33.驚くほど快適な巣ができた
人族との戦いは、緊急事案ではない。少し時間を置いても構わなかった。彼らが自滅して勇者を処理するまで、どちらにしろ監視しかできない。そのため監視役が必要だが、翼手族と吸血種が名乗り出た。
「監視にかけては、我が一族が適任です」
翼手族の若者が胸を叩く。鳥の姿で人族の近くに舞い降り、様々な情報を入手する。夜でも視力が落ちないので、夜間の監視も可能だった。だが夜なら、吸血種の独壇場だ。デカラビアが名乗り出るより早く、同族の若者達が手を挙げた。
「俺達が頑張ります」
蝙蝠への変化も可能な上、魔力が豊富な種族なので魔法も使いこなす。夜闇に溶け込む能力は、魔族随一だった。
「そうか、頼む」
ガブリエルは彼らの能力と意気込みに頷く。しばらくは、拾った卵を温めるのに時間を取られる。手を貸してくれる魔族に任せるのも、上に立つ王の役目だ。ガブリエルはそう教わっていた。
本人は自覚がないが、先代魔王ナベルスはガブリエルを次期魔王候補として育ててきた。戦盤を使って、遊びの中で統治や戦いの基礎を教える。ナベルス自身も、同じように育ててもらった記憶があった。愛された記憶を受け継ぐように、幼竜を可愛がった。
父親からも溺愛されたガブリエルは、愛された記憶を持っている。だから殺伐とした戦いの傷痕があっても、魔族を庇護して王の地位を継いだ。愛すべき民を守り抜けば死ねると考えるのも、生きる理由を叩き込まれたためだ。
魔族が幸せになれるように、その先に自分の幸せがあることは気づかないフリで。ガブリエルは皆の厚意を素直に受け取った。手本にしたナベルスが愛された王だったから、自分もそれを踏襲する。
「魔王様、巣材にこれもいいと思うんですが」
翼手族が、羽毛を持ち込んだ。自分達の巣穴に溜まる羽根は、ある程度の量になると廃棄する。邪魔になるため燃やしてしまうのだ。廃棄前に受け取って、自分達の巣に活用する魔族もいた。竜族もその一つだ。自らは鱗に覆われて寒さを感じにくいが、卵はそうはいかない。
見慣れた羽毛を受け取り、感謝を口にした。同じように獣人族が冬毛を差し出す。これらは糸にしてから布のように織って活用されてきた。獣人族はこれらの毛の対価に、他の種族から道具などを得ている。貴重な収入源だ。
「これを使ってしまうと、困るのではないか?」
「いえ、これらは使わない部分なんですよ」
狐尻尾の女性は、穏やかに首を横に振った。短い毛や硬い毛は捨てられる。そう説明を受け、捨てるくらいなら敷き詰めて利用して欲しいと言われた。厚意なので、素直に受け取るべきか。迷ったガブリエルだが、これまた礼を言って運んだ。
器用な森人族が木材を編んだ蔓で固定し、卵が二つほど入る大きさの巣が作られる。底へ獣人族から貰った毛を敷き、羽毛を散らした。快適そうな巣を眺めていると、卵が運ばれてくる。上下を確認し、巣に載せた。
「後はガブリエル様が温めるだけだ」
「あ、巣を空ける時は手伝います」
同族のドラゴンからも強力の申し出があり、ガブリエルは肩の力を抜いた。これなら無事、孵化させることができそうだ。
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