59.穏やかで平和な景色
魔王ガブリエルが休んだのを確認し、バラムとデカラビアはそっと離れる。森の木陰で相談を始めた。
「人族が都から逃げぬよう、周囲を巡回するのはどうか」
「もし万が一にでも魔族に被害が出たら、気に病むぞ」
残す人族の選別はほぼ終わっている。現時点で灰の被害が及んでいない者は残し、それ以外は都ごと滅ぼす予定だった。大きな都とその周囲にある村や街は、すべて殲滅対象となる。
ここに来て、ぱらぱらと都を脱出する者が現れたのだ。都市部へ働きに出ていたが、今回の騒動で仕事がなくなり村に戻る者。稼げる場所を求めて移動する傭兵など。商人は情報に聡いため、魔族の動きを察知して引っ越しの手配をする者がいた。
見逃して生かすか、それとも脱出を邪魔するか。ここで迷うのは、どちらを選ぶかではない。離脱者の処理方法だった。都を出た者が地方の村に住みつけば、当然だが村に影響を与える。せっかく選んで残した善良な人族が汚染される、と考えた。
獣人であるバラムは巡回して、逃げる者を処理しようと提案する。だが吸血種のデカラビアは、魔王ガブリエルを気遣う。もし眠っている間に魔族に被害が出たら、自分を責める人だ。そんな危険は冒せないとデカラビアは考えた。
「ならば簡単だ。俺たちも協力する」
巨人族のバルバドスが口を挟んだ。体が大きいだけでなく、その皮膚は厚く硬い。戦うにしても、人族の攻撃を跳ね除ける強者だった。勇者やその従者となる戦士や魔法使いがいなければ、人族など蟻と同じだ。強力な助っ人の存在に、魔王の側近達は決断した。
「今夜から動くぞ」
「ああ、交代制にしよう」
監視して、逃げ出した者を捕まえる。処理するときは都から離れた場所で、ひっそりと。いくつか決め事を終えて動き出した。
「きゅーっ」
「しぃ、魔王様は休んでいるから」
捕まえた魚を献上するシュトリは、眠っているガブリエルに食べろと鳴く。慌てた水竜の子が止めた。すぐは食べない。そう聞いて、シュトリは生け簀を作り始めた。簡単そうに魔法で穴を掘り、水を流して魚を放す。
「……あいつ、魔法が使える種族なんだな」
遠目に眺めたバルバドスが呟くが、すでにデカラビアもバラムもいなかった。魔王の護衛に残った巨人は、眠る黒竜の近くに腰を下ろす。視線の先で、水竜達が滝壺に潜ったり、日向ぼっこをしたり、思い思いに過ごしていた。
「この後は総攻撃が待っているんだし、俺もしっかり休むか」
大きな欠伸をして、腕組みをする。河原の岩に寄りかかって、バルバドスは目を閉じた。穏やかな日差しが降り注ぐ中、はしゃぐ子竜やシュトリの声が響く。平和を体現したような光景だった。
人族を大きく減らせば、この光景は日常となる。ちらりと目を開けて周囲を確認したガブリエルは、深い息を吐いて回復に努めた。魔力が回復すれば、ちょうど頃合いだろう。人族も勇者も、ガブリエルの治める世界に必要なかった。
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