幕間
商業ギルドより工房許可を得てからおよそ2年が経過した。
最初はあまりお客が来ず、来たとしても店員や作業員がまだ子供だということに気が付くとすぐに店から出ていく人も多かった。
しかし、なかには販売されている商品の良さや付与に気づいて常連になってくれる人もいた。
そんな人達の口コミによって新たな客が来て、と良い循環によってそれなりに繁盛していた。
「ほら、これが噂の…」
「ああ。付与付きの装備か。にしてもここにあるのほとんどがそうなんだろ?すごいよな…」
「付与がある分少し割高だけど、それでも十分な性能があるからねー」
「試しに使ってみたりとかはできないのかな…」
「そこに試供品があるからそれを裏でなら使っていいみたいだよ」
「そうなのか、ちょっと試させてもらうかな」
そう言いつつ一組の客は支給品の武器を手に裏へと回っていく。
「このかばんデザインかわいくない?」
「そうだねー。でもちょっとお高いなぁ…」
「あ、これ内容量増大の付与付きなんだって。付与がついてないのは…あ、こっちにあった」
「ほんとだー。これなら買えそうだね」
二人組の女の子たちがきゃいきゃいと他のバッグも手に取っていた。
「う…このワンピースいいなぁ…この淡い色使い…結構好みなんだけど、これならあの帽子とも組み合わせたい…でも、一緒に買うとさすがに予算がなぁ…」
木製で作られているマネキンにセットで着せられている服や帽子を眺めながら女性が悩んでいた。
「すいませーん」
そんな店内が賑わう中、カウンターのほうで男性の声が聞こえてくる。
「はーい、いかがなさいましたか?」
トリスが店の奥から出てきた。ちょうど品出しのために奥に行っていたようだ。
「付与についての相談も受け付けていると聞いたんですけど」
「あ、はい。少々お待ちください。師匠、付与のご相談だそうです」
「ん?はいはーい」
トリスに呼ばれクレイが店の奥から出てくる。
「お待たせしました。付与の相談とのことですが、どういう付与がご希望とかございますか?」
「あ、はい。これなんですけど…少し自分には重くて、軽くすることってできますか?」
「可能ですよ。ちなみに全体的に軽くしたいですか?それとも部分的にですか?」
「全体的に少し軽くしてほしいんですが、できますかね?」
「ええ、可能ですよ。ちょっと重さのほうは調整が必要なので少しずつ軽くするようにしましょうか」
「お願いします」
「承りました。では少し調整も必要なので裏へと回りましょうか。付与ならそこでもできますので、そこで少しずつ調整していきましょう。トリス、こっちは任せるね」
「はい」
トリスに表を任せ、クレイは客と建物の裏に設営した試供場へと向かう。
これもよくある日常の一幕。工房を営業するようになり、いろんなお客さんが来てくれるようになって流れるようになったいつもの日常。
平日は忙しく工房を経営し、休日にはそれぞれが自分の制作の腕を磨く。そんなありふれた平和な日常が過ぎていった。
「なあ、おい知ってるか?」
「なにをだ?」
とある街のとある酒場。賑わういつもの酒場内でよくある噂話が流れていく。
「どうも最近、どっかの工房で付与をしてくれるクラフターがいるって話だぜ」
「クラフターの付与だぁ?あれってすぐに剥がれて使い物にならねぇもんだろ?」
「それがどういうわけかその付与に関しては効果がはがれることがないらしい」
「効果が剝がれないって…ずっとその付与が続くってことか?」
「らしいぞ。しかもそのクラフター、まだ若いのに様々な付与を自在に付与してくれるって話だ」
「まじかよ。それってどこにあるんだ?」
「えっとたしか…」
そんな話を小耳にはさみながら一人の男が静かに酒を飲む。
噂として流れてきたその話、そこに出てくる町の名前を耳にしたとたん、男の酒を飲む手がピタリと止まった。
懐かしい町の名前を聞き、男はふと郷愁にふける。
「……久しぶりに帰ってみるか…。あいつらがどう成長したかも見てみたいしな」
そう呟き、男は酒を一気に呷る。そして会計を済ませて酒場を後にする。
「さて…クレイ、レン、シェリー、アルマ。お前らがどう成長し、どんな物を作り上げているか楽しみにしているぜ」
そう呟き笑う男の顔には獰猛ながらも優し気な笑みが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます