミスしたかしら!?バレる要素はなかったはずーー。)
顔を上げると、そこには金色の獅子の顔をした魔族が。
どの魔族よりも筋肉質で、顔を見ただけで子供は悲鳴をあげそうだ。
「おい、一応確認だが、まさか。」
「は、はい。」
ツーッ。
嫌な汗が流れる。
「サラダを食べなくては次の料理が出てこないのか?」
「……は、はい?」
「いや、どうも野菜がわしは苦手でな、肉を食べたいんだがこれを食べないと次に進めないとしたらどうしようかとな。」
「あ、そ、それはご安心ください。次のお食事と交換で持ち帰りますので。」
ニコッ。
大きな牙をのぞかせ、獅子の魔族は笑みをこぼす。
「そうか、ありがとうな。」
「いいえ、では私は、これで。」
スタッ、スタッ、スタッ。
アーシェは部屋を出て、足早にキッチンに戻る。
(ふぅ、危ない危ない、あの場で戦っても完全に負けは確定してる。……私の心臓は動いてる、焦ったら本当に負けね。)
次の料理を台車に乗せ、王の間に向かう。
スープ、魚料理、肉料理、メインディッシュ、デザートとと運び終わり、最後に食後のドリンクを運んでいた。
(途中途中の会話は聞こえたけど、そんな重大なものはまだ聞けてない。ただの飲み会……なわけないわね、最後まで油断したらダメ。)
キィーッ。
ドアを開け、1杯のコーヒーを全員の前に置いていく。
スッ。
配り終え部屋を出ようとしたアーシェの耳に、とある声が聞こえる。
「ハデス様、先程話してたザインの件ですが。」
(ザイン!?父上!?)
スタッ、スタッ。
アーシェは歩くスピードを遅める。
「ああ、そうだな。これまで10年、口を割らずに身内のことは何1つ聞き出せていない、次のやつの誕生日には終わりを迎えさせるとしよう。」
「っ!?」
アーシェは振り向こうとする自分の気持ちを押し殺して、部屋を出る。
バタンッ。
スタッ、スタッ、スタッ。
「生きてる、お父様は生きてる。だったら、お母様も生きてるはず。次の誕生日は……半年後ね。……待ってて、私が必ず助けにいくから。」
タタタタタッ。
アーシェの目には固い決意が。
彼女は会議のあった日の夜、行動を起こしたのであった。
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